3─VII
草むらから飛び出したガイアは、アスナの奇襲に注意が向いていた二体のゴブリンの首を撥ねた後、即座にその場から駆け出しながらスキルを発動した。
「"武器属性変化・風"!」
ガイアがスキルを発動するのと同時に一陣の風が吹き、その得物が風の刃を纏う。
協力者であるアスナと二人きりのこの場において、ガイアは手加減をするつもりなど、毛頭無い。
制限時間である六十秒のカウントが始まり、ガイアは自分の方に注意が向いた個体へと駆け出す。
そして、棍棒を構えて防御態勢を取っているその個体目掛け、すれ違い様に一閃。
風の刃を宿した剣は、ゴブリンの首をまるで豆腐のように、棍棒ごといとも容易く両断していた。
そして、ガイアはすぐさま後ろへ振り向き、改めて構えを正す。
その視界に映るのは、自分を駆け足で追い掛ける七体のゴブリンであった。
「"波斬撃"!!」
ガイアは両手で構えて得物に魔力を注ぎ、掛け声と共に得物を振るう。
すると、剣閃がその形に倣って魔力の刃と化し、斬撃となって一番遠くのゴブリンへと発射される。
そして、風属性が付与された衝撃波が発射されるのと同時に、ガイアは駆け出す。
「"徹甲斬"!!」
防御無視の風を纏った一閃が二体のゴブリンを襲い、その息の根を止める。
更に、それと同時に先程の衝撃波が一番離れていたゴブリンへと命中し、風の刃と共に身体の肉を撒き散らしながら絶命する。
「ギイィ!!」
剣を振りきったその隙を狙い、左側から一体のゴブリンが飛び掛かる。
しかし、ガイアはその一撃を小盾で防ぎ、振り向きざまにそのゴブリンの顔面目掛けて左手の裏拳を炸裂させる。
籠手を纏ったその一撃はゴブリンの鼻を潰したその一瞬の隙を突いて、ガイアは右手に持った得物でそのゴブリンの首を撥ねた。
残りのノルマは三体。そしてやはり当然と言うべきか、「武器属性変化・風」の持続時間は、まだまだ余裕がある。
残った三体は遠巻きにガイアを取り囲み、徐々にその輪を縮めていく。
しかし、やはり知能が低いからか、はたまた我慢しきれなくなったのか、若しくはそれが作戦だからだろうか。
包囲していた三体の内、ガイアから見て左斜め前方に居たゴブリンが、棍棒を振り上げながら肉薄した。
更に、それから一秒ほど遅れて、ガイアから見て真後ろに居たゴブリンも動き出す。
ガイアは、左側から力任せに振り下ろされた棍棒を小盾で受け止めると、それをいなすように払うついでにゴブリンの右腕をがっしと掴む。
そして、すぐさまその腕を思いっきり引くと、体勢を崩したゴブリンを後方へと放り出す。
すると、放り出したゴブリンは見事に真後ろから迫ってきていたゴブリンへと直撃し、二体はぶつかった衝撃で尻餅をついてしまう。
そして、ガイアは自らの手で生み出したその隙を、みすみす逃すような真似はしない。
立ち上がろうとしていた二体を直線上に捉え、ガイアは真っ直ぐ胸部へと突きを放つ。
二つの心臓をガイアの剣が貫通し、二体のゴブリンは大量の血を吐きながら絶命した。
「ギィッ!!」
しかし、まだもう一体残っている。
ガイアはすぐさま後方へと視線を移し、右手で剣を引くが──
「……ッ!?」
その剣は、何かの力で掴まれているかのように、抜ける気配を見せない。
そして、ガイアは剣の方へと視線を戻し──驚愕する。
そこでは、胸を貫かれた二体のゴブリンの内の一体が、剣の刀身をがっしと掴んだ状態で、その顔に不気味な笑みを浮かべたまま絶命していた。
ガイアは、自分に迫っているゴブリンが棍棒を振り上げながら跳躍する気配を察知して振り向くが、小盾を構えようにも時既に遅く──。
──こんなことで二回目を使う羽目になるのか……!
