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かつて魔王の冒険者  作者: 森の小豆
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ヘルハウンドとスライム

遅れましてすいません!

迷宮探索二日目。清々しい気分とは程遠い場所で目を覚ました俺は結界の様子を確認する。


「グゥァァ...」


いつからいたのだろうか。結界の外には十体程の魔物達が涎を滴らせながら待っていた。

「朝の運動といこうか」

俺は魔法を発動する。詠唱との終わりと共に現れた巨大な火球はみるみるその大きさを失い、最終的には掌に収まるほどになっていた。したし、その内部は高密度に圧縮された炎であり威力までは失っていない。

「お前達の朝食だ!」

結界魔法を解除し火球を通路へと投げ込む。その瞬間にもう一度結界をはり直し衝撃に備える。

一瞬の出来事に動きが間に合わなかった魔物達は、結界に衝突し跳ね返されていた。

魔物達が姿勢を立て直す中、その背後では既に魔法が発動していた。

高圧縮された火球は俺の制御下から離れた。形を留めていた力が無くなりその威力を遺憾無く発揮する。圧倒的な力の開放による爆発は通路内を高温で焼き付くしそこにいた全てを塵と化す。

爆発の余波で結界が震え、外では魔物が断末魔を上げるまもなく消滅した。

後に残ったのは焼け焦げた迷宮の通路と塵となった魔物の死体だけ。迷宮の壁もそこかしこが剥がれ一部はまだ赤く燃えている。


「アル、おはよう」

「おはよう、エリ」

(おはようございます、お父様)

爆発音で目が覚めたのか、オリシスとエリシアスも起きてきた。

「朝食にするか」

俺は塵となってしまった魔物達を風で飛ばし朝食の準備に取り掛かった。


今日からは本格的に迷宮探索に取り掛かる。

今いるのは三十一階層の広間。ここは三十二階層に続く階段のすぐ近くで基本的にはここを拠点に行動するつもりだ。

野営装備はここに放置し入口を閉じる。昨日の夜にここの階層の魔物がこの結界を破れないことは証明済みなので安心して探索に集中出来る。


(お父様準備が整いました)

「私もよ」

「よし行くか」

オリシスに荷物を持ってもらい、戦闘はエリシアス、そして俺が地図制作だ。

必然的に先頭からエリシアス、俺、オリシスの順になった。前衛が吸血鬼の貴族、殿には閃光竜、中衛に元魔王とはっきり言って歴代の勇者でも討伐は困難なパーティだろう。殿がこの中で一番穴だが、それでも迷宮の魔物相手に遅れをとることはない。

この俺の考えはひとつたりとも外れることなく順調に迷宮探索が進んだ。


(しかし便利ですね、その地図)

迷宮探索中の一幕。魔物をあらかた片付けた後俺達は迷宮の通路を一つ一つ調べて行った。

今のところは特に何も無くただの散歩が続いている。

その状況に退屈したのかオリシスは俺に質問を投げかけてきた。

オリシスが言っているのは、今俺の手の中にあるこの地図のことだ。


この地図は普通の紙に空間を認識する探知系の魔法、形状を記憶する魔法、そして空間を拡張する魔法の三つの魔法を付与することによって作られている。

並の人間では到底不可能な技で、今のところこれを作れるのは俺しかいない。魔力量や技術もそうだが長年の経験と知恵がなければ作ることができない。

周囲の地形を把握し記録する。そして普通の地図では収まりきらない程の情報量を記録することができる。

この地図のおかげで普通の冒険者達が進む道程を大幅に短縮できている。

現在の位置は三十二階層と三十三階層を繋ぐ階段付近。下へ続く階段は一つとは限らない。上層であれば狭いためひとつしかない場合が多いが、下層は違う。広さも既に上層の三倍から四倍になっており、普通であればひとつの階層を全て探索するのに一日では足りないほどになっている。

そのためどこが一番最短なのか探して記す必要がある。


「面倒臭いわね」

エリシアスがポツリと呟いたのは迷宮探索のことでも地図制作の事でもない。今相手にしている魔物のことだ。

三十階層を越えてからは魔物の種類が変わる。スライムの上位種やゴーストなどの物理攻撃耐性を持った魔物が現れる。物理攻撃耐性だけでなく魔法攻撃にもある程度耐性を持っているのだからタチが悪い。

上手く核を破壊できれば倒せるのだが、エリシアスは細かい魔法のコントロールが得意ではない。そのためストレスが溜まり始めていた。


「もう面倒臭いからまとめて片付けるわ」

エリシアスはそういうと詠唱を開始する。

詠唱の始まりと共に魔法陣が発生しそれはたちまち大きさを増していく。すぐに三人を囲むほどの大きさになると、今度は地面から五匹の黒狼が出現した。

吸血鬼固有魔法、血胤の愛子。吸血鬼の血を触媒とし契約を結ぶ。直接的な血の繋がりは何よりも強力な呪いとなる。強制的に契約を結び支配することも出来る強力な魔法だ。

今回エリシアスが呼び出したのはヘルハウンドの群れだ。こいつらはエリシアスにとても懐いている猟犬で俺も何度か会ったことがある。

「リン、この階層の魔物を食い尽くしてきてちょうだい」

「了解した、ご主人様」

リンと呼ばれた黒狼の群れのリーダーは一瞬頷くと群れを率いて迷宮に消えていった。

走り去る前に一度だけ目が合ったがリンとは言葉を交わすことはなく別れてしまった。

「今度ゆっくり話させてくれよ」

「いいわよ」

(では僕も一緒していいですか?)

