4─XV
今回は、「我が子を我が子と認識できない母親」の描写が含まれております。
苦手な方はご注意下さい。
この異世界において、結婚とは六霊神に誓いを立てる神聖なものであるため、結婚後の浮気は無期懲役、若しくは死刑の判決が下される。
しかし、裁判や夫婦同士の協議による届出によって関係機関による認可が下りた場合は、離婚をすることが出来る。
──そして、その後再婚することは、別段禁止されているわけではない。
だが、離婚や再婚を行う者、並びにそうした相手と結婚する者は、大抵の場合親族一同から敬遠され、最悪離縁される事もままある。
二コラの両親もまた、そういった例外に漏れず、親族から敬遠された夫婦であった。
その原因は、二コラの父・ファルスの結婚相手──即ち二コラの母親が、バツイチであったということに他ならない。
まず第一に、二コラの母親は、自分が身ごもった子供に対して全く興味が湧かない人間であった。
それは前の夫の時も同様で、その時は丈夫な赤子を生みこそしたものの、自身の勝手な判断で適当な町の修道院の前に置き去りにし、それが原因となって関係がこじれ、離婚に至って数年の懲役を受ける事になったのだ。
そして、出所から数年が経過してほとぼりが冷め、三十代半ばに差し掛かってから再婚したのが、二コラの父・ファルスであった。
彼女は、心の底からファルスを愛していた。
しかし、自分の身体の中に宿った子供は、彼女にとって「愛を向けている対象ではない、自分とは別の生き物」という存在以外の何物でもなかった。
更に彼女は、二コラの妊娠が発覚した後も、飲酒を控えるといったようなことをしなかった。
ファルスが寝静まった後に、こっそりと寝室を抜け出し、一人、隠しておいた酒を煽る。
そして、そのような事を続けていった結果、二コラは心臓に不治の先天性疾患を患う事となった。
医師の診断で、ファルスはそれが妊婦の飲酒によるものだということを知り、憤った。
しかし、それでも彼女を嫌いになりきることはでいなかった。
だが、二コラが育っていくにつれて、次第にファルスの妻への愛情は、薄らいでいくばかりであった。
それに加え、二コラの母親は、結局一度も二コラの育児に精を出すようなことはしなかった。
そして、彼女がある日ファルスに向かって放った言葉が、夫婦の離婚を決定的なものへと一気に押しやったのは言うまでも無い。
──決まってるじゃない。あんたが"二番目の夫"で、あんたの子供だからよ。
その非情な母の声は、寝所に居た八歳の二コラの耳にもしっかりと届いており、一家の溝はとうとう取り返しの付かない物となってしまった。
それから二コラの両親が離婚に至るまで、そんなに時間は掛からなかった。
更に、ニコラの母親は再三に渡るファルスの忠告を蔑ろにし、二度に渡って子供の養育義務放棄という重罪を犯したとあって、無期懲役の判決が下るまでそう長くはかからなかった。
涙が流れるようなことも、あるはずが無かった。
しかし、そんな事情など素知らぬ親族は、ニコラとファルスを更に遠ざけるようになった。
ニコラの病気は、現在の技術では完治する為の術は無い。
親族に頼る当てなど無く、娘の命は長くても十五までしか持たない。
ニコラの親として、何をするべきか。結果として、ファルスはニコラと共に世界各地を転々としながら、親子の思い出を作る事を選んだ。
ニコラも、表情の変化こそ乏しいものの、笑顔を見せる回数は確実に増えていっていた。
しかし、最後の目的地であるアインハルト王国を目前にして、ファルスは帰らぬ人となってしまった。
それはニコラにとって、今まで積み上げてきた父親との思い出が、一気に音を立てて崩れ去ってしまう出来事であった。
◇ ◇ ◇
「……そう」
ガイアの言葉から全てを悟ったニコラは、そう言うと静かに席を立つ。
そして、二人をそれぞれ一瞥すると、こう言った。
「イーシスさん……。今日のところは、悪いけど外して貰えないかしら?」
その言葉を受け、イーシスは静かに頷く。
ニコラはその返事を確認すると、ガイアへと視線を移す。
「ここじゃ話し辛いわ。
私の部屋で話しましょう?」
その言葉を聞いたガイアは席を立ち、イーシスに一礼してから、ニコラに連れ立ってラウンジを後にしたのだった。




