依頼達成
ゴブリンの耳を回収し、残りの死体を全て燃やし尽くす。
「終わったのか?」
「ああ」
洞窟の外ではシーク達がゴブリンを火葬している最中だった。
メラメラと燃え盛る炎は黒い煙を上げながら空へと消えていく。
「耳の数は?」
「外にいたのは32匹だ」
ネイルは耳を纏めた袋を取り出す。そこに洞窟内で倒したゴブリンの耳を足して、合計で109匹分の討伐証明部位が集まった。
「中に生存者は?」
「いない」
俺の答えにシークが苦虫を噛み潰したような顔をする。注視すれば拳が震えるほど握りこまれていた。
俺たちの帰り道はとても雰囲気が悪かった。別に誰のせいという訳では無いがここまで落ち込まれると困る。
俺は今パーティの最後尾ルサの後ろを歩いている。
距離をとられている、のだろう。
あの状況で俺が戦うのは最善だった。俺が戦わなければパーティは全滅していた。俺以外は。
流石にそれは後味が悪い。パーティが死ぬのを見届けてからゴブリンを殲滅するなんて非道なことは出来ないからな。
それでももう少しやり方があったのだろう。
こいつらの精神面まで考えて行動してやれば良かったかもしれないな。俺にはそれが出来たのだから。
俺は少しだけ後悔とは違うが、それに似た感情を抱いた。
こいつらのトラウマにならなければいいが。
俺はそれだけを祈った。
村まで戻ってきた時のこいつらの落ち込みようはさらに酷かった。
村の女性達を救えなかった罪悪感から落ち込むシーク達を何故か村人が慰めていたほどに。
本来であれば身内を失った村の人達が悲しいはずだが、ゴブリンに攫われてから時間がかかったため覚悟は出来ていたということだろうか。
村の人間に軽く会釈をしていき足早にその場を去る。
「依頼完了です。お疲れ様でした!」
受付嬢は明るくそう言ったが、
「どうも」
シークは素っ気なく報酬を受け取りすぐに去ってしまった。
シーク達はミテリアの街に帰ってきても、その心の内に抱いた罪悪感から気を取り直すことはなかった。
取り残された俺と受付嬢は、
「何かあったんですか?」
「少しな」
俺は説明するのを躊躇った。
わざわざ失敗したことを言う必要は無い。
「また明日も来る、今度は一人で行く」
「そうですか…」
受付嬢にそう言い俺もギルドを出る。
受付嬢は何か言いたげだったが、言いたいことは分かる。
その残念そうな表情からひしひしと伝わってくるからな。
だが俺はそれを言わせることなくギルドを後にした。