Dランク昇格
シュラがギルドに報告を行った翌日、新人狩り一行はギルド内にて街の衛兵、警邏隊に連行された。
一部始終をギルド内で見ていた俺は静かに胸を撫で下ろした。意外と心配性なのである。
それから時折、ギルドの受付嬢にシュラの活躍を聞いたりしながら依頼を続けた。
そんな生活を送っていると俺の元に一通の手紙が届いた。
ギルドを通して渡された手紙は白い包み紙で、表には「アルさんへ」と書かれていた。
俺はその場で手紙を開けた。中身はシュラからの物で内容は近況報告やその後の活躍ぶりが書かれていた。
『アルさんへ、お元気ですか?私は元気です。あの後ギルドで報告を終えた私は早速新しいパーティに入ることが出来ました。4人組のパーティでランクは全員同じの新人パーティです。アルさんはやっぱりソロですか?今度一緒に冒険しましょう。私たちはそろそろDランクパーティです。アルさんは強いからもうCランクだったりして。それと、今度パーティのみんなでご飯に行くんですけどもし良かったら返事ください。場所は〈瞬香〉、月の五の刻から始めます。では、次に会う時までお元気で。』
シュラはそう締めくくった。
俺は手紙の一文を見て内心焦っていた。シュラたちのパーティがそろそろDランクということ、そしてシュラが、俺が既にCランクだと思っていることに。
冒険者のランクアップは、こなした依頼の難易度と数で決まる。Fランクであれば、依頼を十五個達成で昇格、EランクはEランク以上の依頼を三十個達成と、昇格試験の突破が条件だ。
俺は一日一依頼を目標にやっているため実はまだ依頼達成数が足りてなかったりする。
ちなみにランクが上がるとギルドに納める税が増える。だが、依頼の報酬も上がるためあまり気になるものでもない。
(少しまずいな...)
俺は、次にシュラに会う時にランクが下だと舐められてしまうことを恐れていた。別れ際にあれだけ大口を叩いたのだ。負けるわけにはいかない。
俺は悩んだ末にシュラへの返事の手紙を書いた。
冒険にはいつか一緒に行くこと、宴に関しては今回はやめておくということを主に書きそれを受付嬢に預ける。これで次にシュラがギルドに来た時に渡される。
そして、俺はいても立ってもいられずに依頼の紙を束で取る。
「しばらくは戻らない」
「あの失敗したら違約金が発生しますよ?」
「問題ない」
受付嬢の心配をよそに俺は依頼を全て受ける。ギルドの掲示板からEランクとDランクの依頼書がひとつ残らず消えた。
それが後に他の冒険者に知れ渡りまた、新たな逸話を作るとも知らずに。
俺はそれから不眠不休で働き続けた。
あれから何日経っただろうか。宿にも碌に帰らずギルドと迷宮、近隣の村や森の中まで奔走した。
あっという間に受けた依頼を全てこなし、俺はDランクへ昇格する条件を揃えた。あとは昇級試験に合格するだけだ。
だが、その前に休息をとる必要がある。魔王だった頃とは違い人間の身体になった今永遠と不眠不休で動ける訳では無いのだ。
俺はいつものように浴場で汚れを落としたあと、宿で久々の睡眠をとった。死んだように眠っていた俺が次に目覚めたのはほぼ一日経った頃だった。
「昇級試験は明日か」
俺はすっかり眠気が無くなってしまい、仕方ないと夜風に当たりにバルコニーへと出る。
弓のような形の月と満点の星が街を照らしている。
街はそこそこの人と酒場の明かりで賑わっていた。
もう月の九の刻を過ぎたというのに酒場の人気がなくなる気配はない。
この日俺はバルコニーで夜をこした。
俺はバルコニーで夜を明かした翌日、昇級試験となる依頼を受けにギルドへと向かった。
Eランクまでは採取依頼も存在するが、Dランクからはその数がかなり減る。これがEランクからDランクへ上がる時の関門と言われている。
ギルドは掲示板からDランクの依頼を選んで試験とするが、依頼がない場合に限ってはギルドから依頼が出される。そのほとんどが討伐依頼だ。
Dランクからはマースの迷宮へ入る資格が手に入るため、それ相応の実力が求められる。だからギルドも中途半端な依頼で死人を増やすような真似はしたくないのだ。
そして、当然のように試験には監督がつく。Dランクの冒険者を出すのにギルドの昇級試験で死にました、では話にならない。
過去に昇格したくて無理をして死んだ冒険者がいる。それからはギルドも慎重に冒険者の実力を見るようになった。