「もちろんよ」


リンと再び会えるのを楽しみにしながら止まることなく迷宮を歩き続ける。

エリシアスの放った黒狼の群れは、命令をしっかりとこなし迷宮内を奔走しているようだ。俺達の目の前には先程とは打って変わって、一匹も魔物が現れていない。時折、進路の先から断末魔が聞こえるが恐らく進路に新しく生まれた魔物が殺されたのだろう。


予定よりも早く三十二階層の探索が終了し、俺達は三十三階層へ下った。

ヘルハウンドの群れが先に通ったのか、通路には魔物の死骸が転がっていた。

「三十三階層も特に変なところはないか」

少し進んでも三十二階層との差異は見つからず少しずつ地図の範囲を広げていく。

それから異変が起こったのは三十三階層に入ってから10分程経った頃だ。

「うぁ!?」

エリシアスが突然呻き躓いた。

「どうした!?」

「大丈夫、魔力をいきなり持っていかれただけだから」

エリシアスの言う魔力が持っていかれたというのはリンのことだろう。エリシアスとリンの契約はかなり密接な関係で、緊急時にエリシアスの魔力を使ってリンは応戦することができる。

つまり、この階層でリンがエリシアスの魔力を使わなければいけない状況に陥ったというわけだ。

「かなり大量に持っていかれたわ、警戒した方がいいわよ」

「分かった」

エリシアスの言葉を信じ、俺達は急いでリンのいる場所へと向かった。リンの場所まではエリシアスの案内で向かうのだが、

「大丈夫か?」

「えぇ、まだ大丈夫よ」

エリシアスはそう言うが足取りはふらふらと覚束無い。それだけではなく少し汗もかいている。

「すまん、急ぐぞ!」

「きゃっ!」

俺はエリシアスを横抱きにし走り出した。

「ちょっ、私は走れるわよ!」

「こっちの方が早いから大人しくしてろ」


「...恥ずかしいわよ...」

「何か言ったか?」

「何でもない!」

エリシアスは顔を赤くして俯いてしまった。だが顔を隠しても無駄だ。気を使って惚けてやったがしっかりと聞こえてしまった。恐らく後で怒られることになるだろうが...嫌だな。


エリシアスは俯いているが場所を教えてもらわなければならないのでそろそろ顔を上げてもらう。

「エリシアス、次はどっちだ!」

「二つ目を右、その後は突き当たりを左よ!」

「了解。オリシス、スピードを上げるぞ」

(分かりました!)

エリシアスの指示に従い迷宮を駆け抜ける。

突き当たりを左に曲がると通路の先に部屋が見える。徐々に見え始める内部の影に、俺達は焦りを感じる。

「リン!?」

通路の先が見え、中のシルエットがハッキリとするとリンが満身創痍の状態で構えていた。

リンの後ろには四匹のヘルハウンドが倒れていて、リンがそれを守るように立ち塞がっている。

「ご主人様、来てはいけない!」

エリシアスは俺の腕から飛び降りリンの元へ駆けていくが、リンはそれを制止する。

「我が命に従い送還せよ!」

「ダメだ...」

エリシアスはリン達を強制送還した。最後にリンが言いかけたが、最後まで聞き取ることは出来ずリン達は消えていった。

「エリシアス、止まれ」

どこの誰とも知らない者に大切な使い魔を傷つけられ、エリシアスの表情には怒りが滲んでいた。

「殺してやるわ、生まれたことを後悔させてやるのよ」

「落ち着け、中に何が待ってるか分からないんだぞ」

「っ...、分かったわよ」

何とかエリシアスを宥め、慎重に中の様子を伺う。

「!?」

「ラージスライム...」

迷宮の奥で待ち構えていたのは、スライムの親玉とも言えるラージスライムだった。

最初はアルジェルドで書いてましたがいつの間にかアルジェントになっていて、その方がしっくりくるので名前を変更します。

アルジェルド→アルジェント、です。

よろしくお願いします。

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『かつて魔王の冒険者』を読んでいただきありがとうございます まだまだ発展途中ですが、賛否両論の評価を受け付けております。些細なことでもコメントしてくれるとありがたいです。 これからもよろしくお願いします!
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