表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

1-09:決意と涙


 チャイムギリギリに教室に入ってくる雪くん。楓くんが居ないことは分かっていた。


「まただ……」


 私の呟いた声は、私の内側に響いて、しばらく残っていた。


 * * *


 1時間目が終わってすぐ、私たちは琴美の席に集まった。


「どうだった? 千くん」

「ダメだわ……。鍵も開けてくれねェし」

「そっか……」

「担任は風邪だってっつってるけど、絶対違うよね」


 琴美の言葉に、ユキくんは即答する。


「当たり前じゃん。風邪だったら連絡来るっての」

「だよね……」

「沙ぁ夜ー。そんな暗くなんないでよー」

「ゴメン……」


 その時、私たちの、正確には雪くんの真後ろで、誰かが立ち止まった。

 雪くんが振り返った。


「うわッ、びっくりした……夏姫(なつき)かよ……!」

「……何してるの?」


 (こよみ) 夏姫さん。学年トップの才媛で、私たちとは別のクラス。雪くんと仲が良いらしいけど、なんだか近寄りがたい人。

 独特の……オーラ? みたいなのが出てて、ちょっと怖い感じがする人。


「丁度良いや。桜ちゃん、木ノ瀬。夏姫なら話してもいいよな?」

「え、別にいいけど……琴美は?」

「お、おっけー」

「んじゃ、夏姫。ちょっと重い話なんだけどさ」


 雪くんが暦さんに説明してる間、私は琴美と話す。


「な、なんか、暦さんって、喋りにくくない?」

「え、そう? まぁ最初見たらそう思うけど、結構フツーだよ? 優しいし、カンニングさせてくれたし、」

「……」

「それに、なっちゃん……夏姫のこと皆そう呼ぶんだけど、ちょっと寂しがりなんだって。自分で言ってた」

「へぇ……」

「自分で言うって何か変だけど、そーゆー風に自分のダメなトコ言えるってイイと思うな〜」

「うわぁ……琴美マジメなコト言ってる……」

「別にいいじゃん」


 後ろで話し声が止んだので、私たちは2人の方を向く。


「雪くん、終わった?」

「おう」

「おっけー。早速だけど、アイツどうしたらいいか、なっちゃんなら判んない?」

「……」


 考え込む暦さん。しばらく考えて、そして、


「……メール、は?」


 雪くんが、がっかりしたように暦さんに答える。


「ゴメン夏姫。アイツ、ケータイ電源切ってんだ」

「……でも、メールは残るから、もしかしたら、見てくれるかもしれないし……」

「う〜ん……。確率低いけど、やってみっか」


 そうゆうワケで、メールを『4人で』書く事になった。


 * * *


 昼休み、雪くんが私を急かしている。


「そろそろケータイ返してくれよー」

「もうちょっと待って」


 私は、一時間目の休み時間からずっと、雪くんのケータイを借りていた。楓くんは雪くんのアドしか持ってないから、私たちが掛けても、無視して消されるかもしれないから。

 寄せ書きのようにして、1つのメールに、4人分の言葉を書いている。


「何て書けばいいか判んない」

「何でー? そのまま思ったことを書けばいいじゃん?」

「そうなんだけど……」


 延々とメールと格闘する私を見て、雪くんと琴美は溜め息をついた。


「じゃあ、オレちょっと購買行くわ」

「私もー。沙夜ー、頑張ってね〜」


 * * *


 私は、それから何度もメールを書いて、消して、また書いて、また消して。何度も繰り返して、また元に戻して。

 昼休みが終わっても、私はまだ、楓くんに何て言えばいいのか分からなかった。


 * * *


 5時間目の休み時間。まだメールを考えている私は、ふと隣を振り返った。

 いつの間にか、暦さんがそこにいた。


「……あ、暦さん」

「……えっと……桜坂さん」

「あ、沙夜でいいよ。あと、私もなっちゃんって呼んでいい?」


 暦さん、改めなっちゃんは、小さくうなずいた。


「……沙夜さん」

「なーに?」

「……あんまり、深く考え過ぎない方がいいと思う」

「?」


 よく分かっていない私に、なっちゃんは言葉を続ける。


「シンプルな言葉を送った方が、きっと向こうも元気付けられると、思う。……私の勝手な考えなんだけど」

「……」

「雪人くんも、琴美さんも、結構平気な顔してるけど、実は辛いと思う。特に、雪人くんは。……楓くんのこと、親友だって、前言ってた。軽く考えてるんじゃなくて、信頼してるんだと思う」


