学校4
どうしてこうなった。
美琴は昨日までの事を思い出しながら、今の現状について考えていた。
昨日の昼休み、美琴はいつも通り昼食を取った後、少ししてから体を鍛えていた。
そうしていると、何とも不気味な風貌の男子生徒がやって来た。
髪はぼさぼさで前髪は眼が隠れるほど長く、猫背で眼鏡を着けていた。
ナルビィや美琴でもわかる、こいつに関わるろくなことが起こらない。
美琴はその男を無視しようと思い、そっと立ち去ろうとしていた。
だが、そんな願いも叶わず、その男子生徒に声をかけられてしまった。
「き、きき貴様が、わ、我らが慕う皐月様を怖がらせた神無月美琴だな?」
「随分な言い草だな、俺はただ自分が思っていたことを言っただけだ」
「黙れ、お前はおとなしくただ皐月様の言うようにして、彼女を笑顔にするようにしていれば良いんだ!!」
「ねえ、美琴、何、このカルト教徒は?」
男子生徒の言葉を美琴は適当に受け流そうとしていたが、男子生徒は勝手にヒートアップして、暴論まで言い始めた。
これには流石の美琴もナルビィもドン引きだった。
こいつの頭には蛆虫でも湧いてしまっているのだろうか?
そうとしか言いようのないほどこの男子生徒は狂っている。
ナルビィの問いかけに美琴ももはや何も言うことはなかった。
「明日の昼に貴様を粛清し、皐月様に突き出してくれる!!」
男子生徒はそれだけ言うと、そのまま去って行った。
それをただ見ていた美琴とナルビィは溜息をついた。
「あれ、完全に狂信者の粋じゃない?」
「そうだな、あれはもう完全にそれだな」
「珍しいね、美琴が僕の意見に同意するのは」
「オイコラ、俺に対してどう思っていたんだ、お前は?」
先程の男子生徒について、二人は狂信者なのではないのかと思い、互いに思っていたことを口に出した。
そして、意見が一致したことにナルビィは興味深そうな顔をし、美琴はナルビィが普段から美琴のことをどう思っていたのかを思わず訪ねてしまった。
授業が終わった放課後、美琴は人気の少ない校舎裏でトレーニングをしていた。
現在、腕立て伏せ500回を終え、スポーツドリンクを飲んでいた。
丁度その時、ナルビィが目の前に現れた。
「美琴、さっきの奴の情報が手に入ったよ」
「いつの間に?」
「これでもボクはカミサマだからね、これくらいのことは簡単さ」
美琴はスポーツドリンクを置いて電子生徒手帳を手に取り、ナルビィが調べ上げたという男子生徒の情報を確認しだした。
「名前は泉浩司、戦のカミサマ、アレスを信仰する男子生徒、神器はガントレット型の物か…」
「後、皐月の会っていう稲葉皐月のファンクラブの会長をしているみたいだよ? 中層では上位に位置する生徒で手強いかも」
「だろうな」
美琴はそれだけを言うと電子生徒手帳をカバンにしまい、太極拳の型を取り始めた。
無駄な足掻きだと言うことは美琴でもわかっている。
相手は神器使いで上位に位置する生徒、どう考えても神器を持っていない美琴にとってアウェーな状況だ。
ナルビィの補助のおかげで戦えるようにはなったが、それはあくまで戦えるようになっただけであり、強くなったという点では無関係になっている。
それに例えナルビィが攻撃を予測しようとも、行動を先読みしようとも防御されたり、フェイントをかけられれば意味がなく、もしかしたら予測は出来ても回避できない、若しくは体が追い付かないこともある。
これらのことを考えてみれば勝てる確率は限りなく低い、そもそも勝てないかもしれない。
知っていても諦めることは出来ない、どんなに最下層にいようとも、神器を使えなくても、もしも諦めてしまえばカミサマに屈したことになってしまう。
カミサマに屈してしまえば、美琴は自分で自分が許せなくなる。
だからこそ、諦めることができない。
ナルビィはそんな様子の美琴を見て、何かを決心し、密かに何かのプログラムを実行実行し始めた。