「昇級試験ですね、少々お待ちください」
受付嬢はそう言って掲示板に向かって歩いていく。
程なくして、その手に一枚の紙を持ち戻ってくる。
「今回挑んでいただくのはノーマの迷宮三階層、月見草十本の採取です」
「そうか」
告げられた依頼の内容に俺は少しだけ驚いた。前述の通りDランクの昇級試験で採取依頼が選ばれることはあまりない。
当然、俺も討伐依頼か何かがあてがわれるものだと思っていた。
しかし月見草か...少し面倒だな。
俺は依頼の内容を反芻しながらそう考える。
月見草とは名ばかりで、迷宮にしか生えない特殊な草だ。その生育環境からか、月見草は魔力回復のポーション作成に使われる。魔力を多く含んだ蕾は月のように丸く咲く。
そして、なぜこれがDランク依頼なのかと言うと。
月見草は探すのが面倒だ。
月見草は群生することはなく、たまに二本並んで咲いていることがあるくらいで、これを十本となると相当骨が折れる。しかも迷宮の中には魔物がうろついている。
いっそのこと、討伐依頼が良かった。
俺はその事を嘆きながら諦めて依頼へと向かった。
ノーマの迷宮までは入るのに規制がかかっていない。その為、Dランクの昇級試験はノーマの迷宮で行われることが多い。
ノーマの迷宮の入口も、マースの迷宮程ではないが、それなりに人の往来がある。
俺はその中を進み迷宮へと入る。
ノーマの迷宮からはソロの冒険者の数が減る。その為俺は好奇の視線に晒される。
さっさと終わらせて帰るか。
俺は頭の中に叩き込んだ地図を思い出しながら迷宮内を駆ける。すぐに見えてきた階段を一足に飛び降りる。
途中で遭遇する魔物を置き去りにするスピードで俺は三階層にたどり着いた。
「やるか...」
俺は気合を入れ直し月見草探しに力を入れる。
物を探す上で大事なことは最初のひとつをいかに早く見つけるかだ。最初のひとつさえ見つければあとは芋づる式で見つけれる。
月見草は地面だけでなく壁にも天井にも生える。俺は全体をくまなく探しながら迷宮内を歩く。
俺の目の前には光魔法〈ライト〉による光球がある。ライトは目先3m程を照らしている。
最初のひとつさえ見つければ探索〈サー〉の魔法で残りは楽に見つけれるんだが...
俺は一つ目の月見草がなかなか見つけられずにすでに一時間が経過しようとしていた。
「流石におかしいな。なんでひとつもないんだ?」
俺は事前に月見草を買っておくんだったと後悔しながら愚痴を零す。
今いる階層は既に五階層。三階層と四階層を隅々まで探したが、月見草はひとつも見つからなかった。
「あそこなら何本か生えてるか」
俺はノーマの迷宮の地図を思い出し、ひとつの階層に目星をつける。
ノーマの迷宮十一階層[癒しの泉]
癒しの泉の綺麗な水の周りには多種多様な植物が咲く。
あそこなら月見草も生えてそうだな。
俺はやっと見えてきた攻略の緒に心踊らせた。
ノーマの迷宮十一階層は分かれ道が多い構造になっている。迷宮のマッピングをした人に盛大な拍手を送りたくなるほどに入り組んだ構造だ。これを全てマッピングするのは骨が折れるだろう。
俺は地図の通りの道順で進み癒しの泉へとたどり着いた。
「おぉ......」
その初めて見る光景に俺は感嘆の息を漏らす。
迷宮内に突如現れた楽園。色とりどりの花が咲き、泉の周りには小動物の影も見える。そのどれもが魔物ではあるが、泉との調和を乱さない温厚な魔物達であった。
泉から湧き出るような光は、水中にある光原石の影響だ。水中から周囲を照らすような明かりは、この部屋全体を包み込む。
「こんな景色地上ではあまり見られないな」
かつて見てきた世界の景色にも勝るとも劣らないこの風景を目に焼き付ける。
「そうだ、月見草」
俺は思い出したように、その花畑から月見草を探す。
「あったあった」
月見草は簡単に見つかり、五束も採取することが出来た。
必要な月見草の数は十本。残り半分を探しに俺は再び迷宮の中へと戻る。
いつかまたこの景色を見に来よう。そう胸に刻むほど、この泉は幻想的で俺の心を掴んで離さなかった。
その後、今までの苦戦が嘘のように月見草が見つかり、俺は迷宮を後にした。
月見草十本の採取も無事に終わり、ついにDランクに至った俺はシュラと食事をするためにギルドに手紙を預けた。
これでシュラに胸を張って会うことができる。




