1-12:sing a songs
「おはよ」
「ん。おふほ、沙夜」
私が挨拶すると、琴美も挨拶を返した。大分くぐもった声で。
口もぐもぐさせながら。
「何食べてんの?」
「パン。朝メシ突っ込んできた」
「……」
行動力があるっていうのか、こーゆーのは。とりあえず、パン(口からはみ出してる)をくわえたまま歩いてる人を初めて見た。
「……すごいね」
「アリガト。沙夜も食べる?」
「え……まだあったの……遠慮します……」
「そう? 結構イケんのに」
そう言って琴美は制服のポケットから、袋に入ったままのちっちゃいメロンパンを出して、かじる。
「朝ぐらい抜けばいいじゃん」
「朝は食べる。これ、私のポリシー。うん? モットーかな?」
口をもぐもぐさせながら喋る琴美。ちょっと見たくないものが見てしまう。
「飲み込んでから喋ってよ……。口の中グロいよ」
「ん。ソーリー」
こーゆーとこ無かったら琴美はモテるのになぁと、ちょっと思った。
「うにゅ。そう言えば」
「ちゃんと飲み込んで」
またグロいのが見えた気がする。
「――ゴクン。そう言えば、楓からメールとか来た?」
「え? 何で?」
「来てないの?」
「うん」
「そっか。残念」
「?」
小首をかしげて、琴美を見る。
「何で残念なの?」
「なんでって? それはねーぇ」
「……やっぱ言わなくていい」
「照れるな照れるなー」
……。
「アイタタタ。髪引っ張んないでよ〜」
「引きちぎってやる」
「ぎにゃぁ!!」
……琴美って髪長いほうだから、やり易くていい。
「沙夜ぁ!! いーかげんーー!!」
* * *
楓くんと雪くんが相変わらずギリギリに入ってくると、先生もすぐに入ってきた。
「センセートイレ行って来ていいっスか〜?」
「来る前に行かないからだろ。はい起立」
がちゃがちゃがちゃっがしゃん。椅子の引く音、時々倒れる音。
「礼っ」
先生の頭が、ハゲが全員に見えるぐらいに下がった。
でも生徒はもう見慣れてるから吹かない。でも面白いから礼はしない。ガン見。
「着席」
がっがっがーー。椅子に座る音、時々引きずる音。
更に時々、倒れる音。
「いてッ!!」
雪くんでした。
「バカだろお前?」
「うわっ」
「ちょお、それダサいだろ」
「千空、何やってんだ」
「いってぇ〜」
* * *
「違うって、絶対誰かに椅子ずらされたんだよ」
「誰かって、誰?」
「楓とか」
「オレ席遠いからムリだろ」
「自分でやったんじゃない?」
「琴美、それは無いよ」
「う〜ん」
ホームルームが終わって、3人とも雪くんのトコに集まる。
雪くんは背中が痛いとか呟いてた。
「じゃあ何で座るときにコケんだよ?」
「知らねーよ」
「あっ、なっちゃん」
「……何してるの?」
夏姫……じゃなくて、なっちゃんが来た。
「雪人が着席の時に盛大にコケた理由を話してる」
「……まぁ、雪人ならしょうがない」
「何で!?」
笑う3人、慌てる1人。出会ってすぐだけど、なかなか仲良くなれたなぁ。
ちょっと嬉しくなった。
「何ニヤけてんの?」
「うん、別に?」
「見とれてたんだぁ。ねぇ楓くんの笑顔どうだった? けっこうレアかもよ? あんまり笑わないし」
「え、どしたの? なっちゃん?」
「……沙ぁ夜ぁ〜」
ここ10日ほど変化しない琴美のセリフを受け流して、なっちゃんの方を見た。
「……耳貸して」
「? うん」
右耳をなっちゃんのほうに向けると、なっちゃんはゴニョゴニョと、聞き取りづらい声で言った。
「……雪人、椅子引いたの、私でした」
「……マジ?」
そーいや、なっちゃんの席は真後ろだなぁ。雪くんの。
そう思っていると、なっちゃんは立てた人差し指を口元まで持っていった。かわいい仕草だけど、顔が超真剣でギャップあり過ぎ。
「……内緒」
「うん。分かってるよ」
私の返事に対して、微かに微笑を浮かべる、なっちゃん。
いい人だなぁ。
……いい人? 雪くんの椅子を引っ張ったのに?
