砂漠の塔④
アラシはニッコリ笑ったまま、シルクに「人型になって。」と指示する。シルクは言われるままに、一瞬で人型に変化した。
ポカンと口を開けて見惚れるプレザーブさん。そりゃあなぁ。チビ龍が見た目美少女になりゃあなぁ。
「へ…?あれ…?チビ…!?」
プレザーブさんはこれ以上ないアホ面でシルクをただただ見つめている。アラシは更にニッコリ笑って説明した。
「俺達ドラゴンは、一定の魔力を持つようになると人型に変化出来るようになるんですよ。」
シルクは無邪気にプレザーブさんに飛びつき「黙っててごめんなさい!」と謝る。一見美少女のシルクを抱きしめるのも気がひけるのか、プレザーブさんの手は所在なげに空中をウロウロしていた。
「いや…なんつーか…拐われたっつぅから飛んできたのに居るし…喋るし…人型になるし…何がなんだか。」
「だよなぁ。俺だってたまげたよ。」
呆然とひとりごちるプレザーブさんに応えつつ、兵士のお兄さんは「おいで」とシルクに呼びかけ両腕を開く。
シルクは嬉しそうに笑うと、チビ龍に変化して兵士のお兄さんの腕に収まった。満足そうに笑った兵士のお兄さんは、シルクをギュッと抱きしめてから、プレザーブさんに面倒くさそうに言う。
「ま、そんなワケでもう心配ないからお前は帰れ。どうせ死ぬ程忙しいんだろ?」
しっしっ…と、ジト目で追い払う素振りをしている。雇い主に対して随分横柄な態度だな。お前扱いだし。
「ひどっ!お前酷いな!めちゃくちゃ心配して飛んできたってのにその扱い!?マジで死ぬ程忙しいのに全部投げ打って来たんだぞ!?帰ったら多分秘書からボッコボコにされるんだぞ!?」
涙目のプレザーブさん。話せば話すほど、デキる若き豪商のイメージから遠のいていくんだけど…。兵士のお兄さんも苦笑している。
「いや、だから早めに帰った方が良くないか…?チビのご両親は俺が探すよ。まぁ、お前の情報網使ってくれれば嬉しいがな。」
「ズルい…。俺だってそっちがいい…。」
プレザーブさんは恨みがましい目で兵士のお兄さんを見ている。
「しょーがねぇだろうが。お前がいねぇと商売が成り立たねぇ。戻ってやれよ。」
するとプレザーブさんはしばらく黙ったあと拳を握りしめ、決意したように宣言した。
「どうせ怒られるんだ。今日はもう帰らねぇ!よしチビ、人型になれ!街に行くぞ!」
シルクが兵士のお兄さんの腕から飛び出した。くるんと空中で一回転。見た目美少女の出来上がりだ。
プレザーブさんは満足そうに頷き、兵士のお兄さんはうんざりしたように頭を抱えた。
「おら!サッサと行くぞ!」
早くも塔を出ようとするプレザーブさん。通るついでに兵士のお兄さんの脇腹に軽くパンチを入れている。
なんなんだろう、フレンドリー過ぎる。俺とミュウみたいな遠慮の無さだな。…幼なじみだったりするんだろうか。
兵士のお兄さんは「痛ってぇ!!」と身をよじっている。
「つーか、俺もかよ!?」
ブツブツ言うそばから、プレザーブさんに「護衛くらいの役には立てよ。」とチョップを入れられている。力関係は間違いなくプレザーブさんが上なんだろうけど…なんか、可哀想だ。
上機嫌で出かけていく三人と別れ、俺達は帰途についた。
「あんまり遊んだーーーっ!て感じじゃなかったな。また、連れてってやるからな。」
アラシがそう気遣ってくれるのが嬉しい。
確かにあんまり休暇にはならなかったけど、俺はこの日、内心すごくすごく満足した1日を終える事が出来た。