1-08:話も出来ない
「ダメだ。まだ電源切ってる」
そう言って、雪くんはケータイを閉じた。
「どうするの? 千くんは、また楓くん家行くんでしょ?」
「ああ」
「沙夜〜? どうする? 一緒に行く?」
「えっ?」
急に話を振られた私は、もう一度聞き返した。
「だから〜。楓くん家に一緒に行こうかって」
「えっ、でも……私が行ったら逆効果じゃない?」
まぁ、一理あるな、と雪くんが言った。
「お前殴っちゃったんだって? 楓のこと」
「……だって、メチャクチャなんにも言わないもん」
「まぁ、アイツは基本無口だからな。今までアイツの秘密なんて聞き出せたこと無いし」
「えっ? それじゃあ、今回もムリじゃないの?」
琴美が言った。雪くんはそれに答える。
「かもな。でもさ、このまま放っといても後味悪いだけだし。せめてアイツが何やってたかぐらいは聞きたいし」
「だよねー。つーかさ、沙夜」
「えっ何?」
「何でアンタはあの時屋上に行ったの?」
琴美が、今更ながら質問してきた。
「……屋上の扉の近く歩いてたら、扉開いてるのに気付いて、閉めようとしたら丁度楓くんが見えた……ってトコ」
「ふーん」
興味を失くしたような返事をして、琴美は雪くんと話し始めた。
* * *
「やっぱり行くのやめるよ」
「何で?」
「私たち、やっぱ部外者ってのかな。だからさ、何か行ったところで気まずくなるだけだと思うし」
「そっか。分かった。じゃあな」
「うん。分かったらメールしてね」
「おう」
* * *
オレは、2人と別れた後、楓のケータイにメールした。
『楓。今からお前ン家行くから。鍵開けといてくれ』
わざわざ知らせる必要も無いと思うが、昨日行った時は中に入る事すら出来なかったから。
楓の家に着いたらすぐ、オレは鍵が掛かっていることに気付いた。
「またかよ……」
中から話し声はまったく聞こえない。それどころか、音がまったくしない。
「これじゃ、ただのヒッキーじゃねェかよ……!」
オレは、鍵の掛かったドアノブをメチャクチャに回し、何度もインターホンを鳴らし続けた。10回ほどで、オレは諦めた。
「……」
オレはただ、呆然とドアの前に立っていた。
楓が何で、こんな急に変わったのか、オレにはまったく分からない。
ただ、ただ何となく、『オレが悪いんじゃないか』という思いが小さくあるだけだった。
「……」
インターホンが壊れるまで押そうかとも思ったが、やめた。
怒りが冷めたオレは、最後に1回だけインターホンを押して、それから家路へと戻った。
「楓……」
どうして、屋上に居たんだよ?
何で、理由教えてくれないんだよ?
そればっかりが、頭を巡っていた。