二十三話 縫いつけられたぎぜん
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街並みはずいぶんと変わってしまっていた
舗装されていた道はひび割れ、地表の多くを多彩な植物が覆っている
見たこともない形のそれらは、たった半日で大きく成長していた
車は使えなくなった
不安定な足場を歩きで進む
「私達は大通りを直進した先に確認された羊系の魔物を狩るよ~ アメっちのジャージと同じ素材だねぇ」
蛮刀を手に持ち、弓を背負ったコナシを先頭に進みながらオキナの話を聞く
素材を回収するには胴体を傷つけずに殺す必要があるらしい
そうすると本体の肉部分のみ砂となり、毛は残るそうだ
真ん中を歩くオキナの背に彼女には大きすぎるリュックサックが背負われている
それがいっぱいになるまでが今日の目標ということらしい
最後尾を歩きながら周囲に気を配る
今回は人数も少ない上に収集目的の為、オキナも近くで指示を飛ばすのだ
非戦闘員であるオキナを守るのはユベシが担当している
しかし魔物を近づけないに越したことはない
唯一の前衛である私が気を付けなければいけない
拠点からだいぶ離れた十字路
そこは魔物羊の群れに占拠されていた
アスファルトを砕き生い茂った異世界の下草を食べている
私達は大通りに面したビルの六階からそれを見下ろしていた
小路に反れ裏口から入ることになったが、幸い建物の中の魔物は初日に大多数を駆逐されている
大した戦闘もなくこの見晴らしのよい場所へ辿り着いた
体長が普通車ほどもある魔物羊はところせましと十字路を埋め尽くしている
雌雄の区別があるかは分からないが、その全てに鋭利な先端の角が生えていた
しかし彼らの最たる特徴はやはり色とりどりのもふもふな毛並みだろう
濃紺やショッキングピンクまで様々な色で地面は覆われていた
オキナの話を心のなかでおさらいする
今回は魔物の密度的にも一度に複数を相手取る必要がある
その上ただ殺すのではなく、頭部か足にのみ攻撃が許される
まずはコナシが魔物達の足を遠距離から奪い、周囲の魔物をユベシの魔法で牽制する
その間に私が一体ずつ仕留める
「私は基本的に攻撃系の魔法しか使えないんだから、あんまり期待しないでよねっ」
ユベシは不安気な顔で眼下を見ている
実際に見たのは遊園地だけだが、聞いた話では目眩まし系の闇魔法と殺傷系の風魔法のみ扱えるそうだ
その為今回は威力を最小限にまで抑えた風と闇のコンボ技でどうにかするらしい
魔法は使いすぎれば命に危険があるほど体力を消費するのだ
あまり彼女に負担はかけられない
コナシにしてもそうだ
彼には矢の本数という決定的な制限がある
多少蛮刀を扱えるが、やはりオキナやユベシを守りながらの前衛は厳しいだろう
つまり私が潰れれば戦線は瓦解する
ずいぶんと致命的なパーティだ
しかし私はどこかでそれを喜んでいた
私は必要とされている
そのことが嬉しい
ひどく黒いその感情に私は自嘲するしかなかった