 私の心を見透かしたかのような言葉に、私は凄く驚いた。

 確かに、2人はあんまり楓くんのこと心配して無いなーとは思っていたけど、でもそんなこと、誰にも言ってない。

 余計に頭がぐちゃぐちゃになってしまった。


「……そうなんだ。よく分かるね……?」


 私の返答に、なっちゃんは、微かに微笑んだ。


「……琴美さんが、そう言ってた。沙夜さんって、顔に出る方?」

「えっ、えっ……?」


 何もかもお見通しみたいだった。ちょっと悔しい。


「……もうすぐチャイム鳴るから、クラスに戻るね」

「あ、うん……アリガト」

「……急いだ方が、いいよ。メール」

「分かってるよ」


 私が微笑むと、向こうも微笑んでくれた。なっちゃんとは、うまくやってけそうだ。


 * * *


「……お前、これ彼氏に送るみたいになってんぞ?」

「へ?」

「どれー見せてー……。うわぁーお」

「……これは……ちょっと……」


 私が6時間目を仮病でサボって書き上げたメールは、皆から微妙な反応を受けた。


「別にいいじゃん! 早く送ろうよ」

「いいのか? これで?」

「沙夜は楓くんラブだからいいんじゃない?」

「琴美うっさい」

「……」


 雪くんがケータイをムダに高く掲げた。


「送ッ信!!」


 教室のど真ん中で。


「……ゴメン。ちょ、皆、引くなって」

「……自業自得」


 なっちゃんの、ぼそッと呟くつっこみが痛い。


 * * *


 帰り道。私と琴美は、もう雪がすっかり融けた、歩道を歩いている。


「……届いたかな? メール」

「届いても読まれなきゃイミ無いんだけどねー」


 琴美の声にはまったく緊張感とか心配とかは見えなかった。ホントに無いのか、私がニブいのか。


「……琴美。心配じゃないの?」

「ちょっとはね〜。でもさ、心配してもしょうがないじゃん? 」

「そうだけど〜」

「それにー、なんか、心配って、暗くなっちゃうじゃん。テンション明るくしないと、戻ってきたときにアレだしさ」

「ふぅ〜ん……」


 私は視線を足元に向けて、琴美と並んで歩く。


「……そんなに楓くんのこと心配?」

「……まぁ」

「もう付き合っちゃえよ沙夜。沙夜絶対楓くん好きでしょ?」

「全然」

「言い切るなよー。素直じゃ無いなー」


 琴美はそういうけど、実際違うし。

 好きとかそーゆーのじゃ無くて、なんか、別のこと。


 約束ってゆーか……誓いってゆーか。


「雪くんに頼んで、メール追加でコクる?」

「……」


 * * *


「……」


 読み飽きたマンガを読み終わって、オレはベッドに仰向けに倒れこんだ。

 担任には風邪だって言っておいたから、明日には学校に行かないとマズい。バレたら面倒だ。


「……ケータイ、そろそろ見てみっか……?」


 ここ3日ほどずっと切っていたケータイの電源を入れる。メールを流し読みして、屋上の話題が無かったら、学校に行けばいい。


 正直言って、オレは、何で学校をサボってるかすら、分からなくなっていた。


「オレ、何してんだろ……?」


 ケータイの電源を入れて出る暗証番号。思い出すのに10数秒掛けて、やっと待ち受け。雪人から送られてきたよく分からないバンドの写真が出た。

 写真の端っこに『Dir en grey』と書かれていて、オレは少し笑った。全然気付かなかった。


 そうか、これが雪人の好きなバンドか。


「……」


 メールボックスを開いた。メールは全部で3通。全部雪人からだった。


 ピッ


『楓! 逃げてんじゃねーよバカ! 言いたくないんだったらその理由ぐらい言えよ!』


 2日前のメールだった。オレが休んだ初日。


「心配、してくれてんだな……」


 ピッ


『今からお前ン家行くから、チャイム鳴ったら絶対出ろよ!!』


 昨日のメール。


「あのメチャクチャな奴、お前かよ……」


 思わず苦笑する。


 そして、最後のメールを開いた。


 ピッ


「うわっ……なんだコレッ。寄せ書きかよ? 雪人と木ノ瀬、あと、暦? 何でアイツ……?」


『雪人:早く学校来いよ! 話あるからな!』

『木ノ瀬:気持ち落ち着いたら、学校来てね! 皆待ってるしぃ♪』

『暦:皆心配してるから、頑張って』


 そして、一番下に、


『桜坂:気持ち分かるよ。待ってるから、学校来て。あと、殴ってゴメン!』


 ピッ


「……」


 読み終わった途端、すっげェ嬉しい気持ちになった。

 変かもしれないけど、メチャクチャなことしてるオレが、まだ見捨てられてないのが、凄く嬉しかった。

 ヤベェ、ちょっと泣きそう。


 ただでさえ傷心してたのに、こんなのきたら涙腺がヤバい。


「……明日、学校行くかな……」


 呟いた後で、自分が言ったことに気付き、少し嬉しくなった。久々にこんな気分になったような気がした。


 明日、アイツ等に話そう。オレが、何やってたか。


 そう思って、オレは返信せずに、ベッドから起きた。


 顔でも洗うか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