天使の梯子
「今度着陸する星にはなにか名物はあるかな?」
船長兼夫のジェイコブが言った。
「惑星ベテル。宇宙開発が盛んらしいわ」
私はデータベースで調べてそう言った。
「未開人の星じゃなければそれでいい。商売ができるだろう」
私は無言で肩をすくめた。
一度、未踏惑星に降り立ったときにえらいめにあったのだ。文明はある程度発達していた方が私たちには都合がよかった。
ところが、地上に着陸した途端、ジェイコブと私は囚われてしまった。
「言語翻訳機は?」
「今作動させるわ」
どうやら、宇宙船を地上に直に着陸させたことで怒られているらしいことがわかった。
人々は天にそびえ立つ塔を指差した。
「ありゃ軌道エレベーターだな」
ジェイコブが言った。
ということは、あの頂点に中継基地があるのかしら?でも、宇宙から見たときにはそれらしい影も形もなかったし、通信も何も入らなかった。
「通信の周波数が違うとか、なんか未知の原因だな」
ジェイコブは宇宙船の貨物からとっときの酒樽を出してもらい、それと引き換えに私たちは自由の身になった。
「これの頂上に行くにはどうしたらいい?」
えっ、これ昇るの?現地人に尋ねているジェイコブの言葉に私は蒼白になった。
どう見ても原始的な方法で梯子を昇降してるんですけど!
「あなた。私は行かないわ」
「ちぇっ。じゃあここで待ってろ」
ジェイコブは梯子を昇っていった。姿が見えなくなると、私は宇宙船に戻り、軌道エレベーターらしきものの分析を始めた。
「なーんもなかった」
「でしょうね」
この天使の梯子は、昇っていくといつのまにか降りてくる仕組みになっていて、軌道エレベーターとは全く違うのだ。
現地人に尋ねてもさっぱり仕組みがわからない。
「アトラクションか?」
ジェイコブはぶつぶつ文句を言った。
「宇宙にはまだ科学で説明がつかない事象が・・・」
「フツーの神経だと発狂するぜ」
「商売はするの?」
「やめとこう。どんな目に遭うかわからんぜ」
「じゃあ、次の星に行く?」
「そうすっか」
煙に巻かれた出来事だった。