七話 危きてきな
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駅のピロティから侵入した私達は、その後何匹かの魔物を殺しホームの方へと進んでいた
「ここの魔物は他とは違うんだ ホームに人が近付かないように行動している」
それは真っ先に駅へと駆け付けた保護チームの報告だそうだ
街中の魔物は我先にと人間を襲っていた
そこにはなんの統一性もなく、本能のままのように感じられた
しかしここでは行く手を阻むように立ち回る
「だから機関はここに群れのボスがいるんじゃないかと睨んでいたんだ」
近晴は鱗が金属でできた魚を殺しながら説明する
私は二匹のマグロもどきの相手をしながら理解した
確かに進む度に魔物の種類も増え、数も増している
けれど私には好都合だった
一匹を殺す内にもう一匹の振り抜かれた尾びれをまともに食らう
毒で溶けた顔面の左半分は次の瞬間、髪の一本に至るまで回復している
そのとき傷口を覆った黒い砂は散り、本当に身体の構造から変わってしまったのだと実感した
そのことに私は安堵する
でもまだ足りない
薄く溶けた程度なら一瞬だが、血が出るほどの切り傷には時間がかかった
私はまだ殺されてしまう
やっとホームへ辿り着いた私達は目を見張る
そこにいたのは大型犬ほどもある大きなカエルで、しかしそれ以上に背後の無数の卵の壁が異彩を放っていた
常ならば電車の行き来するその穴は、カエル特有の膜で繋がった白濁とした卵に覆われ壁ができていた
丸い卵の中には魔物や人間も混ざって入っていた
動けない私達の前で刻々と人間は溶け、魔物は形作られてゆく
『気持ち悪い』
口から出た言葉にカエルはゆっくり目を細めた
いや、言葉に反応したわけではなく、産卵を続けているのだ
ずるりとまた、卵は薄い膜に包まれたまま胎内から外へと排出される
このカエルが駅のボスだろうか
「飴雪、一旦退くぞ コイツは駄目だ なんかヤバイ」
カエルから一切目を離さず近晴は固い口調でそう言った
ちらりと横目で見たその顔に今まで感じていた微かな余裕は消えていた
見た目ではゴブリンにも劣りそうなただの大きなカエル
しかし私より多くを知る近晴がここまで言うのなら、私には分からない何かを彼が感じているのだろう
それはきっと彼が受けた実験に関する
迷いを振り切りわかった、と声をだそうと口を開いた
同時に起きた
カエルはいきなり目をカッと見開き静止する
そして身体から大音量の鳴き声が発せられホームを揺らし、背後の卵を割った
雪崩出るように生まれた魔物の群れはそのまま進み、私達の前方で二手に分かれ回り込む
「なっ」
慌てて近晴は後ろを振り返り、撤退が不可能なことを悟る
開いたままだった口から止まっていた息を無理矢理吸い込み、私はカエルを睨み付ける
逃げ道はない
なら殺すしかない
包丁の切っ先をカエルの眉間へと向け、僅かに身体の重心を下へ沈める
「待て、俺達には無理だ 後ろの雑魚どもを倒して道を作る」
私の殺気に気付いた近晴は慌てた声でそう指示を出した
しかし従う気など毛頭ない
雑魚は近晴がなんとかしてくれる
そう信じて私はカエルの方へ駆け出した