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一話 或るひのできごと

それは何でもない普通の日のはずだった

日曜日の朝、天気予報を横目にトーストをかじる

今日の予定は何もない

というよりも、私に今後の予定なんてなかった

人間関係につまづき退職したのは先月のことだ

正直、復職はしたくない

当分正社員にもなりたくはなかった

『なんか、憂鬱だな』

嫌なことを思いだし、トーストが無味になる

だからゆっくりと自分に言い聞かせる

今日も明日も明後日も、ずっと私は休みなのだ

もう二度とあそこへ行くことはない

なんとなく、口にマーガリンの塩味が広がったような気がした


「今日も穏やかな天候ですね 今週は雨も降らず、過ごしやすい天気に………」

アナウンサーの声に、意識はテレビへと向いた

出掛ける予定もないのに天気を確認するのは社会人を味わった後遺症だろうか

ふと、テレビの音が微かにブレた

アナウンサーの後ろ、公園の風景がゆらゆら揺らぐ

それは機械由来の不具合にしては少し不自然だった

歪な揺らめきの中に黒いナニカが見え、そのナニカはすぐに形となった

くすんだ白い顔があった

その顔に肉がなかった

目も、鼻も、唇もなかった

それは薄汚れたぼろぼろの布を纏って、白く細い手に磨かれた剣を握った、ガイコツだった

自分の瞳孔が収縮するのが分かる

ソレが作り物でないことは、取り落とされたカメラとか、叫び声とか、そのあまりにリアルな全てが物語っていた

そして私は気付いてしまった

家の外から聞こえる、聞いたこともないような悲鳴

私の真後ろでナニカが蠢く音


心臓が大きく跳ねた


汗が背中を伝う

何がいるのかわからない

家の中には私しかいないはずだ

襲われるかもしれない

殺されるかもしれない

私は後ろを振り返った

「あ………ぁあ………」

数十センチ先にソレはいた

ブルドックのような垂れた皮と、横長の顔の半分はありそうな大きく尖った耳

肌は腐った蜜柑のような色だ

棒立ちで掠れた声を発している

ゴブリンといっただろうか

見たことのない生物だった

しかし紙の上でたまに見かけるモノを思わせる

手に包丁を持っている

私にはそれが何より怖かった

驚きより恐怖が勝り、私は声もあげずに骨ばった手に握られた凶器を凝視する

静かな世界に時計の針の音が鳴り響く

止まった空間で時の進みを教えてくれる


じりじりと私の中で恐怖が叫び出す

最初小さかったその声は、今はもう脳内を支配するような大きな声へと変わってしまった

ふいに私は皿の上のバターナイフをつかみ、ゴブリンに飛びかかった

突然の行動に反応できないゴブリンは一歩後ずさる

包丁を持つ腕に掴みかかり、バターナイフをしわに埋もれた眉間に突き刺した

「きっ………」

金属の軋むような音がゴブリンの断末魔だった

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