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魔法剣士ガイア  作者: ふぉるて
第3章「胡蝶の決意」
45/156

3─II

 ガイアは冒険者ギルドの玄関を潜り、今日もせっせと働く受付嬢達に軽く会釈をしながら、受付から左側にある通路へと向かった。

 その先にあるのは、ギルドメンバー及び従業員専用の、所謂「社員食堂」である。

 しかし、現代社会のような券売機があるわけではないので、注文形式は普通のレストランと何ら変わりは無い。

 ガイアはその中から適当な席を見繕い、そこへ行こうとして──


「この前の告白の返事、そろそろ聞かせてくれないかな、アスナちゃん(・・・・・・)?」


右側から聞こえてきた男の声に、思わずその足が止まる。

 ガイアがその方向へと視線を移すと、そこには見慣れた藍髪サイドテールの少女──アスナの後ろ姿。

 そして、そんなアスナと対面しているのは、シュウとはこれまたベクトルの異なる、所謂「甘いマスク」と言う言葉が似合うタイプのイケメンであった。

 その男はクーリアであり、赤茶色の髪の毛は頭部から首の辺りの高さへ下がるにつれて扇状に広がっている。そして、それがお洒落な帽子と見事に噛み合っていた。


 その二人が対峙していた光景と、先程の男の言葉の内容を目の当たりにしてしまったガイアは、思わずその場で立ち止まってしまっていた。

 アスナは、可愛い。一般人に聞けば、間違いなく十中八九そうだと賛同されるであろうという事が容易に想像できる程のルックスである。

 そんな可愛い異性が、誰からも声を掛けられない筈が無かったのだ。


 その現実を突きつけられたガイアの心臓が、一気に高鳴る。

 それは、初めてアスナの顔をまじまじと見たときに感じた、「好き」という感情による"焦り"。

 しかし、それもある意味当然の事であった。

 可愛いと言うことは、それだけ人気も高い。

 だが、可愛くても中々その相手に告白する勇気を持てないというのが大多数だろう。

 しかし、こういうイケメンに限って言えば、その法則は当て嵌まらない事がある。

 嫌な予感がガイアの心の中で大きくなり、右頬の傷の上を冷や汗が伝う。

 だが──


「イーシス先輩、しつこいですよ。私は、あなたのような、人間の風上にも置けないような人からの告白を受け入れる気はありません。

……口で言っても分からないのなら、その身に直接教えて差し上げましょうか?」


アスナは明確に拒否の意思表示を行い、イーシスを睨みつける。

 しかし、イーシスと呼ばれたその男は、アスナの明確な拒否の意思表示に対してこう言った。


「あはは。不機嫌なその顔も、また素敵だよ。

……僕は、君のことが本気で好きなんだ。それを、どうか分かってくれないかな?」


 そう言って、イーシスは本気の眼差しでアスナの瞳を真っ直ぐに見据える。

 しかし、アスナはすぐに視線を逸らし、冷たい声でこう言い放った。


「"ツバクローの涙"、"フレイムガイルの炎逆鱗(えんげきりん)"、"テランデスの足首骨(そくしゅこつ)"。

それらを全部お一人で揃えられた上で、その無駄口を叩く唇を針と糸で全部縫いつけてくれたら、考えない事も無いかも知れませんね」


 それは、この世界において、告白を断る際の最上級の意思表示。

 即ち、告白を断った上で、今後一切自分に関わるなという意味の、最終警告であった。


 しかし、その言葉を受けても、イーシスはアスナから視線を逸らさない。

 だが、アスナもこれ以上何かを話す訳でも無くイーシスを睨みつけるだけであり、沈黙の時間が続いて行く。


 そして、その様子を見かねたガイアは──


「……アスナ、お待たせ」


背後から、なるべく自然に遅れてきた(てい)を装って声を掛けた。


「えっ……?」


 小さくそう言って、驚いたように目を見開きながら、ガイアの方に顔を向けるアスナ。

 そんなアスナに対し、「話を合わせて」とガイアは心の中で念を飛ばす。

 すると、アスナは無事にその意思を汲み取ったようで──


「……全く、遅いわよ。五分も遅れてるじゃない」


壁の時計をちらっと見ながら、そう言った。


「ごめん、探し物が長引いてさ」


「全くよ。

……それじゃ、イーシス先輩。そういうことなので、私はこれで。

あなたのような人でも、心の底から"好きだ"って言ってくれるような人が現れると良いですね」


 (さげす)みの目でにっこりと笑顔を作りながらそう言ったアスナは、ガイアと共に離れた場所にある席へと早足で歩き始める。

 そして、アスナは二つ並んで空いていたカウンター席の一番端の席に着席し、ガイアはその隣に壁になる形で着席する。

 すると、アスナは小さな声でこう言った。


「ありがとう、助かったわ」


「どういたしまして」


 すると、その言葉が終わるのと同時に、見計らっていたかのように給仕が水とお手拭きを二人の席に置いた。

 そして──


「ガイアさん、ナイスプレイでしたよ」


二人だけに聞こえるように、彼女は小声でそう言った。

 ガイアは思わず驚いて、給仕の顔を見る。

 そこには、いつぞやの受付でガイアにランクの説明を行った眼鏡の受付嬢──サリアが、飲食スペースの制服に身を包んで佇んでいた。