……。
……ま、そんなこともあるだろぉ。
* * *
今日は土曜日だから4時間目で終わり。
そしてオレは、前々からの計画を持ち出した。
「カラオケ?」
「そ。沙夜も行くよね?」
「いいけど」
「じゃあ、4人で行くということで」
「? あとの2人って誰?」
「雪くんでしょ」
「うん」
「楓くん」
「……」
「ふふっ。今からキャンセルなんて不可能ですぞ?」
「私今日ちょっと行くトコあるんだけど」
「あとあとっ! 後回しっ! 早く行こーぜ!」
「はーい……」
* * *
「カラオケ?」
「そう。ちなみに拒否権無いから」
「無いのかよ」
「既に売り切れだ」
「あっそ。別に予定無いけどな」
「木ノ瀬と桜ちゃんも連れてくから」
「……」
「うわっ、びっくりした……夏姫かよ」
「……私も行く」
「えっ?」
「……」
「う、分かったって。睨むなよ、怖いから」
「じゃあ5人で行くのか?」
「ま、そーなるな」
* * *
ただいま午後の1時30分ちょうど。
私の時計は絶対に狂わない電波時計なので。
「ケータイの時計じゃダメなの?」
「狂うじゃん。私は分刻みの東京人に憧れてるだよね」
さて。現在待ち合わせ場所のカラオケ前には私と沙夜となっちゃんだけ。要は女性組み。
男性諸君。遅いぞ。
「おっかしいなぁ? 何で来ないんだろ?」
「待ち合わせギリギリに来た琴美が言うのは変だなぁ」
「変じゃないもん」
「……電話したら?」
「結局そーなっちゃいますぅ?」
千くんのケータイにTellしてみる。
プルルルルッ。ガチャッ
『何?』
「あっ、思ったより早く出たね。びっくりした」
『はぁっ? お前ら何処に居んの?』
「カラオケの前ぇ」
『マジで? メシとか食わねェの?』
「カラオケで一緒に食べればいいじゃん」
『んじゃ、それで。今から行くわ』
「おっけー。んじゃ切るねぇバイバーイ」
『おう』
ガチャ
「うん、今から来るって」
「あっ琴美、来たよ2人とも」
「はっ!? 早ッ!」
電話切ってから数秒で彼らは姿を現した。
特別急ぐ様子も無く、やけにゆっくりと歩いてくる。急げよ。
「ごめぇーん。遅くなりましたー」
「分かってるなら走れー!!」
「イエッサー!」
そう言っても早歩き程度で、なぜか残り5mだけを走ってきた。
「早かったね?」
「ああ、近くのファミレスだったから」
「……この近くにファミレスとかあったっけ?」
「……無い」
「まぁ、細かい事気にするなよ。な? な?」
「雪人がドッキリしようとか急に言ってきて」
「楓ッ!!」
ドッキリ?
「何でそんなコトすんの?」
「いや、なんとなく」
「めんどくさっ。プラス絡み辛っ」
結局その場はうやむやになった。後で楓くんから聞くと、単に「待ち合わせ場所を忘れてしまい、適当に周辺を歩いていた」だけみたいだった。
何でウソつくかなぁ。
* * *
16号室は程よく遠くて覚えにくいところにあった。
「じゃあオレから歌うわ」
そう言ってリモコン(あってる?)で空で番号打つ雪くん。もう冊子見なくても覚えてるんだね……。
始まったのは、3分弱の、テンポの速めの曲。
「あ、意外とウマい」
率直に感想を述べた。隣を見ると、琴美はマイク握ってハモっていた。
こうやって見ると、なんだか付き合ってるように見えるのは、気のせいかな。
「……」
右隣のノリノリの琴美とは対照的に、ケータイ開いて何かしてる、左隣なっちゃん。
「何してるの?」
「……」
画面を覗き込むと、びっしりと文字の羅列。
「……小説?」
「うん」
「読んでるの?」
「うん」
「歌わないの?」
「……苦手」
「そっか。ゴメンね」
「うん」
またケータイ小説に没頭するなっちゃん。暇になる私。
楓くんの方を見ると、歌う曲を入力していた。楓くんって、何歌うのかな?
