五話 追いつかないこころ
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近晴は改めて今、各地で起きている異変について簡単に話してくれた
世界に支部があり、日本に本部を持つ異世界研究機関、通称 Gulliver
彼等の研究で数年前、この世界軸に近い異世界を発見しており、相互交流の実験が進められていた
『それって』
思わず嫌な想像が頭を過った
しかし近晴は頷く
「道を作るはずの実験が失敗して、世界が重なったんだ 手を出したのが平行世界ならこんなこともなかったんだろうけど」
事は予想以上に重いようだ
それでも救いはあった
交流の為異世界に馴染む実験も行われていたのだ
近晴もその一人らしい
そしてその方法は極めて単純であり、常人には出来ないことであった
「魔物を倒すんだ」
近晴はそう言った
その異世界は全て何かの力でできているらしい
そこに存在する魔物もまた力の塊
殺すことで霧散していた黒い砂は力そのもので、それを大量に取り込むことで異世界へ干渉できる
「その力はこの世界では強すぎる 身体の構造から変わってしまうんだ 内蔵が破裂しても死なない程度に」
だから彼は私に言ったのだろう
死にたくない、私に
きっと魔物をたくさん殺した私はもう変異している
けれど身体の掠り傷はまだ消えていない
「飴雪はまだ比較的構成力の少ない魔物しか倒していないから、そこまで変異はしてないよ」
近晴は考えを読んだようにそう言った
なんとなく、現状が掴めてきたような気がする
『死にたくなければ、魔物をたくさん殺して異世界寄りの身体を手にいれればいいってこと、かな』
私は確認を含めて、結論を言う
近晴は頷いた
『けど、鎧を刺せるほど私には力がないし』
先程の恐怖が再燃する
しかし近晴はおもむろに猛禽類の残骸、鎧や剣などをこちらへ差し出してきた
「異世界では全てが力でできている 武器だって同じなんだ 構成力が多い方が勝つ 扱う自分が弱くたってそれは揺るがない」
つまり彼が鎧を貫いたのも彼自身ではなく、装備品の強さが大きいということだろうか
なら、この包丁よりそちらの剣の方が強いはずだ
けれど私はそれを受け取らなかった
近晴は怪訝な顔をする
『これじゃなきゃ、駄目なの』
駄目押しで言葉を紡ぐ
近晴は何も言わなかった
長い休憩を終え、近晴は立ち上がり歩き出した
それは拠点とは逆方向で駅へ向かっていく
私はただ何も言わず、ついていった