 そして、右手で軽く縁を押し上げて眼鏡の位置を修正すると、いつもと変わらぬ表情のままこう言った。


「あのイーシスという人、女性関連の問題の枚挙に(いとま)がないんですよ。とんでもないスケコマシの(くず)野郎です。

"綺麗な女性を見ると口説かずにはいられない"とか言い出すような、軽薄でふざけた人です」


「……うわぁ……」


 サリアからイーシスの評判を聞いたガイアは、そのあまりの内容に引いてしまっていた。

 更に言えば、イーシスは今年になって他の町のギルドから編入してきた為、まだこのギルドに出入りし始めてから一年も経っていないのだ。

 にもかかわらず、すらすらとそれだけの言葉が出てくる辺り、イーシスの女癖の悪さは相当な物なのだろう。

 すると、サリアの酷評に続けてアスナもこう続けた。


「そんな風にどんどん片っ端から口説いていく癖に、結婚話を切り出したら途端に掌返して"別れよう"とか言い出すから、更にたちが悪い屑野郎なのよ。

あんな人と付き合うくらいなら、シュウ先輩の方が10倍……いや、100倍マシよ」


「うん。あの人の女癖の酷さはよく分かったけど、さり気にシュウ先輩までディスるのやめよう? 悪い人じゃ無いんだから」


 アスナのその言葉に同意はしつつも、シュウのフォローを忘れないガイアである。


「さて……、そろそろご注文をお伺いしましょうか?」


 サリアの声に、二人はメニューへと視線を移す。


「じゃあ、青茶(あおちゃ)で」


「私も。……あ、ガイアの分私にツケといてくれる?」


「えっ!?」


 アスナの口から飛び出したその言葉に、驚いてアスナの顔を見るガイア。

 すると、アスナはあっけらかんとした様子で「さっきのお礼よ、それぐらい奢らせて」と言った。


「畏まりました。お食事の方は、また後程お伺いします」


 それだけ言うと、サリアは厨房の方へと去って行った。


「……あっ、そうだ。あんた、そろそろ依頼を受けた方がいい頃なんじゃないの?」


 メニューを見繕う最中にアスナにそう言われ、ガイアは自分の財布の中身を思い出す。

 ガイアが最後に依頼に出て報酬を受け取ったのは、この日から丁度一週間(六日)前であり──即ち、貯金に幾ばくか回しているのであれば、そろそろ懐が寂しくなり始める頃合いであった。

 そして、アスナのその言葉は「自分と依頼を受けないか」という勧誘の意味も含まれていた。


「今回受けるのは"F+"の依頼よ。私の憂さ晴らし、付き合ってくれない?」


 その言葉から、先程のイーシスに対する鬱憤が溜まっていたのだろうと判断したガイアは、当然二つ返事でその申し出を受け入れた。


「お待たせしました。こちら、青茶でございます」


 それから間もなく、サリアが二つのグラスに注がれた青茶を持って現れ、それを二人のテーブルのコースターの上に置いた。


「ロコモコ丼Aセット、大葉ドレッシングのサラダ大盛りでお願いします」


「じゃあ、私は日替わりパスタのBセットをお願い」


 青茶──元の現代世界であれば、「ウーロン茶」に当たる飲み物が置かれたことを確認した二人は、それぞれ目的の物を注文する。

 サリアが立ち去ると、二人は静かにグラスをカツンとぶつけ合い、乾杯を行って渇いた喉を潤す。


(本の続きは、帰ってきてからだな……)


 ガイアはそんなことをぼんやりと考えながら、ロコモコ丼を今か今かと待ち続けるのだった。

─用語データ─


◎ツバクローの涙

ツバクローが三年に一度の産卵の折に、一番最初の卵を産む際に流す涙。

地面に落ちるまでの間に空気に触れて結晶へと変質するが、地面に落ちた際の衝撃で木っ端微塵になってしまう為、その間に回収しなければならない。

しかし、ツバクローは獰猛で警戒心が強い上に、隠密スキルを見破る眼を持っている為、どう足掻いても採ることは出来ない。

この素材名を告白の返事に使った場合、「私はあなたに対して一切魅力を感じる要素が無い」という意思表示になる。



◎フレイムガイルの炎逆鱗(えんげきりん)

フレイムガイルの背中を覆う鱗の中でも、特に希少価値の高い「逆鱗」と呼ばれる一際(ひときわ)抜きん出た硬度を持つ鱗が、フレイムガイルの怒りの炎を宿した状態の物。

通常の逆鱗と異なり、常に炎のような高温を放ち続けていると言われている。

入手方法は、フレイムガイルが怒り状態に移行している最中に、その背中に飛び乗って剥ぎ取ると言う物。

だが、そもそも怒り状態のフレイムガイルは背中が激しく燃え上がっている為、この素材を狙うのは自殺行為である。

また、怒り状態中は背中に攻撃が一切効かなくなる為、遠距離攻撃で剥がすと言った事も出来ない。

この素材名を告白の返事に使った場合、「あなたのその望みは、私にとって何の利益にもならない」という意思表示になる。



◎テランデスの足首骨(そくしゅこつ)

ギガンテスの変異種「テランデス」の足首部分の骨。

しかし、テランデスは状態異常が一切通用せず、図体がデカい上に関節部分以外の殆どの部位に攻撃が通りにくい為、倒し終わる頃にはまず潰れてしまっている。

この素材名を告白の返事に使った場合、「叶わない夢はとっとと諦めろ」という意思表示になる。

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