十八話 着いたばしょ
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行き先は隣の区にある遊園地だった
小さめのバンに乗り、目的地へ急ぐ
その合間にアオから説明があった
避難中だった十数人の市民とチーム六月が魔物の集団に襲われ遊園地に籠城しているらしい
予定時刻を過ぎても到着せず、捜索隊が結成され発覚したようだ
魔物は犬型で一体ずつは強くないが、組織だった動きをする厄介な相手らしい
「囲まれそうになったら後衛は集中的に支援を 今回は差し迫った命の危険はないから救助よりも殲滅メインで動く」
アオの言葉に異論はでない
猫に跨がったオハギの護衛でバンは何事もなく目的地へと辿り着いた
最後に遊園地へ来たのはいつだったか
ふいにそんなことを思った
しかし母子家庭だった私は親子で出掛けた思い出も少なく、学校行事の時くらいしか記憶になかった
ぼんやりした記憶の波は去り、現在の光景が視界に映る
バンから降りて荒れ果てた遊園地へ足を踏み入れる
すぐさま、二体の大きな犬が襲ってきた
左をコガネが剣で一薙ぎし、右をアオが槍で貫く
それだけで魔物は黒い砂となった
カラカラと軽い音を立てて何かが地面へ落ちる
「オキナ、これは?」
普段の白衣ではなく、丈の長い翠のマントを羽織ったオキナはアオに投げられた何かをキャッチする
「んーと、首輪、だねぇ 特殊効果は無し 鉄製で主に獣に着用させるって感じかなぁ」
オキナの瞳がちらちらと瞬き、首輪を見つめる
スキルを発動したようだ
「猫にでも着けさせるか?」
コガネの軽口は猫の不機嫌そうな唸り声で一蹴された
余裕のある滑り出しだ
ゲートをくぐり、駐車場横の遊歩道を歩く
遠くに何匹か先程と同じ犬を見かけたが、すぐに姿を消した
あちらこちらで遠吠えが聞こえる
恐らくこちらが侵入したことはもう気付かれているのだろう
城のような装飾のチケット売り場で、オキナと別れた
オキナは屋根の上で戦況を教えてくれる役割らしい
『離れたら声も届かないし意味ないよね?』
その疑問にはコナシが答えてくれた
「俺達はどんなに遠くても意思の疎通ができる オキナの報告は俺が伝える」
ずっと黙っていたコナシの第一声はそんな感じだった
周りは軽く肩を竦めている
きっと兄妹の絆的以心伝心だろう
スキルではなさそうだ
私はなんとなく感心した
目の前にはwelcomeの文字と花壇
花は踏み荒らされ文字は血濡れていた
昨日は日曜日だった
ここにも多くの犠牲者が弔われることなく今も踏みにじられているのだろう
そっと目をつぶり、黙祷を捧げる
「チーム六月は一番奥のアスレチックゾーン、最上階展望部分に避難民と籠っている様子 目立った外傷は無し 魔物は下部の滑り台が攻略できない模様」
コナシがオキナの報告を伝える
この遊園地の最大のアトラクションは園の三分の一を占める巨大アスレチックだ
童話の様なモチーフが各所に散りばめられたそこは、大人もチャレンジできる大きさとして設計されている
もちろんジェットコースターやメリーゴーランド等お決まりのアトラクションもあるが、あまり予算はかけられていないようだ
アトラクションは最奥、そこまでは蛇行した一本道となっている
「視界に入る魔物は全滅 多少の無理なら許可する 死なない程度に全力で行くぞっ」
アオの物騒な掛け声とともに私たちの遊園地攻略は始まった




