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魔法剣士ガイア  作者: ふぉるて
第5章「冬の夜明け」
88/156

5─X

「着いたで、ここのおでんが絶品なんや」


 マグナはそう言って暖簾(のれん)を潜ると、引き戸を開けて中へと入る。


「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませ!」


 カウンター十二席のみという、小さな店。

 そのカウンターの内側──調理場で手を動かしていた大将と、奥で食器を洗っていた店員の声が、マグナの後ろに居るガイア達にも聞こえてくる。


「今日も繁盛しとるなぁ大将。三人、行けるか?」


「ええ、大丈夫ですよ。少々お待ち下さい。

……お客様、申し訳ありませんが、横に詰めて頂けますか?」


 ガイアとアスナがマグナの背中越しに店内を覗くと、席には七、八人が腰掛けており、まだ午後の六時にもなっていないというのに、繁盛している様子が見て取れた。

 ガイアとアスナの二人もマグナの後に続き、奥の方から順に着席する。

 それは、店員が席を詰めた客の食器を移動させ、布巾でその場所を拭き取り、箸置きと箸をセットし終えたのとほぼ同時であった。

 そして、店員は手に持っていた布巾を片付け、エプロンのポケットから鉛筆と注文票を手に取り、飲み物の注文を訪ねてくる。


「そうやなぁ……。いつも通り芋火酒(焼酎)"ガルナドラム"の出汁割りで頼むわ。

二人は決まったんか?」


「俺は……、青茶をお願いします」


「私も」


 店員は注文票にそれを書き付けて「ありがとうございます」と言うと、調理場の酒棚にあるガルナドラムを手に取り、店の奥へと姿を消した。

 そして、それから程なくして二人の青茶が配膳され、一つ遅れて大将が作った熱々のおでん出汁割り焼酎が姿を現す。


「今日はおいちゃんの奢りや、たんと食いや!

ほんなら、(あん)ちゃんと嬢ちゃんのランクE昇格を祝って……、乾杯!」


 マグナの音頭に合わせ、三人のグラスが音を奏でる。

 二人のランクE昇格試験は、今から三時間前の帰還報告を以て精査され、無事「合格」となった。

 後頭部を打ったアスナも病院で検査を受けたものの、医師から「問題なし」と判定され、そのまま今夜はマグナ行きつけのおでん屋で祝杯を、という話になった次第である。


 一口飲んでからおでんのタネを注文し、暫し談笑。

 そして、その出汁の透き通った味に舌鼓を打ち、トマトや野菜巾着、アボカド等の枠に捕らわれない創作おでんの意外な美味しさに、二人は驚嘆した。

 他にも、出汁割りの香りだけで酔いそうな気分になったり、置かれている七味を使いすぎなガイアにマグナが「貧乏くさいからやめとき」と苦言を呈したり──。


 やがて腹もくちくなり、少し涼みたくなったガイアは、防寒具を羽織って店を出る。

 そしてふと、ガイアは無数の星々が瞬いている夜空を見上げ、ふう、と白い息を吐く。


 無言のまま、ガイアは一人静かに、ニコラとの思い出を振り返る。

 ガイアは、ニコラに対してあまり多くのことをしてやれなかった。

 しかしそれでも、最期にニコラは笑っていたと、イーシスは言っていた。

 彼女とのほんの少しの時間が、まるで走馬灯のようにガイアの脳裏を駆け巡る。


──別に。まぁ、良い暇潰しにはなるんじゃないかしら。


 今思えば、初めて会ったあの時に『冒険の轍』を読んでいたのは、外を自由に出歩く事への渇望だったのだろう。

 父親が幼い頃に話してくれた花畑の事に、恐らく彼女は胸を馳せていたのだ。


──あなた、親を恨んだことはある?


 病弱な身体に生んだ母を恨み、更にその現実を突き付けてくるかのように感じてしまうようになった父の厚意をも恨んだ。

 だが、父親には愛情も残っており、約束だったロケットペンダントの処分を理由を付けてイーシスに一任した。

 そして今、その真っ新のロケットは、イーシスからの餞別(せんべつ)としてガイアの手に渡った。

 ガイアはこの先、ロケットを見る度にニコラのことを思い出すだろう。

 彼女のことを、決して忘れてはならない。

 そして、同じ過ちを繰り返さないために強くなるという、この決意も。


(……………………)


 彼女は、無事父親の元へ行けたのだろうか。

 親に隠していた本音を打ち明け、謝れたのだろうか。

 ガイアの頬を、つう、と一筋の涙が伝っていく。


──……死んだら、私のために泣いてくれるの?


