二十八話 不おんはちかくに
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日が昇る前、しっとりと霧雨が降り始めた
それは酷く冷たく周囲を包み、音もなく濡らしていく
そんな冷たい朝だった
「アメっち起きてっ 拠点の西側が崩れたっ」
オキナの悲鳴に近い叫びで私は飛び起きた
それは最悪の知らせだった
昨日の内に更に丈夫に修復されたジャージに着替え、外へ飛び出す
離れたところから怒号や金属音が激しく聞こえてくる
それを無視してオキナと会議テントへ入った
皆一様に厳しい顔だ
『早く援護にっ』
口に出した焦燥はアオの視線で否定される
「待機の指示だ 他のチームの戦闘員は全員出た、非戦闘員は本部テント周辺に固まって後方支援だ 俺達はこのまま東側を守る」
一見冷静な声だが、眉間の皺は深い
アオも私と同じ思いなのだろう
確かに全チーム出て居住区のあるこちら側ががら空きはまずい
一月だけに任せているのである意味では信頼されている
しかし本意は違う
「私達に戦績を取られるとか思ってるのよ あのクソ甲冑」
最初と比べ随分表情豊かになったオハギが素の口調で罵る
昨日の朝会ったあのノブナガとかいう隊長のことだろう
確かにそんなことを考えそうだ
「戦況は五分五分ってとこらしいよ Aランク相当の魔物が主体で半人蛇型、双頭犬型が多くて鉄の装備を着用してる たぶんボス持ちの群れ」
オキナが苦い顔で報告する
ボス、か
銀狼がちらりと頭を掠める
「ボスの確認は?」
アオの鋭い返しにオキナが更に顔を歪める
「未確認 周辺にそれらしき姿は無し Aを纏めるボスってだけで頭痛いのにたぶんまだ出現してないと思う」
群れは早朝突然発生したらしい
なら時間差もあるのだろう
ツクヨミとの重なりが悪化しているような気がする
今回ほど大きな発生は今まで無かった
最初でさえ同時とはいえ各地で大きな時間差があったのだ
それにこんなに密集して一気に発生していたら私達は生き残っていなかっただろう
状況は良くない
けれどこの狭いコミュニティで上の命令に逆らうのは命取りだ
指示が出るまで待機しているしかない
空気は重かった
私より知り合いの多い彼等は気が気ではないだろう
ユベシとオハギは空気を吸いに外へ出た
「そろそろ潮時かもしれないな」
ぽつりと吐き出された言葉はアオのもの
彼は私を見ていた
コガネがアオを凝視している
「あれを、話すのか?」
コガネは半信半疑といった様子だ
意味がわからない
「ああ、これ以上事態が進んだらいずれ話すんだ もう十分待っただろ アメはもう逃げられないんだ」
アオの声はさっきとは違った冷たさで、表情は読めなくて、腕に鳥肌がたった
私の知らないナニカを彼等は知っている
コガネは俯いている
私は何から逃げられないのだ
アオが口を開いたときだった
全てを揺らすような、地震のような轟音が辺りに響き渡った




