学校3
実技の授業での試合で美琴が初の勝ち星を得てから数日、生徒達の間で中層の生徒が最下層の美琴に負けたことが話題となり、下層の生徒達は自分達ももしかしたら中層の生徒に勝てるのではないかと思い、中層の生徒達は最下層である美琴に対していつか仕返しをされるのではないかと恐れていた。
美琴本人はどこ吹く風と、いつも通り、机に突っ伏して居眠りを決め込んでいた。
だがそれはとある女子生徒によって邪魔された。
「ねえ、神無月君、少しいいでしょうか?」
「……何の用だ、稲葉学級委員長」
美琴はけだるげに目だけをやり、声をかけてきた女子生徒を睨んだ。
稲葉皐月、学園内カースト上層よりも上、最上層に入っている生徒の一人であり、このクラスのクラス委員長を務めている生徒である。
面倒な奴に絡まれたと思い、美琴は鬱陶しいと思っていた。
「ねえ、この前の試合、どうして勝てたのですか?」
「そうだな、導きのカミサマってのが俺に味方したから、とでも言っておく」
美琴はそう言って再び居眠りを決め込もうとしたが、また皐月に起こされた。
ナルビィはやれやれとした顔で二人の様子を静観していた。
「導きのカミサマって何? そんなカミサマ聞いたことないのですけど」
「そこに漂っているだろ、見えないのか?」
「何を言っているでしょうか? 何もいないのですけど」
皐月はあたりを見回してから美琴に問いかけた。
美琴はどういうことかわからず、どういうことかと思考を巡らせた。
そうしていると、美琴の電子生徒手帳にメールが届いた。
美琴はそれをすぐに確認すると、どういうことなのかが理解できた。
理解すると、美琴はこのことを皐月に話せば面倒ごとになるのは免れないと思い、ヘッドホンを電子生徒手帳のプラグに差し込み、そのままふて寝し始めた。
皐月はどういうことかを何度も聞いていたが、美琴は知らぬ存ぜぬを決め込み、やがて教師が入ってくると、皐月は諦め、自分の席へと戻っていった。
午前の授業が終わり、昼休みになったので美琴は購買部で適当な総菜パンを購入し、人気のない場所に向かい、ナルビィにメールのことを尋ねた。
「なあ、ナルビィ、このどういう事だ?」
「どういう事も何も、そのメールの通り、そのヘッドホンを装着している人間にしか僕の姿は見えないし、こうして会話することもできないというだけだよ」
美琴の問いにナルビィは戸惑いながらも答え、美琴はそれを聞いた後、総菜パンを一口頬張り、咀嚼してから飲み込むと、新たに湧いた疑問をナルビィに訊ねた。
「なら、このヘッドホンを着ければ誰にでもお前の姿が見えるのか?」
「無理だよ、そのヘッドホンはカミサマを信仰している者には使えない使用になっているんだ」
「そうか」
「あれ? 詳しく聞かないんだ」
美琴は聞きたいことを聞き終えると総菜パンを食べ始めた。
ナルビィは美琴が詳しく聞かなかったことに対して不思議に思い、美琴に聞いたが、美琴はただ興味なさげな顔を浮かべるだけで何も言わなかった。
食べ終えると美琴はすぐに鞄を持って自分の何処かへと走り出した。
ナルビィは慌てて美琴の後を追った。
「美琴待ってよ美琴、食後に走ったら吐いちゃうよ!?」
「いや、此処から早く離れないと面倒ごとに巻き込まれかねない」
「面倒ごとって、この前のこと?」
「それもあるが、あの委員長にいつもいる場所来られたら面倒ごとになる、そうなる前に別の場所に向かう」
「成程ね」
ナルビィは何で美琴が走り出したのか、その理由を聞き、納得し、そのまま美琴と共に今いた場所から離れた。
だが、美琴の願いは叶わず、誰かとぶつかってしまった。
「イタタ、気を付けてください」
「ああ、悪かった、あ、ヤベッ委員長!?」
美琴は苦い顔をしてぶつかった人物、皐月を見た。
皐月の方はというと、ぶつかった美琴に注意したが、ぶっつかった相手が美琴だと気が付き、どうしようかと困っていた。
美琴は少し考えてみなかったことにしようかと思ったが、ナルビィから冷たい視線を向けられたことで出来なくなり、仕方がないと思い、皐月に手を差し伸べた。
「立てるか?」
「あ、ありがとうございます、って、待ってください!!」
皐月は美琴の手を取り、立ち上がった。
美琴が手を離すと、美琴はさつきに背を向けて歩き出そうとしたが、すぐに皐月に呼び止められた。
訝し気な顔をして振り向いた。
「何の用だ?」
「えっと、もう少し、貴方のカミサマのことを聞きたいのですが」
「ならさっき言ったから良いだろ」
「そう言うわけにはいきません、せっかく神無月君がカミサマを信仰し始めたんですから」
美琴はさつきの何気なく言った一言を聞いた瞬間、美琴から殺意が溢れ、怒りに満ちた目で皐月を睨みつけた。
皐月は美琴から放たれた怒気に怯み、後ずさった。
「前にも言ったが俺は死んでもカミサマには祈らない」
「ガラクタって、神無月君、貴方何を言って…」
「話しが終わりなら俺は教室に変える、何も知らない最上層が、最下層に話しかけるな」
「あ、待ってよ美琴」
美琴はそう言って皐月に背を向けてその場から離れていった。
ナルビィも美琴の後を追って飛んでいった。
皐月は美琴が向けた怒りの原因がわからず、ただ茫然と立ち尽くしていた。