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魔法剣士ガイア  作者: ふぉるて
序章「新たな大地」
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序─V

 少女はその手に三枚のギルドカードを握り締め、全速力で平原を駆け抜ける。

 師の覚悟を無駄にしない為に。散っていった仲間達の為に。

 そして、自らが遭遇した"異常"を知らせるために、少女は駆け続ける。


 だが、不意に後方から、自分を追い掛けてくる足音が聞こえる。

 先程の群れの内の一体が、抜け出して来たのだろう。

 少女が振り返ったその視線の先には、真っ直ぐに自分を追跡して来るコボルドの姿があった。


 その光景に恐怖を覚えた少女は、距離を離そうとより一層の力を込め、文字通りの全速力で追跡から逃れようとする。

 だが、ここは身を隠す場所の少ない平原である。その上、支援魔法も無しに人間が出せる全速力など、四足走行で駆けるコボルドとは比べるべくもない。

 みるみる内に離れていた距離が縮まり、少女はコボルドの目と鼻の先の距離まで追い付かれてしまう。


「……っ!」


 疲労が極限に達しつつある自分が、単体でも難度F+(強敵)に相当する魔物を相手して勝てるかと言われると、それは殆ど絶望的な賭けに等しい。

 だが、今は戦わなければ、確実に殺される。


 少女はギルドカードを少々乱雑に道具袋(ポーチ)にねじ込んで背中の槍を握り締め、走りながらステップで身体を反転させて敵の方を向き、逃亡を止めて戦闘態勢に入る。

 走ってきたコボルドは勢いのままに少女へと飛び掛かり、その鋭い牙と爪を八つ裂きにせんと言わんばかりにぎらつかせながら、次々と攻撃を繰り出してゆく。

 そして、そのあまりにも素早く鋭利な攻撃の数々を、疲労している少女は捌ききる事が出来ない。

 革の鎧やインナーにどんどん生傷が増え、決定打を与えられぬまま、疲れだけが(いたずら)に溜まってゆく。


 そして──少女が生きることを諦めかけた、その時。


「離れて!」


 不意に男の声が響き、その意味を咄嗟に理解した少女は、バックステップでコボルドから距離を取る。

 するとその直後、どこからともなく飛来した五発の火球(プロミー)がコボルドの身体に直撃し、爆炎を巻き上げる。

 たちまち皮膚の下が見えるほどの大怪我を負ったコボルドは、例の再生する瘴気を全身から噴出させつつ、苦悶の声を上げてのたうち回っていた。


 少女は、声の届いた方向へと視線を移す。

 すると、そこには自分と同年代ぐらいの、剣士(・・)の男が立っていた。


(剣士……?)


 その光景に、少女は激しい違和感(・・・)を覚える。

 周囲は、隠れる場所など一切存在しない「平原」。

 そして、そこに立っているのは、剣を構えた自分と同年代ぐらいの男ただ一人。

 周囲を咄嗟に確認するが、自分とその男以外の人間は一切見当たらない。

 だが、この男が剣士であるならば、先程の攻撃魔法は一体どこから来たのだろうと思案する。


 そして、少女が混乱している間にも、その男はコボルドにとどめを刺さんと襲い掛かる。

 しかし、瘴気によって傷の再生が終了したコボルドは、咄嗟にそれをかわして標的を変更する。

 そこから戦いの火蓋が切って落とされるには、1秒とかからなかった。


 そんな中、少女は一定の距離を取り、コボルドと渡り合うその男を注意深く観察する。

 そして、「いくら何でもタイミングが良すぎる」という懸念が、「好青年の面の皮を被ったこの男は野盗ではないか」という疑惑を深めてしまう。


 故に、もう少し距離を取っておかなければと考えた、その直後。

 男の身体の周囲に文字列が現れ、その文字から左の手のひらに炎属性の中級攻撃魔法(・・・・)炎球(フレア)」が生成される。

 そして、男はそれを手のひらに留めたまま一気に肉薄し、その左手をコボルドの顔面に向けて突き出す。

 ゼロ距離で放たれた炎の爆発と衝撃がコボルドを襲い、ほんの一瞬、視界を奪う。

 男はその一瞬の隙を見逃さず、仰け反って無防備になったコボルドの首を目掛け、横薙ぎに一閃。

 そこからすぐにバックステップし、男は得物を背中の鞘に納刀する。

 剣を鞘に収めるのと同時に、制御を失ったコボルドの身体が崩れ、重力の働くままに大地へと倒れ伏す。

 そして──


「大丈夫でしたか?」


男は片膝をついている傷だらけの少女の元へ歩み寄り、右手を差し出した。


 そこでようやく、少女はハッと我に帰る。

 少女は当然ながら、そんな得体の知れない男の手を取る訳もなく、反射的にその手を払いのけた。

 そして──


「……あんた、何者? 私をどうするつもり?」


剣士のスキルだけでなく、それと相反する存在である攻撃魔法を両方行使していた正体不明のその男に、少女は言い知れぬ恐怖を抱いていた。

 この先、自分はどうなってしまうのだろうか。

 そして、この男は一体何者なのか。

 少女は様々な不安に押し潰されそうになりながら、震えた声でそう問いかけた。


 その男は、差し伸べた手を払われて言われたその言葉に一瞬呆然としていた。

 だが、すぐに我に帰った男は、落ち着いて少しばかり考えを巡らせたようだ。

 恐らくは、少女にとって、今その男がどう映っているのかと。


 そして、少女が先程から抱いていた男に対するイメージ──即ち、「正体不明の不審者」というものに行き着いたのだろう。

 男は、何故自分が少女を助けたのかという経緯(いきさつ)を説明し始めた。

 だが──


「じゃあ、何か自分の身を証明できる物、持ってる?」


それを提示できない限り、少女の疑いは晴れることはない。

 そして、その言葉を受けたその男は、完全に言葉に詰まってしまった。


「やっぱり、あんた……!」


 先程まで追い詰められていたからだろう。今の少女の心の中に、余裕と呼べる物は残っていなかった。

 少女の疑念が確信へと変わり、明確な殺意と共に、その槍を握る手に再び力が入る。

 切っ先を向けられた男は、何も言い返すことが出来ず──。


 少女の全身を琥珀色の光が薄らと包み込み、「ビュン!」という風切り音と共に、容赦の無い一突きが男の顔面目掛けて放たれる。

 男は一瞬反応が遅れるが、咄嗟に身体を(ひね)った事により、その槍が直撃するような事態には至らなかった。

 しかし、槍が掠った右の頬には真っ直ぐな傷口が開き、そこから溢れた血液は、既に頬を伝って地面に(したた)り始めていた。

─魔法データ─


炎球(フレア)

炎属性の中級攻撃魔法。

バスケットボールより一回り程大きい炎の球体を生成し、発射する。




─魔物データ─


◎コボルド

弱点属性:炎、風

討伐難度:D


人間と同程度の体躯を持つ、狼型モンスター。二足歩行も可能。

基本的に群れで行動し、統率の取れた連携攻撃で獲物に襲い掛かる。

ただし、個々の能力は難度F+レベルであるため、それなりの経験を積んだ冒険者が落ち着いて的確な対処を取れさえすれば、さほど苦戦することはない。

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