4─V
ミラの風属性支援魔法の詠唱完了と共に、一同の足に魔術式が張り付き、素早さが底上げされる。
そして、トーマスの号令と共に、一同は新種の魔物目掛けて駆け出した。
そして、新種が次第に近くなりつつあったその最中、ガイアは新種の魔物の正体と討伐難度を判別するべく、「ステータス確認」の加護を発動する。
しかし──
「ッ!?」
その項目を見た時、ガイアは何が書かれているのか、一瞬理解できなかった。
そして、一瞬遅れて内容を理解したガイアは、思わず歯噛みする。
何故なら、正体を明らかにできるはずのステータスに表示されていたのが、名前・討伐難度共に「unknown」だったのだから無理もない。
つまりこの相手は、未だ自分達ぐらいしか交戦例が存在しない、まごう事なき"新種"だったのである。
自分だけが視認できるその欄を即座に閉じたガイアは、「ステータス確認」の加護の思わぬ落とし穴に内心軽く悪態をつきつつ、目前にまで迫った新種に対してスキルを使うべく、得物に魔力を注ぎ込む。
注がれた魔力は剣の刃を覆うようにまとわりつき、チェーンソーのように回転を始める。
「"甲斬"!!」
そして、完全に不意打ちとなる形で、ガイアは新種の左ふくらはぎに一閃を見舞う。
だが──
(っ!? 硬い……ッ!!)
物理防御を多少無視する特性を持った片手剣スキルの一撃を以てしても、新種の表皮をガリガリと軽く擦る程度の傷しか与えられない。
それどころか──
「……!!」
一閃を終える直前にガイアの耳が金属のひび割れるような音を捉え、視界に振りぬいた刀身が映りこむ。
ガイアの剣は、やや無理やりに攻撃を通そうと力を加えながら攻撃したせいで、刃身が刃毀れを起こしていた。
アスナやミラも攻撃を加えたようだが、その驚愕の表情から、同じことを感じ取った様子である。
そして、驚愕の声がガイア達に響く。
「あんたら、何しに来たんスか!?」
それは、ガイアの視線の先に立って得物を構えている、例の白バンダナを巻いた男の声であった。
トーマスが何かを言おうとするが、そんな余裕はすぐにかき消される。
刺激を受けた新種の魔物が、ガイア達四人をゆっくりと値踏みするように視線を移していたのだ。
そして、それから間を置かずに新種が動き出す。
新種はその右拳を握り、左肩の辺りまでそれを動かし──それは正に、ガイア達を薙ぎ払おうとしている構えであった。
「二人とも足元に潜れ!!」
トーマスとミラ、そして黒髪の野盗を除く三人が急いで新種の足元へと滑り込んだ直後、魔物の腕が薙ぎ払われ、ガイア達の背後から軽く風圧が襲い掛かった。
その僅かな時間に、ガイアは素早く野盗と接触を試みる。
「捕まえに来た訳では無いので落ち着いて聞いてください! こいつから逃げるために、俺達が協力します!」
まさか助けが来るなど思ってもいなかったのだろう。ガイアのその言葉に、白バンダナを巻いた褐色エルフの男は困惑しながらこう言った。
「なんだよ!? いや何なんだよアンタら!?」
「細かい話は後! 今は生き延びるのが先です!!」
ガイアがそう言って敵意が無いことを伝えるのと同時に、薙ぎ払いの攻撃圏外に居たトーマスから、散開の指示が届く。
視線を移すと、新種は足元に入り込んだ人間を踏み潰さんと言わんばかりに、左足でバランスを取りながら右足を持ち上げていた。
三人は素早く新種の足元からバラバラの方向に離脱して直撃を回避すると、そこから距離を取って振り向き、不格好ながらも囲い込みの陣形を作り出す。
そして──新たな餌が自らやって来たと感じたのか、新種はその右腕を振り上げ、アスナ目掛けて振り下ろした。
圧倒的な質量を持つその豪腕が直撃すれば、ただでは済まないだろう。
しかし、アスナもそれを黙って受ける訳が無い。
素早く後方へと飛び退き、拳が当たる直前でその一撃を回避する。
そして、その拳が地面を捉えていた僅か一瞬の合間に、ガイアがその腕へと飛び移る。
そのまま腕を伝って加速するガイアが捉えていたのは、新種の「目」である。
どんなに身体が硬い生物でも、目は柔らかいはず。
そう踏んだガイアは、迷わずに新種の右眼を目掛けて腕の上を駆け抜けていった。
後に彼は、この時の行動をこう振り返っている。
「あの頃は、俺はまだまだ青かった。あの時の行動も、焦りから生まれた軽率な物だった」と──。
(がっ──────)
あと一歩で新種の肘に届くと言う所まで来たところで、ガイアは一瞬何が起きたのか、全く理解できなかった。
自身の右側から凄まじい衝撃が走り、全身の骨──特に右腕と右脇腹の骨が軋み、その圧倒的質量に圧迫されて息が詰まる。
ガイアの身体は軽々と宙を舞い、数秒にも思える浮遊感の後、全身を襲う凄まじい衝撃と共に、僅かに土や雑草が口の中へと入り込んでいた。
そして、全身を襲う激痛と共に意識を失う直前に彼の視界に映ったのは、何が起きたのか理解できていない仲間達と、握った左手の拳が右腕の二の腕付近に移動していた新種の魔物。
直後、彼は理解する。
先程までの新種は、ただ遊ぶぐらいの感覚で相手をしていたのだと。
そして、身の危険を感じたことで一瞬本気を出し、その本気の拳が捉えられずに直撃したから、自分は今こうして地面に倒れているのか、と。
そこまで考えを巡らせた所で、ガイアの意識は一旦途切れ、闇の中へと沈んで行くのだった。




