序─VII
「"六霊神に頼まれて、異世界から転生してきた魔法剣士"、ねぇ……」
薬草を絞り、そこから滲み出た液体を最後の傷に塗りながら、少女は目の前の男──ガイアと名乗ったその青年の話の内容を要約し、復唱する。
「はい……。それで、この世界で協力してくれる人を探す為に、森の外へ出てきたんです。
そしたら、魔物と戦ってる方が遠目に見えたので、慌てて駆け付けたんですが……」
「……そう」
瞳に薄らと涙が浮かび、静かに頬を伝う所を、他人に見られたくなかったのだろう。
ガイアの言い方から結果が容易に想像できた少女は、視線を落とし、俯く。
そして、すぐに涙を拭って顔を上げ、「助けてくれて、ありがとう」と言う。
だが、少女はその言葉に「でも」と付け加え、こう続けた。
「あんたを信用するのは、流石に無理ね。それに何より、情報が足りないわ。
確かに、その話を信じれば、あんたが戦闘中にスキル名を叫ばなかった理由も、剣士なのに攻撃魔法を使える理由も成立する。
けど、そんな素っ頓狂な話、一から十まで信じる程子供じゃないわ。
けど、私を助けてくれたし、借りを作りっぱなしなのも気に食わないから、特別に協力してあげるわ。
……ただし」
「ただし……何ですか?」
「さっきあんたが言ってた、"十二の加護"とか、"属性付与"って奴。それを見せてくれたら、協力してあげるわ」
少女がそう言い終わると、ガイアは数秒思考した後、「分かりました」と言った。
そして、少女に一通りの解説を行った後、「想像詠唱」と「属性付与」の実演を開始する。
少女は、様々な魔法を想像するだけで思いのままに動かせるという事や、属性を次々と切り替える光景に目を丸くさせた。
そして、実演を終えて一呼吸ついたガイアは、少女にこう言った。
「えーと……、以上になります。これで、協力してもらえますか?」
「ええ……。確かに、魔法騎士とは明らかに方向性が違うわね。
……あ、私、まだ名乗ってなかったわよね?」
少女のその言葉に、ガイアも「そう言えば」と頷く。
すると、ガイアは「俺が当てますよ」と言い、少女のステータス情報を表示する。
「"アスナ"さん……、俺と同い年でしたか。
職業、騎士なんですね」
「ええ、正解……って、鑑定スキルでも分からないような情報まで分かるの? もう驚きしか出ないわね……。
あ、同い年ならタメ口で構わないわ」
「いいんですか? じゃあ遠慮なく……。これから、よろしくな」
そう言って、ガイアの右手が少女──アスナの前に差し出される。
「ええ、よろしくね」
二人の右手が合わさり、しっかりと握手を交わす。
そして、アスナはばつが悪そうに「その……、傷、大丈夫?」と尋ねた。
「ああ、それならもう大丈夫。加護のお陰でもう瘡蓋になってるし……。
何より、さっきのアスナと同じ立場だったら、俺も同じように怪しんで警戒してたと思う」
ガイアから「気にしてないよ」と言われ、アスナはホッと胸を撫で下ろしたのだった。
◇ ◇ ◇
二人はその後、ガイアが放り出した食料を取りに戻り、冒険者と魔物の死体が残る現場に足を運んだ。
ガイアがどうするのかと尋ねると、アスナはこう説明した。
「コボルドの死体は放っておいていいわ。でも、一応念のために人間の方には魔物除けの香草を添えて、それから"ギルドカード"を回収したら、カードと一緒に最寄りの町で報告をするの。遺体回収班が回収してくれるから、とりあえず今は……、あそこ」
そう言って、ガイアはアスナが指差した方向──非常に巨大な人工の壁らしきものへと視線を向け、「あれは?」と問う。
「アインハルト王国の城下町……私が住んでる町を囲ってる、巨大な"壁"よ。……さ、早く済ませましょ?」
アスナはそう説明すると、ガイアに持たせている魔除けの香草を手に取り、三人の死体へそれを添えてゆく。
そして──、ガイアが最期を見届けた老人に香草を添えたアスナは、今にも掻き消えそうな声で「師匠……」と一言呟き、両手で顔を覆った。
ガイアはそっと老人の遺体に寄り添って合掌し、仏教徒ではないものの、「南無阿弥陀仏」と心の中で経を唱えていた。
「……行こう」
静かな声でそう言うと、アスナは小さく頷き、立ち上がる。
こうしてやるべき事を終えた二人は、城下町を目指して歩き始めたのだった。
─用語データ─
◎魔除けの香草
効能:防臭、魔物接近抑制
防臭効果と、魔物が接近するのを防ぐ効果がある香草。
一部の魔物はこの匂いを嗅いだだけで逃げ出す他、人間の遺体や、剥ぎ取った食用肉に添えるのが主な使い道となる。
ただし、湿気が多い場所では効果が激減する。




