二十話 溶けたそらのしずく
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ぽつりぽつりと空から水が落ちてきた
その雫は私の頬を流れ、ジャージに数多の染みを作り、黒い砂をかき消していく
空を舞う黒いもやはやがて消え、私の右肩を覆うそれも少し遅れて後を追った
魔物がいたところには小さなイヤーカフが落ちていた
それを拾い上げ、そっと耳につける
羽の形をしたそれは、やっぱり私の耳にしっくりと馴染んだ
本格的に降りだした雨に見送られ、私達は遊園地を後にした
「まさかアメっちがあそこまで戦えるなんて思ってなかったなぁ」
バンの中で遠くから見ていたらしいオキナが笑いながらぼやく
「ああ、正直驚いたよ コガネの言葉を信じてなかった訳じゃないけど、群れのボスを一人で仕留めるなんて」
彼等はわりと早い段階で私の戦闘を見ていたらしい
けれど言葉を交わしたことは知らない
言うつもりもなかった
「まあ、認めてあげなくもないわね でも肩に一撃食らうなんて爪が甘いのよ」
ユベシがつん、とそっぽを向きながら腕を組んでいる
もう治ったとはいえ痛いものは痛い
心配してくれているのだろう
オハギと猫は眠っていた
オキナがジャージの改良について話しだしたので、私はそれを聞き流しながらコガネを見た
窓の外を見ていた彼は私の視線に気付くとふんわり微笑んだ
「お疲れ」
頬を人差し指でつつかれる
それを驚いたようにアオ達が見て冷やかしてきた
コガネは笑いながら怒っている
温かい空気だ
けれど、コガネの瞳に冷たい寂しさが宿っていたのを、私は見逃さなかった
本部へと帰りついたのは暗くなってからだった
スムーズに進んだようだがやはり移動などで時間がかかったようだ
アオは報告へ行き、その後全員で食事を済ませてからすぐに解散となった
ようやく長かった二日目が終わる
手足が重く疲れが意識を溶かしていく
布団に入った頃にはもう夢の中に落ちていた
ふわふわと霞がかった白い景色の中で、私はメリーゴーランドに乗っていた
白馬は緩やかな音楽と共に上下し、前へ前へと進んでいく
私は笑顔で手を振る
その先には笑っている母さんと、誰か
それは父さんだっただろうか
駆け寄る私を肩車し、次はどれに乗ろうかと相談する
晴れた日だった
温かな日だった
父さんの顔はどんな風に笑っていただろうか




