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魔法剣士ガイア  作者: ふぉるて
第5章「冬の夜明け」
86/156

5─VIII

──どうすれば切り抜けられる?


──どうすればやり過ごせる?


 必死に思考を巡らせるも、浮かんだ直後に失敗する未来(ビジョン)が映っては消えてを繰り返すのみ。


 そして、一行の誰もが反応できぬほどの刹那、ヘカトンゲイルが高速で動き──


「"強硬防御(プロテクション)"ッ!!」

 

その攻撃が当たるかと思われたその時、どこか聞き覚えのある声と共に、大きな影がガイア達の前に現れた。


 守って貰った一同も、強度を増した双巨盾(タイムシールド)によって攻撃が防がれたヘカトンゲイルも、何が起きたのか理解するのに数秒の時間を要していた。


「よう、無事だな?」


 ガイア達を守った大男は、そう言いながら大盾を二分して旋棍(トンファー)のように持ち替え、ヘカトンゲイルをその大盾の殴打部分で派手に殴り飛ばし、空中へと打ち上げる。

 そして──


「"巨盾炸裂砲(タイタンバースト)"ォ!!」


大男がその両手で真っ直ぐに構えた得物に魔力を注ぐと、先程ヘカトンゲイルを殴打した先端部分の間の空間が輝きを放ち、そこから大量に凝縮された白の魔力による砲弾が精製される。

 そして、スキンヘッドの大男は、それを迷うこと無く宙に打ち上げたヘカトンゲイル目掛けて発射し──着弾と同時に、大きな爆発が巻き起こった。


 そして、ガイア達がその大男──髪の毛の無いスキンヘッドに、義足の右足を持ったその人物が誰なのかを理解したのは、丁度この直後であった。


「……マスター!?」


 ガイアが驚いたのも無理は無い。

 その人は見間違えようもなく、アインハルト王国城下町冒険者ギルドのギルドマスター・アドルその人であった。

 だが──


「GIIIIIIIIIIIIAAAAAAAAAAAA!!!」


自分の顔面に傷を付けられたことに逆上し、我を忘れたボロボロのヘカトンゲイルが金切り声を上げながら向かってくる。

 しかし──


「引退したくせに無理するな。また義足が逝くぞ」


「アンタ、また奥さんにどやされても知らないよ?」


黒い鎧に身を包んだ茶髪蒼眼の老人と、雪色の髪の毛を持った軽装の老婆口調の美女がそう言いながら、雷属性上級魔法"電磁砲(レルエネル)"を無詠唱で発動する。

 二つの雷は交差する形でヘカトンゲイルの身体を撃ち抜き、その意識を失神させる。


「"(ラン)"」


 そして、制御を失って落下するヘカトンゲイルを呆然と見つめていた一行の耳に、チン、という甲高い納刀の音が響いた、その直後。

 既にアドルの攻撃によって無数の亀裂が入っていた皮膚が一瞬で全て破裂し、露わになった全身が無数の斬撃によって切り裂かれる。

 そして、為す術無く力尽きたヘカトンゲイルは、そのまま城壁の外側へと落下していった。


「アドル殿、後は我々に任せられよ」


 ガイア達は、アドルの背中越しにその三人の影を見る

 それは、かつてアドルやジーノと共に、チームを組んでいた者達。

 ガイア達にとって遥か格上だったはずのヘカトンゲイルを、瞬く間に葬り去るほどの実力者達。

 それぞれ、名をマクバール、アストリッド、レンカと言う。


「ったくお前ら……、来るのが遅ぇよ」


 アドルがそう言って苦笑いしながら、魔闘衣を解除して双巨盾を手放す。

 するとその直後、アドルは両膝に手をつき、深呼吸で息を整える。

 既に引退した身であると言うのに、相当な無理をしたのだろう。その額からは、滝のような汗が噴き出していた。

 そして、アドルはその右腕で額の汗を拭い、ガイア達の方を向いてこう言った。


「さて……、とっととずらかるぞ。

ここに居ても邪魔になるだけだ」




◇ ◇ ◇




 それから10分と経たぬ内に、戦闘は終了した。

 しかし、魔物や戦死者達の亡骸(なきがら)や血痕で巡回路が凄惨(せいさん)な光景になってしまっていたことは言うまでも無く、戦闘に参加した者達によって急ピッチで処理が開始された。

