二十四話 狙われた
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大きく隆起したアスファルトとその原因となった曲がりくねった樹木の影から群れの様子を伺う
全体像の把握はできたため、全員で下へと降りた
「散らばった毛はユベシィの風魔法でこっちに飛ばしてもらうから、気にせず行っちゃってね!アメっち」
間近な魔物にも臆さず、飄々とオキナは笑った
ユベシはその場に、私とコナシは障害物のない位置取りをする
まだ気づかれていない
暢気に草を食んでいる
一番手前は燃えるような赤色の魔物羊だ
両脇には緑と黄色、順番の違う信号機のように横一列で仲良く佇む
私はコナシと目配せし、コナシはユベシに確認の頷きを返す
狩りの始まりだ
ひゅんっ、と空を切り鋭い軌道で矢が飛んでいく
それは寸分たがわず赤色羊の足を貫き、よろめかせる
魔物達の注意はこちらへ向いた
即座に数本の矢が魔物達の動きを封じていく
「ぎいいいいい」
けたたましい鳴き声は十字路に木霊し、周囲の魔物も騒然とざわめく
しかし横に並んだ魔物でこちらは見えない
群れに混乱が走る
追い討ちをかけるように闇魔法が風の流れに乗り、目を奪っていく
お膳立ては十分だ
私は狼のように羊の首へ、その牙を突き立てた
大きな頭が鋭く空を薙ぐ
それをかわし、潜り込んだ先で短剣を思いきり顎に突き刺しすぐに距離を取る
舌を貫かれた魔物は悲鳴をあげることなく黒く消える
次は右からの攻撃
目は闇で覆われ右前足は矢で深手を負っている
それでも彼らは止まらない
一刻も早く殺すことが彼ら魔物への最大の優しさ
もう何体殺したか分からないが未だにオキナからストップがかからない
コナシはもう手持ちの矢が無くなった為オキナの荷造りの手伝いをしているはずだ
きっと力任せに圧縮して詰め込んでいるのだろう
黒い砂が消えると同時にふわりと風が足元をかすめ、毛をさらっていく
そろそろ私も疲れが出始めた
太陽は真上を過ぎているのでとっくに昼にはなっているはずだ
『ねぇ、まだ集めるの?』
いい加減辛いので忙しなく攻撃しながら声をあげる
「え~、あともう数十体くらい頑張ってもいいよぉ?」
オキナの言葉に耳を疑い、つい振り返ってしまう
『ちょっと!もうリュックからはみ出すくらいあるじゃないっ』
パンパンに膨れたリュックは蓋の隙間だけでなくあらゆるポケットからも鮮やかな毛が溢れている
「アメッ」
短い叫びはユベシのもので、慌てて前を向くと鮮血が舞った
ユベシは私に振り下ろされていたはずの角をその身に受け、ボールのように宙を飛ばされた
少し遠くの木に背中からぶつかり、地面に横たわる
余所見をした私を庇ったせいだ
『ユベシッ』
全身が一気に冷え、足がユベシの方へと駆け出す
しかしそれはすぐにとまった
「アメっち!先に魔物を倒してっ ユベシは後でいいからっ」
オキナの叫びで返り血を浴びた魔物へ視線が移る
そうだ、先に殺さなければオキナ達にも被害がでるかもしれない
再び襲いかかった角を難なく避け、眉間へと振りかぶった短剣を叩きつける
それだけで十分だ
少し離れた場所で様子見している魔物羊以外近くにはいない
私は急いでユベシに駆け寄った