 その声は、今までのどの言葉よりも、鮮明にガイアの脳裏に浮かび上がった。


(ごめん……。

そして……、ありがとう……)


 様々な感情でぐちゃぐちゃになりながらも、ガイアは心の中でニコラに向けてそう言った。




◇ ◇ ◇




 ガイアが席に戻ると、アスナはクエストの疲れからか、目蓋が半分ほど下がり始めていた。


「おかえり、おいちゃん(シメ)頼んだで。兄ちゃんは?」


 そう訪ねるマグナに対し、ガイアはすぐにこう返す。

 だが──


「もうお腹いっぱいですし、遠慮しときます……っ!?」


最後まで言い切ったところで、ガイアは店の奥から漂ってくる"あるニオイ"に気付き、目を丸くさせた。

 そして、それをアスナなら分かってくれると思い、その場で考えついた言い訳で店を出ようと試みる。


「あっ、あの……、マグナさんごめんなさい! ちょっと俺達急ぎ帰らないといけない用事がありまして!

ほらアスナ、起きて! 帰るぞ!!」


 ガイアはそう言ってゆさゆさとアスナの肩を揺する。

 しかし──


「ん~……、そんな揺すんないでよ……。別に用事なんて無いでしょ……?」


眠気によって思考能力が低下していたアスナは、ガイアの策を内側からぶち壊してしまった。


 霊神暦714年2月4日。

 この日、ガイアはアスナと共にランクEに昇格し、強くなるという誓いをより一層堅く胸に誓った。

 そして──


「お待たせしました、出汁カレーライスで──」

「お"ほ"ろ"ろ"ろ"ろ"ろ"ろ"ろ"!!」


同時に少しだけマグナの事を恨んだ、そんな日であった。


「ふぇ……? って……、いやああああああああっ!?」


 何故ならば、ガイアの吐瀉物(としゃぶつ)の一部がアスナの服に掛かってしまい、激しい平手打ちの連打を食らう羽目になってしまったのだから……。


 二人が男女としての交際を開始する日は、まだまだ遠い。

焼酎のおでん出汁割り:新しい世界の扉が開く味。あまり癖の無い焼酎とおでんの出汁を1:4~5ほどの割合で混ぜ、それを丸ごと温める割り方。出汁の味によって向き不向きがあるが、飲む人間に味がベストマッチしようものならゴクゴク飲めてしまうため、呑まれないよう注意が必要。


おでん+トマト:超旨い。出汁に味が出てしまうため、食べる際は大鍋には入れずに別鍋で出汁と合わせて焚くのがオススメ。


おでん+アボカド:意外とイケる。外国だと普通に入っていることもある。回転寿司で見かけるようになった「エビアボカド」と言い、近年作者はアボカドの美味しさに衝撃を受けまくっている。


くちい(くちくなる):お腹がいっぱいになること。




─キャラデータ─


◎ガイア

年齢:18

種族:ホムス

職業:魔法剣士(表向きは剣士)

ランク:E


挿絵(By みてみん)


(はしら)の神から顔つきそのままの新たな肉体と加護を与えられ、異世界へと転生した本作の主人公。

黒髪のツンツン頭で好青年な顔立ちをしており、右頬にはアスナに付けられた一文字傷がある。

基本的に食べ物の好き嫌いは無いが、カレー料理だけは大の苦手で、漂ってくる匂いを嗅ぐだけでも吐き気を催してしまう程。

そのため、今回のように目の前に出されようものなら、瞬く間にゲロインと化す。


元々はピアノの弾き語りとG退治が得意な程度で、それ以外は至って凡人な高校生だった為、何か特筆できるような知識や技術を持っているわけでは無い。

その為、日々ストイックに鍛錬を続けており、その甲斐あって昨年末には魔力体術の基本である魔闘衣の使用が可能になった。

身体能力は上級職補正が掛かっているものの、転生した当初は実戦経験の不足や新しい身体に慣れていない等の要因が重なり、模擬戦でアスナに負けることが多くあった。

しかし、その積み重ねた努力の結果は確実に現れており、ランクE昇格時点での戦闘能力(使用可能な魔闘衣最大倍率込)はアスナに匹敵するまでに至っている。


彼について残念な点を挙げるとすれば、幼い頃に母親が死別して以降の生活が原因で、飲食店の紅生姜や七味、らっきょう等といった"無料のアテ"を大量に使おうとする癖があるということだろう。

しかし、その貧乏癖が上手い具合に転じた部分もあり、事実『魔法剣士ガイア』に登場する人物の中で一番、多々買い方が上手い。



◎アスナ

年齢:18

種族:ホムス

職業:騎士

ランク:E


挿絵(By みてみん)


本作のヒロイン。藍色の髪を右側で括ってサイドテールにしており、幼少時代に魔物に裂かれて(いびつ)になってしまった右耳を隠している。

ガイアにとって彼女は秘密を共有する協力者であり、監視役であり、想い人であり、師匠であり、またお互いを高め合うライバル的存在でもある。

また料理の腕も中々高く、亡き師匠・ジーノのチームメイトであるレンカの一家に叩き込まれたこともあって、和食(ブージン料理)を一番の得意としている。


ガイアとの初戦では消耗していた為に王手を打たれてしまったが、それ以降の模擬戦では高い勝率を誇っている。

最近はガイアの努力と上級職補正もあって拮抗してきているものの、本人はそれが"本来あるべき力の差に近付いている"ということを理解しており、ガイアの成長を喜んでいる模様。




Next Chapter:「渡り人は()く語りき」


To Be continued......

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