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十四話 静じゃくのなかで

14

ちらほらと漏れ出るテントの明かりで、外は案外明るかった

まだ肌寒い風に吹かれ、寝間着の上から羽織ったジャージを着込む

どこにいくでもなく、私は歩き出した

夜露に湿った芝生を踏み、公園の花壇の方へ進んでみる

テント群から少し離れたそこには、先客がいた

「飴雪、眠れないのか?」

端に据え付けられたベンチに腰かけた近晴は静かに苦笑した

『うん、少しだけ、ね』

それに素直に答える

『近晴、あ、ごめん コガネも?』

最初に教えられた彼の名前を口にし、慌てて言い直す

「近晴でいいよ どうせ近くには誰もいない」

促されるまま、彼の隣に腰を下ろす

「ここでは名前で呼ばれないから 機関にいるときはいつも名前を忘れそうになる」

近晴はぼんやりと空を見ながら呟いた

その顔があまりに寂しそうだったから、私も同じように夜空を見上げた

灰色の雲は暗い空を流れ、形を変えて行く

『目を閉じると、私が殺したゴブリンの顔が浮かぶの 見捨てた女の人も』

さらりと吹いた冷たい風に乗せて、言葉をこぼす

「俺についてきたこと、後悔してる?」

空に吸い込まれそうな声は、頼りなさげな少年のようだった

夜空から近晴へと目を移す

近晴は私を見ていた

その瞳には迷い

それが少しだけ苦しくて、私は意地悪く微笑む

『戦ってるときはあんなに老けて見えたのに 今は年相応の顔ね』

きょとんと驚いた顔はますます幼い

「あんなに泣きじゃくってた女の子にそんなこと言われたくないな だいたい俺より年下のくせに生意気だぞ」

まさか死にたくないと泣いたことを持ち出されるとは思わず、咄嗟に言葉がでない

しかしそれ以上に何か大きな誤解があるようだ

『私、高卒で就職して二年で退職した無職だけど、近晴より年下なんだ?』

確認の意味も込めて軽く問いかけてみる

近晴は目を見開いていた

「中学生かと思っ、あー、スミマセンデシタ 飴雪サン」

不自然な片言に吹き出してしまう

『今さら敬語とか止めてよ 近晴は高校生くらいかな いいなぁ学生さん 働かなくてもご飯が貰える』

釣られたように近晴も笑い、ふとその顔が沈んだ

「働いてるじゃんか、今も それに年齢は合ってるけど高校には行ってなかったし」

たしかに、彼等は人々を守るために働いている

戦っている

まだたったの一日しか経っていない

けれどそれは重すぎる生死のやりとりだ

『そういえば、明日も晴れるかなぁ』

私はなんとなく誤魔化した

今も魔物は県の各地に蔓延っている

それは誰かが対処しなければならない問題だ

まだ成人にもなっていない人間が駆り出されるような、深刻な問題

彼等はきっとまだ迷いの中にある

なら、私はどうだろうか


どこか遠くで魔物の遠吠えが聞こえた


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