そんな思いが一瞬でガイアの脳裏に浮かび、死を覚悟しかけた、その時。
「"投槍"!!」
聞き慣れた女声と共に、飛び上がったゴブリンの後方から、槍がその身体を貫いた。
槍はそのまま見事な放物線を描き、ガイアへと迫っていたゴブリンの死体を貫いた状態のまま、ガイアの頭の上を飛び越えて地面に突き刺さった。
「大丈夫!?」
そう言いながら駆け寄ってきたアスナの声に、ガイアはハッと我に帰る。
「ああ……、ありがとう。助かったよ」
ガイアはお礼を告げると、右足でゴブリンの死体を押し出しながら、どうにか剣を引き抜いた。
そして、死屍累々と化した周辺を見渡し、改めてその光景に気が滅入ってしまうガイアであった。
その後、残党等が居ないかを入念に確認した二人は、ゴブリン達の死体を集落の外へと運び出した。
集落は臭いがきつく、とても長居などしていられないというのが二人の総意であった。
その後、二人共に得物の手入れを終えると、ガイアは道具袋から青の発煙玉を取り出して玉から伸びている紐を引っ張り、「そぉい!!」と言う掛け声と共にそれを上空へと放り投げた。
そして、森の木々よりも上の辺りに差し掛かったところで、大量の青色の煙が炸裂する。
ガイアはその光景を確認すると、腰のベルトの後ろに携えられている解体用ナイフを取り出し、アスナと共に剥ぎ取りの作業に取り掛かった。
しかし、ガイアは一ヶ月経った今でも、肉や臓物を捌く感覚には慣れない。
解体用ナイフを「戦闘思考術」の加護が得物であると認識して集中力を高めてくれなければ、ガイアは恐らく、今でも解体のかの字すら出来ていなかっただろう。
自分を転生させてくれた六霊神へと心の中で感謝しつつ、ガイアは剥ぎ取る手を動かし続けていた。
「……ちょっと、いい?」
そんな中、隣で作業をしていたアスナが口を開いた。
「ん? 何?」
そして、二人は手を動かしながら、言葉を交わし始める
「うん……、さっきの戦闘なんだけどね。あんたの動き、大分良くなって来てるなって思ったのよ」
「え……、そうか? 具体的にはどんな?」
ガイアのその問いに、アスナは一旦手の動きを止め、ガイアの顔を真っ直ぐ見据えてこう言った。
「魔物に止めを刺す時に、一々目を瞑らなくなったじゃない」
そのアスナの淡々とした答えに、ガイアは一瞬硬直した。
そして、一ヶ月前の自分と、先程の自分を冷静に思い返して参照し──
「あっ……、そう言われてみれば、確かに」
アスナが言った言葉の通りであると、ガイアは思った。
「でしょ? 一々目を瞑って止めを刺してた頃と比べて剣筋に迷いも無くなって来てたように見えたし、かなり良い感じに見えたわ」
アスナの忌憚ないその意見に、ガイアは一言「ありがとう」と返す。
しかし、ガイアはその後に「でも」と付け加え──
「剥ぎ取りの感覚には、まだ当分慣れそうにないや……」
そう言って、既に剥ぎ取りの解体を終えたアスナへと助けを求める視線を送った。
「……しょうが無いわね。何体残ってるの?」
アスナはやれやれと言った様子でガイアの方へと赴き、隣に座って解体作業の手伝いを始めるのだった。
忌憚:遠慮
─スキルデータ─
◎武器属性変化
魔法剣士の職業専用スキル。
発動から60秒の間、自分の得物に任意の属性を付与する事が出来る。
ただし、得物が元から属性を宿している場合は使用できない。
また、効果時間中に属性を変更する場合、付与されている属性と相反する関係にある属性に直接変更することは出来ない。
◎波斬撃
上級剣士で習得できる、両手剣専用スキル。
魔力の刃を生成して飛ばす牽制技。
そこまで威力は高くないが、武器の属性効果の恩恵を受けやすいという長所がある。
剣士で習得できる「波斬」の派生に当たるスキルであり、衝撃波のサイズと威力が強化されている。
◎徹甲斬
上級剣士で習得できる、片手剣専用スキル。
攻撃対象の防御力をそこそこ無視して攻撃する。
「甲斬」の派生に当たるスキルであり、より大きなダメージを与えられるようになっている。
─魔物データ─
◎ゴブリン
弱点属性:風、水
討伐難度:F
黒緑色の皮膚に、ポッコリ出たお腹と尖った耳が特徴の人型モンスター。
単体であれば討伐難度はGだが、基本的に群れで集落を作って暮らしているため、二人以上での対処が望ましいとされている。
液体付着系の手投げ玉の袋としてゴブリンの胃袋が使われているため、その需要は常に尽きることがない。




