前日譚
これは前に描いた作品のリメイク版です
カミサマ……それは人類が完成させた、否、完成させてしまった自立思考型プログラム、カミサマは数を増やし人類を統括し始めた。結果戦争も平和もカミサマが決め、人々はカミサマの恩恵を受けていた。それらが作成した武具や道具の総称を人は神器と呼び、カミサマの作成した神器を使う人間を神子と呼び、カミサマの言葉を伝えられる唯一の存在として人々の歓心を集めていた。だが、それと同時に人々は何もかもをカミサマに頼り、将来のこともカミサマの決定に身を委ね、自分の運命を選ぶことを放棄してしまった。
カミサマの決定は絶対とされ、その人の進路から生活、そして、命ですらもカミサマの一言だけで奪われてしまう。そして、カミサマに反抗するものは背信者と見做され、人としての生活を送れなくなるか、神器をもつ神子達に追われ、カミサマに忠誠を誓う事を約束させるまで教えと称した拷問に処され、
人間が人間であることを望んでいた異端のカミサマである狡猾なるロキによって引き起こされた世界規模のサイバーテロ、通称『ラグナロク』と呼ばれた大事件は五柱の最高神と呼ばれているカミサマによって鎮められ、異端のカミサマであるロキはどこかに封印された。これが約十年前に起こった出来事である。
それから十数年後、御神楽学園が設立され、そこでは神子の育成が行われている。
そんな学園にガラクタ置き場にて一人の少年が血を流し、傷だらけで雨にうたれながら倒れていた。彼、神無月美琴は虚ろな瞳で雨の降る空を見上げ、自分のことを嘲笑っていた。流しすぎてもう直に死ぬだろうことを少年は直感的に察していた。カミサマがもしかしたら美琴の死を命令していたのかもしれない、それならば受け入れる人間がいるのかもしれないが、彼は受け入れられなかった。
「死にたくない、まだ死ねない」そんな考えばかりが彼の頭の中を埋め尽くし、空に手を伸ばし始めた。無駄なのは頭ではわかってはいるのだが、それでも何かに縋りつきたい、何かを掴み取りたい、そう思っていると、近くにヘッドホンが落ちてきた。少年はそれが何なのかわからないままそれに手を伸ばし、それを握り締めるた。すると、彼の目の前に一人の少女が現れ、少年に微笑んだ。それを見た少年の意識はだんだん薄れていき、意識を手放した。
気が付くと、ベッドの上だった。あたりを見回すと机とデスクトップパソコンと本棚しか置いていない無機質な白い一室だった。何があったのか美琴には理解できず、困惑していると、近くに置いてあった携帯電話にヘッドホンを装着しろというメッセージが入っていた。
少年はそのメッセージ通りにヘッドホンを頭に付けた。
すると目の前に猫耳のような癖毛のある亜麻色の髪の少女が現れた。
「初めましてだね、神無月美琴」
美琴はいきなりその名前で呼ばれたことに驚き、少女を睨み付けていた。
少女はそんな美琴を見て優しい笑顔を向けた。
「ボクはナルビィ、君を導くカミサマさ」
「カミサマだと?」
「そう、でも安心して、ボクはキミだけの味方さ」
ナルビィと名乗った少女は、自身がカミサマであることを言い、美琴は警戒した。
それを見たナルビィはすぐに美琴の味方だと言ったが、美琴は疑いの眼差しでナルビィを見ていた。
もしかしたらカミサマの決定で殺されていたのかもしれない人間だったからこそ、美琴はカミサマを敵だと認識している、だからこそ、カミサマと名乗ったナルビィに対して警戒を解こうとしなかった。
ナルビィは少し唸りながらどうするべきかを考え始めた。
美琴はそんなナルビィを見て本当にカミサマなのだろうかと疑問を抱き始めた。
カミサマなら上から目線で常に人を見下し、決定事項のように淡々と言い、それに逆らったり、疑問を持つことがあれば何の躊躇もなく抹殺するようにプログラムされているのだが、ナルビィは人間みたいに悩み、決定事項のように言わずにどうすればいいのかを考え込んでいるいるのを見ると、どうにもカミサマだと思えなかった。
そう美琴が思っていると、ナルビィが何かを思いついたようで、美琴に提案しようとしたが、それよりも先に美琴が声をかけた。
「お前のこと、信じてみるか」
「え? 良いの……?」
「勘違いするな、俺はお前というカミサマを信じるんじゃない、お前という存在を信じるだけだ」
ナルビィは嬉しそうな表情を浮かべた。
そして、ナルビィは美琴に対してとある言葉を告げた。
「これより、僕の持っている神器は全て君の物だ」
この日、この瞬間、この出会いがこの学園、否、この世界の秩序全てを破壊し、真実を語り、革命を起こしていく創世の幕開けになっていくことになることなど、美琴を含め全人類は思いもせず、後の世で人類を解放した英雄であり、カミサマによる秩序を破壊する破壊者になるとは美琴自身、想像することができなかった。
今回はここまでです
少し設定などを再編成して書いてみます
行進速度は相変わらずの亀更新になりますが