第1話 ねむれない自分
犬は人間じゃないから、しゃべらない。
ただ、この犬が自分の子供だったらどんなに、自分がこの暗黒から解放されるか。
この犬が、しゃべれたら、救われるのか。
たぶん心の底でわかってる。私が欲しいのは自分の子供。人間の子供。
もう、矛盾している。
犬は子供と決してイコールではないことは、本能で、魂でわかる。
それでも。
この犬がいなければ、この犬と暮さなければ。
頭がおかしくなっていた、いや、こんな思考はもうおかしいのか。
夜の眠れない午前三時、階下ではこっそりを装っているが、
彼女にメールしている夫の気配。
こんなことになって、はや5年。
仕事中も大好きな習い事中でも、犬さえいても、
年下の義兄弟夫婦の出産ニュースのもとでは、
私の心はマイナス50度の世界の花弁のごとく、ささやかな刺激で粉砕する。
病気にならないうちに、おかしくならないうちに、ここから抜け出そう。
もうそれしか、心をまもる術はないのだ。
そして、この犬を、私のワガママでやってきた
この犬を絶対に幸せにしなければならない。
こうして、結婚10年にあと一年というところで、
私は晴れて独身となり、人生初の婚活へと突入する。
この小説はフィクションです。実際の団体、個人とは一切関係ありません。