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八話 狂おしいほどの

カエルまでの距離はホームの端から端までで幾分遠い

もちろん周りの雑魚が黙って見ているわけもなく、私の前に群れをなす

それを皮切りに近晴も戦闘を始めたようだ

盛大な舌打ちの後、剣の金属的な音が断続的に鳴り響く

魔物の唸り声がホームに木霊し、敵の数を眩ませる

魔物は次々と私に向かってきた

脳内を様々な音が埋めつくし、それはある意味での静寂をもたらす

ただ、目や喉を切るだけじゃ足りない

それは人間の急所であってこいつらは違う

力の中心にダメージを

数えきれない敵に囲まれ、身体中を熱が這いずり回る

痛みも恐怖も感じない

いかに効率よく目の前の敵を排除するか

それだけだ


戦闘を始めてどれくらい経っただろうか

それは突然終わりを告げた

魔物の断末魔も近晴の気合いの声もかきけして、ホームを轟音が駆け抜ける

魔物は余韻が消え去る前に瞬時に各々の後方へ移動した

また、始まりと同じ構図へ戻る

違うのは私がホームの中程まで進み、ジャージは所々破れ、全身に傷を負っているぐらいだ

ひどい耳鳴りがするほど静かな空間は魔物の気配と近晴の荒い呼吸音が満ちる

轟音はカエルの発したものらしい

まっすぐと、カエルまでの道ができる

何も動かない

戦闘終了直後から私を覆っていた黒い砂は晴れた

一歩ずつ、ゆったりとした歩みでカエルに近付く

近晴の制止の声はない


何にも邪魔されず、あと三メートル

立ち止まり、半歩引いて足を開き重心を下げる

包丁は右手にもって左の腰の位置

思考は冷静に凪いでいる

カエルに意識を集中し、力の中心を探る

それはほとんど本能だった

なんとなく、眉間にそれを定める

カエルはおもむろに身体の前半分を大きく膨らませた

言い様のない焦りが背筋を抜け、反射的に後ろへ飛びすさる

着地する数瞬前にカエルは再び叫び、私が居たところに魔物が殺到した

何匹も

下の方の魔物は重みで歪み、潰れ、黒い砂へと変わる

後ろから来た魔物に突き飛ばされ床に這いながら、私はその光景を凝視する

その激しさはとどまらず、必死で頭を庇う

その場にいた全ての魔物が何もない床へとただ無計画に突っ込んでいく

しかしなんの前触れもなくそれは停止した

時が止まったかと思うくらい、唐突に、完全に

潰れる音も風を切る音も消えた

私はいつのまにか閉じていた目をゆっくりと開き、後悔した

魔物の目が、無数の視線が、全て私に注がれている

四方全てを囲まれ、目の無いものもこちらを見ている

逃げた私を認識された


思考が真っ白に弾けた


『ーーーーーーーーっ』


声ですらない音を口から発し、目を限界まで見開く

けれど私は何も認識できず、ひたすら嫌だと叫んだ

言葉にならない

音でしかない

それはきっと本能の叫び

全身が嫌だと、死にたくないと燃え上がる


その時だった


激しい時揺れと共に私を囲むように地面から巨大な岩が生えた

見開かれた目からそれだけを認識できた

近くの魔物は尖ったそれらに貫かれ、次々と黒く消えてゆく

何が起きたか分からない

岩の隙間から辛うじてカエルが複数の岩に抉られ、歪に消えてゆくのが見えた気がした


私の意識は暗転する

溶けた身体の感覚のなかで中指だけが熱く感じた


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