十一話 塞おうがうま
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拠点へと辿り着いた私の目に映ったのは、余りに閑散とした公園だった
つい数時間前までいた大勢の人々は消え、魔物の襲撃に遭ったのかと心の底から思った
「どうやら市民の避難は済んだようだな」
そうもらす近晴は本部テントへ迷いなく足を進めた
慌てて止まっていた足を動かしついて行きながら、質問する
『避難ってどこへ? 他の場所も同じ状態なんでしょう?』
私の声はひどく困惑した響きをもち、近晴はそれに片眉を器用にあげる
「いや、異世界とは部分的に重なっただけだから周囲の県はなんの変化もないよ それも含めて、詳しいことは向こうで」
近晴はそれだけ答え先へ進む
そこには簡易的な屋根だけのテントではなく、災害用の横幕付きのものが建ち並んでいた
自衛隊が使うような緑色のごつい車もたくさん見える
近晴は近くのテントに顔だけいれ、何か話していた
すぐにこちらに視線を向けてから歩き出す
私は少し呆けながらその後をついていった
「おやおやぁ?任務を放り出してどっかに逃げた剣士様のお帰りだね~ どしたの~?」
近晴と共に入ったテントで、やけに間延びした暢気な声が私達を出迎えた
中心に長机が置かれ、奥にはホワイトボードもある
会議室のような場所だった
先にいたのは五人
パイプ椅子にだらんと腰掛け、眠そうな目でこちらを見るボブヘアーの少女
真っ先に声をかけてきたのはこの子のようだ
「厳しくは言わないがあまり関心はしないな」
呆れたような口調は、ホワイトボードの近くに立った騎士のような出で立ちの男の人
「ふざけるなっ駅への探索が進まないではないか!って猫が言ってる」
恐らく眠っているであろう黒と白の大きな獣を抱えた女の人が怒ったような口調で楽しそうに言う
「とりあえず、アメに自己紹介してくれ」
近晴はその全てを流して、私の方を示しながら疲れたような顔をした
アメ、という呼び名に違和感を抱いたが騎士が先に口を開いた
「このチームのリーダーをしているアオといいます ここではそれぞれ別の名前を名乗る決まりだから、よろしくね、アメちゃん」
優しく笑んだアオの言葉で理解した
理由は分からないが、そういうことだろう
近晴も頷く
「次は私だっ 私の名は猫 この人間はオハギという コガネが連れてきたのならまあ使えるやつなんだろうなって猫が言ってる」
イブニングドレスのような衣装が目を引くオハギは、やはり眠ったままの猫、という名の犬サイズの獣を操る
口は動いているが、腹話術の一種だろうか
「はいはーい 私はオキナちゃんだよぉ ここでは開発を担当してるっかなぁ~ ちなみにそっちのは私の兄でコナシって言うんだぁ もちろん本名は違うけどー」
少女はひたすら黙って地面を見ていた男の人を差し、ついでのように紹介してくれた
あとは隅の方でこちらから顔を背けている少女だけだ
「しょうがないわね 私はユベシ 気安く話しかけないで」
それだけ言ったユベシの服装をつい凝視してしまう
それはいわゆる忍者のような格好だったが、主に白色でポイントに金があしらわれており、暗色なドレスのオハギより目立つものだ
一言でいうなら奇抜
「アメ、あまり見ないでやってくれ」
なんとも言えない表情で近晴が呟いた
私は少し気まずく、彼女から目をそらした
「えっと、改めて 俺はコガネ とりあえずアメにはこのチームに加わって貰いたいと思ってる」
微妙に照れながら、しかし真面目に近晴、コガネはそう言った




