近き者
「紅き蕾は夜を超え、白き陽を受け大輪を咲かす。春を待たんと呼ぶ声が、昏き明日を光りさす。強き力の源に、我が恋心あなたを焦がれる」
月の光を受けながら、一人の少女は夢を唄う。
かつて共に過ごした愛しき人を想って。
森の古城跡は月光に照らされ、しかし周りの景色にも劣らない美貌を持つ少女は、さながら芸術のようであった。
小竜との日課をこなす毎日が始まってからもう一ヶ月。そろそろ注文した剣が出来上がる頃だろうか。
あれからお金も溜まり、小さな家ならば建てられるほどになった。
小竜も既に小竜ではなくなってしまい、今では迷宮近くの森で暮らしてもらっている。当然大きくなったため、街には入れてもらえなくなってしまった。
そして何より、名前がついた。その名も
〈オリシス〉
かなりカッコつけた名前だが、実は付けたのは俺ではない。シルカだ。
シルカ曰く...
「いずれ最強の冒険者になる男の相棒ですよ、これくらいかっこよくないと!」らしい。
まぁオリシスも嬉しそうにしていたから別にいいのだが。
変化はそれだけではない。名前を付けたことによってオリシスは種としての進化を果たした。
ボルトドラゴンから閃光竜へと進化した小竜。体長は2m程と少し小さくなったが、その分速さが違う。閃光と言うだけあって雷の特性を生かした超速戦闘を得意とする。雷の残滓を残し飛来する攻撃は確実に先手を取りにいける。
最近の課題は速すぎて迷宮の壁に激突することだ。
「少しずつスピードを上げたらどうだ?」
(お父様、これでもかなり抑えてます)
さいですか...
何よりの変化はこの口調だ。どこぞの貴族の坊ちゃんみたいな喋り方。別にいいのだがお父様はちょっと抵抗がある。出来るならやめて欲しい。
(くらえ!ライトニングショット!)
オリシスの雷がスライムの核を打ち砕きスライムはただの粘着物資へと様変わりを遂げる。
今では核のみを砕く方法を発見したようで、綺麗に魔石だけが残る。オリシスの場合はライトニングショットで撃ち抜く。俺の場合は核ごと魔石を体内から引っ張り出す。この方が楽だからな。
手っ取り早く依頼をこなし迷宮を出る。
(お父様この後はどこへ?)
「普通に街に戻ろうと思うけど」
(でしたら少し散歩しませんか?)
「おおお!」
オリシスの提案から散歩に出かけた俺。今はオリシスの背に跨ってミテリア周辺の大空を飛んでいる。
「これは散歩なのか!」
(細かいことは気にしないですよ)
久々に大空を飛んでいる。人間になってからは一度も空を飛んでいない。人間の姿で空なんか飛んだら魔族か何かと勘違いされてしまう。オリシスに跨る姿も充分に目立つが...。
(あれ?あんな所に古城跡なんてありましたっけ?)
「いや、知らないけど」
オリシスの目指す方向直下、森の中には開けた場所が存在していた。
森の中にポッカリと空いた空間には崩れた城の後が残っていた。
「オリシス、降りてみてくれ」
(はい、お父様)
オリシスが降下を始め古城の輪郭がはっきりとしてくる。
古城はかなりが崩れほとんど瓦礫の山と化していた。かろじて建っている壁には蔦がびっしりと張り付き見る影もない。
「あそこだけ崩れてないな」
一箇所だけ、守られているかのように崩れていない場所がある。
扉は無いが雨風は防げるようになっている。
(お父様、魔法の使用後があります)
「ああ」
崩れていない中の近くに魔法を使用した痕跡が残っていた。これは、ごく最近に魔法を使用しなければ気づくことは出来ない。
誰かがここで何かをしていたという事だ。
(お父様、危ない!)
俺がしゃがみこんで痕跡を調べていると、オリシスが俺を抱えて飛び退いた。
(危なかった...)
後ろを振り返れば、俺のいた所に焼け跡があった。
別に避けれはしたがあえて言う必要はないだろう。
「よく避けられましたわね。まぁ、アルジェ様に仕える身としては反撃の一つくらいあってもいいと思いますけど」
(何者だ!)
俺達の前に現れた人物は目深にフードを被り正体が見えなくなっていた。
「ふふ、アルジェ様に最も近しい存在、かしら」




