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幕間 近晴独白

月の無い夜

曇天の下で溜め息を吐いた

先程まで隣にいた彼女はもう眠りについただろうか

そっとベンチに手を置くと、ひやりとしていて温もりは残っていなかった


俺に選択肢は無かった

けれど迷ってしまう

本当に彼女を引きずり込んで良かったのか、と


彼女の、飴雪の顔を思い出す

最初に出会ったとき、彼女が"夜月飴雪"だと気付かなかった

実年齢よりどこか幼く儚げで握られた包丁が浮いていた

黒く長い髪は艶やかで大きな瞳は凪いでいた

荒れ果てた街中に佇むその姿は一つの絵画のようで、俺にはそれが酷く神々しく見えた

けれど内実は違ったのだ

死にたくないと泣く声は誰よりも人間的で、生にしがみつくその瞳は燃えていた

朝霧のなか浮かぶ白い肌はやけに艶かしく劣情を煽り、たまに溢す笑みは保護欲をくすぐる


初めての感情だった


人並みに恋愛はしてきたけれど、それとは全く違う

可愛いとか好きとかそんなありきたりな感情(モノ)とは別で、言葉では表せない熱情

愛のような高尚なものでもないそれは、きっと本能が叫ぶ飢餓と似ている

しかしその飢えが満たされることはない

彼女は特別な存在だから



俺達はもう後戻りできない


ツクヨミへの鍵は手に入った


失くしたものは帰らない


捨てたものは拾えない


取捨選択の先に答えはある


けれど、


『謝るのは、俺の方だよ 飴雪』


願わくば彼が、彼女が


幸せな結末を迎えられますように

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