1─VII
日付は変わり、翌日。
昨日"英雄"と称された冒険者の葬儀が行われたが、冒険者ギルドの玄関はいつも通り開け放たれている。
これは、この世界の"町の外では何時如何なる時に死ぬか分からない"という性質に起因するものであった。
故に、「喪に服す」という文化が存在しないのも、この世界の特徴だろう。
だが、流石にそうすぐに割り切れない者もちらほら居るようで、ギルドに顔を出している冒険者の数はいつもよりまばらである。
そして、そんなギルドの玄関を潜る影が二人──ガイアとアスナである。
「じゃあ、そこで待ってるから」
アスナはそう言って、壁際に設けられている椅子に向かった。
そして、ガイアは受付に向かい、取り合えず真正面──「依頼報告」の受付嬢に話し掛けた。
「すいません、今日からこのギルドの所属になる、ガイアと言う者なんですが……」
「あ、お待ちしてました! これからよろしくお願いします! あ、一番右の受付へどうぞ!」
先日の担当者とは異なる受付嬢と挨拶を交わし、言われたとおりに一番右──「その他総合」の窓口へと向かう。
そして、これまた先日は見かけなかった眼鏡を掛けた受付嬢が席から立ち上がり、ガイアにお辞儀した。
自己紹介を終え、ガイアは目的を伝える。
「承知致しました。少々お待ち下さい」
眼鏡の受付嬢──サリアはそう言って、引き出しのファイルを探り始めたのだった。
ちなみに、受付嬢の顔ぶれが変わっているのは、彼女達がギルド内の各種業務をローテーション方式で回している為である。
その証拠に、先日アスナと報告を行った時に受付を担当していた例の彼女は、今日はギルド奥の飲食スペースで給仕の仕事に携わっていた。
やがて、受付嬢のサリアが二つ折りの硬そうな平面体──ギルドカードを取り出し、それらをガイアの前に置いた。
そして、彼女は"ギルドカード"についての説明を開始する。
ギルドカード。それは、冒険者各人の名前や職業、ランク、所属先等が記載された名刺のような物であるのと同時に、その本人の戦闘実績を自動で記録して行く魔法具でもある。
また、冒険者ギルドに所属する人間の身分証明書でもあり、アスナが検閲で差し出していたのもこれである。
もし仮に紛失した場合は、再発行の手続きとそれに対する手数料が課せられ、一層厳しい検閲が行われる。
そして、死亡した場合はパーティメンバーか第三者が最寄りの町にそれを届けることで死亡したという扱いになり、遺体の回収が行われるのだ。
ガイアはそれらのことを肝に銘じ、受付嬢からカードを受け取る。
そして、そこに記載されていた「ランク」は、「F」であった。
これは、本来であれば最低ランクの「G」から始まるところである。
しかし、ベズアーの毛皮を提出した事とアスナという証人が功を奏し、少なくともそれ相応の実力を兼ね備えている人物だと判断されたのだ。
そして、次はランク制度についての説明。
まず、冒険者ギルドの依頼にはG~SSまでの「難度」があり、それが自分の冒険者ランクで受けられる依頼の基準となっている。
また、難度の後に「+」が付いた依頼は、「それ相応の実力に加え、次のランクに上がるために必要な能力を兼ね備えていないと達成が難しい」と判断されているものだ。
つまり、その依頼を何度も達成できるという事実こそが、次のランクに上がっても問題が無いと判断される基準になるのだ。
「……ランクと難度についての説明は、以上です」
そして、サリアは最後に「他に質問はございますでしょうか?」と問うが──
「いえ、今の説明で今の所質問は無くなりました。丁寧な説明、痛み入ります」
ガイアは深々と頭を下げながら、そうお礼を言ったのだった。
「そうですか。それでは、霊神暦713年11月7日の本日を持ちまして、あなた様が当ギルドの所属であるという事を承認します。
これからの冒険者人生に、六霊神の導きがあらんことを」
彼女はそう言ってお辞儀した後、ガイアにギルドカードを両手で手渡した。
「私の方の手続きは以上になりますが、早速指名の依頼が入っております。担当受付にて、内容をお改め下さい」
最後にそう言うと、サリアは先程まで続けていたのであろう事務作業に移った。
ガイアはギルドカードを道具袋の隠しポケットに突っ込み、早速一番左の「受注手続」の受付へと向かう。
担当の受付嬢と軽い挨拶を交わし、ガイアは一枚の依頼書を受け取ると、ガイアは待機しているアスナの元へと戻る。
そして、二人は渡された依頼書の内容に目を通し始めるのだった。