 無論、ガイアもそれを手伝った。

 冒険者や傭兵であれば、必ず通らなければならない光景や血の臭い。

 それを、ガイアは込み上げてくる吐き気を抑え、鼻もつままずに黙々と手伝い続けた。

 命は、一つしか無い。

 その現実を、しっかりと自身の目に焼き付ける。

 魔物の脅威と魔力比率によって、人類の住める場所が限られたクソッタレな世界。

 その世界に身を置いているという現実を焼き付け、鍛錬に手を抜いたりしないようにするために。


「うっ……」


 だがそれでも、ガイアは現代人。

 我慢が限界に達し、軽めに食べただけの携帯食料すらも吐き出しそうになってしまう。


「……あんまり無理すんな」


 その様子を見かねてそう声をかけたのは、ガイアの事を危ういと感じていたトーマスであった。


「お前が変わろうと努力してるのはよく分かる。

けど、あまり根を詰めんな。変わる以前に、壊れちまうぞ。

……取り合えず、一旦休め」


「……すみません、ありがとうございます」


 ガイアは、頼りない足取りで、既に清掃が済んでいる場所へと足を向ける。

 そうして座り込むやいなや、すっかり気が滅入っていたのか、ガイアは空を仰いで独り()ちる。


──クソッタレ……。


 そよ風でかき消えてしまうほどの、小さな独り言。

 自分の危うさに気付けなかった、自分自身に対する戒めの言葉であった。

 少し焦りすぎたなと、ガイアは自分の行動を振り返り、反省する。

 今回の原因は恐らく、死を間近に感じてしまったせいだろう。


──俺の好きなペースでやっても間に合うって事なんだろ? 六霊神様……。


 答えの無い問い掛けをして、自然と安堵の表情が顔に浮かぶ。

 山間から差し始めた曙光は、ガイアの顔を優しく包んでいた。

気が滅入る:陰気で憂鬱な気分になること。


独り言ちる:独り言を言うこと。


曙光:夜明けに東の空から差してくる太陽の光。




─用語データ─


双巨盾(タイムシールド)

大盾士(バロン)専用の得物。正式名称は"タイタンアームシールド"。戦闘中には"タムルド"や"タムシ"と略されることが殆ど。

他の武器を一回りも二回りも突き放すほどの圧倒的な大きさと質量を持ち、盾と言うよりは「鉄塊」と表現した方がしっくりくる鈍器な棍具。

攻撃時は縦方向に二分して両手に持ち、旋棍(トンファー)のように殴打するのは勿論、内部機構に組み込まれた射撃機能を使用するスキルを使うことで中距離攻撃も可能。

防御時は双方の殴打部分を地面に密着させて立てることで文字通りの"壁"となる為、その防御性能は大盾と比ぶべくもない。

しかし、その重量故に、実力が伴わない内は持ち続けることすら困難を極める。




─スキル・魔法データ─


強硬防御(プロテクション)

大盾士のスキル。盾の防御性能を強化する。



巨盾炸裂砲(タイタンバースト)

大盾士の中距離攻撃スキル。双巨盾でのみ使用可能。

爆発式の高圧魔力弾を発射する。



(ラン)

剣聖王(ソードマスター)で習得可能な、刀専用スキル。

速さを追求した究極の剣技で、刹那の間に無数の斬撃を相手に浴びせる。

一発一発の威力は低いが、弱点に当てると凄まじい出血を引き起こす。



電磁砲(レルエネル)

雷属性の上級攻撃魔法。

貫通性のある雷エネルギーを発射する。

対象に一瞬で着弾し、それが弱点属性であれば麻痺状態にする。




─魔物データ─


◎ガーゴイル

弱点属性:地(皮膚)/雷、氷(本体)

討伐難度:D+(C+)


石の皮膚に、悪魔のような顔と翼を持つモンスター。

その鋭利な爪は攻撃範囲(リーチ)こそ狭いものの、まともに受け続ければ鉄製防具に亀裂を入れてしまうほどの威力を持つ。

石の皮膚も強固ではあるが、その下には最大の弱点である本体が隠れており、攻撃を集中させて皮膚を剥がすことが最初の攻略法となる。

皮膚と本体で有効な属性が異なる=本体に攻撃する場合は詠唱の難易度が上がるため、十分な省略詠唱が出来ない魔術士が討伐する場合は、誰かに守って貰う必要がある。

また、ヘカトンゲイルによる大群統制が行われている場合は戦闘能力が向上するため、注意が必要。


基本的に数匹単位の群れを成して行動しており、魔力の無い地上30メートル以上の上空にも短時間だが飛行する事が出来る能力を持つ。

町を守る壁が35メートルの高さに決められているのは、ガーゴイルが飛べるギリギリの高さであるためである。




◎ヘカトンゲイル

弱点属性:地(皮膚)/雷(本体)

討伐難度:B+


ガーゴイルの変異種。

石の皮膚は強度としなやかさを増し、尖爪はより殺傷能力と攻撃範囲に優れた"惨爪"へと進化。その威力は爪の一本一本が尖爪片手分に匹敵し、職歴が浅い者の手に届く程度の防具であれば、身体ごと容易く引き裂いてしまう程である。

戦闘能力は勿論の事、統率能力にも長けており、数十から数百単位のガーゴイルを率いて人間の住処に襲撃することもある。

また、その実力の高さ故にプライドも高いのか顔面を傷付けられると怒りだす性質があり、それを利用するか脅威と見るかは実力次第となる。

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