あ、決まったみたい。
***
ノリノリで歌う琴美。最後の大サビだもんね。
でも雪くんのマイク奪ってソファに立ってジャンプしながら歌うのは止めようね。ほら、ソファ汚れるしマイク2本だし雪くん泣いてるし。
そんな2人をほほえましく見ていると、私にボード(っていうか、あの歌入れるタッチパネルついたやつ)が差し出された。
「……」
楓くんが差し出してた。何か言ってるけど、大声と大音量で聞こえない。でも大体分かるよね。「お前、歌わないのか?」とか、そんなのだと思う。
「ありがと」
私はそう言って受け取ったけど、多分楓くんも聞こえてないと思う。でも楓くんは微かに微笑んで、そのボード(?)を渡してくれた。
「「ひゃっほう!!」」
最後は琴美のソファに穴が開いた。
* * *
「わっスゴーイ。発音きれー」
ゆっくりしたリズムとギターリフ(音悪い)。琴美の声も充分聞き取れた。
「英語の歌とか歌うんだー」
「英語ってもJ-Rockだけどな」
私の言葉に雪くんが返す。私は英語が嫌いだから、英語の歌なんて歌えない。
楓くんはスラスラ歌っている。それにけっこう高音でもきれいな声で、ちょっと羨ましい。
「次は沙夜が歌えよ〜」
「私? 私得意なのあんまり……」
私が口ごもっている間に、ボード(?)に入力していく琴美。そして送信された。画面に映るのはラッドウィンプス。
「頑張って♪」
琴美の満面の笑顔。
* * *
途中から一気にテンポが上がって、楓くんも声のトーンを落とした。
でもやっぱり上手いなぁ。
ちなみに雪くんが途中からハモっている。
「~♪……っと」
歌い終わると、楓くんは少しだけ満足したような笑みを浮かべた。
「楓って歌上手いんだね〜」
「上手かった?」
琴美の声に、こっちを振り返る。
「うん。上手かったよ」
私が答える。楓くんは照れたように微笑んだ。
その時私の傍で「やるじゃん」的な声が聞こえたので軽くつねった。
「痛いっ」
「なっちゃん? ホントに歌わないの〜?」
「うん」
これは、なっちゃん。
「無視?」
「うん」
今のは私。
* * *
ゆっくりとしたバラード。好きな歌なんだけど、歌うのはまた別の話。
というか、私はあんまり歌うのは得意じゃない。ノド枯れやすいし。
隣で琴美の満面の笑みが見えて、ちょっとイラっとする。
雪くんは次の曲を入れてて、なっちゃんはケータイ小説。
楓くんは画面を見ていた。
なんだか全然盛り上がってないなぁ……。バラードだから当然だけど。
それで、歌っていくうちに、琴美がマイクを握りだした。
私は地味な方。
「どう、楓くん。沙夜の声〜」
「は?」
予想通り。楓くんの驚いた顔もそうだけど、琴美の言葉もね。
「琴美、絶対そーゆーの聞くと思った……」
「いいじゃ〜ん」
へらへら笑う大親友。
「で、どうだった?」
「……フツーに上手かったけど?」
「あ、ありがと」
「……私も、そう思う」
「ありがと。なっちゃん、聞いてたんだ」
褒められた〜。
* * *
雪人が連呼している頃、オレは横に座っている暦の方を向いた。
相変わらずケータイ小説を読んでいる。
「……歌わないのか?」
オレが聞くと、暦はこっちを向く。無表情で頷く。
「……そっか。ならムリには言わないけど」
「……ねぇ?」
オレがそう言って顔を戻すと、向こうから声を掛けてきた。
「何?」
「……コレ、歌ってみて」
「どれ?」
渡されたボードには、『キセキ』の文字が。GReeeeNだな。
「……別にいいけど、何で?」
「……何となく」
「何だそりゃ」
そう呟いて、送信した。
……16曲目だな。
*****
「……ふぅ」
16曲終わって、やっと『キセキ』だ。ちなみにラストの曲だ。
「楓か? はい、マイク」
「サンキュ」
「あ、これ沙夜得意じゃん、歌いなよ〜」
「えっ、いきなり言われても……ああ、ええっと」
キレイにハモった。
……木ノ瀬と雪人が笑ってるのは、スルーだ。
* * *
琴美と雪くんがニヤけてるのをスルーして、私は歌に集中した。
大サビ入りま〜す。
キレイにハモれてるからよかった。ちょっと歌声にはコンプレックスがあるのかな? 私。
ふと楓くんの方を見ると、向こうと目が合った。
楓くんがニッコリした。思わず、私もニッコリした。
結局最後まで歌いきって、琴美に散々冷やかされた。私はそんなんじゃないのに。
* * *
「お疲れ〜! 腹減った〜!」
「減った〜!」
「結局何も頼まなかったもんね……」
「……」
「じゃあ、どっかで食べて帰るか?」
楓くんの意見に、皆賛成する。
今日は結構楽しい一日だった。
* * *
「明日〜今日よりも好きになれる〜♪」
「琴美? いい加減にしよう? ね? ね?」
「ふぁい、いふぁいでふ、沙夜」
[Black and White]初の後書き。
この12話目で、20もの曲が出てくる予定でした。歌詞を調べては書き写すという、ムダな努力をした結果、「この部分要らんくね?」という思いに囚われ、ムダな努力はボツりました。
今のマイブームはバンプのDANNYです。隠しトラックなのが勿体無い。
そしてお知らせ。
この小説ですが、一応長く続ける予定だったんですが、僕が飽きてしまいました。
という分けで、特に要望が無い限り、14話ぐらいで打ち切るつもりです。
「私も。」は、当分更新できません。作者が書き方を忘れてしまったので。
「アンダーク」は今のところ未定。
という分けで、「まだ見たい!」という方が居ない限り、打ち切っちゃうのでゴメンなさい。
それで、最後に世間話ですが。最近ギター弾いてたら2弦切れちゃいました。張り替えるの面倒ー。
2011/7/30更新
利用規約改悪に伴う歌詞部分の削除。