二十六話 吐きだしたことばのいみ
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辺りは闇に染まり、ちらほらと漏れでる灯りが周囲を照らす
一昨日近晴と話したベンチでぼんやりと空を見上げた
月はない
厚い雲が空を覆い、陰鬱に揺らいでいる
帰り着く頃にはユベシもすっかり回復していた
しかし今日は大事をとって早々に眠りに着いた
それに気遣い、私もオキナのスペースで眠ることになっている
オキナは今日の戦利品を持ちより、他の開発者達と会議だ
オハギと猫は相変わらずバーのようなテントで酒盛り
私は目を閉じても眠ることが出来なくて、またここへ来た
「今日も眠れないのか?」
聞き慣れた声に視線を移すと、近晴が少し呆れた顔で笑っていた
そのまま横に座り、静かにこちらを見る
『ついこの間もこうして話したね』
何とはなしに呟く
「そうだね、飴雪サン」
おどけて近晴は肩を竦める
今はそれに笑い返すことはできない
静かな瞳は私を促す
『ねえ、近晴 ごめんなさい』
吐き出した声は思ったより震えていて小さかった
最初に出会ったとき、私は近晴の手のひらを切りつけた
『ごめんなさい』
今日は大切な仲間を守れなかった
『ごめん……』
声にならなかった思いは水となって溢れだした
涙が頬を伝い、落ちた滴は溶けない氷を濡らす
酷く冷たいそれを両手で包み、祈るように謝った
これはあの日失くさないように握りしめた、死への恐怖
最初の思い
「俺についてきたこと後悔してる?」
それは同じ質問だった
一度ははぐらかした質問
近晴は笑っていなかった
たまに見せる整った無表情
感情の読めないそれは私を不安にさせる
『…それは』
後悔
その言葉の意味を私はまだ知らない
悲しみは抱くけれど悔いているのか分からない
だから私は質問に答えることができなかった
『母さんは死んでしまって、身内もいなくて… 私はどこにも行く場所がないよ』
母さん、優しかった母さん
肉片も骨も、きっともう残ってはいないだろう
本当は逃げ出したかった
けれど何もない私には行く宛も頼るところもなかった
近晴は優しい
だから私はついてきたのだ
後悔はきっと、していないと思う
見えない星に願う




