砂漠の塔②
なんとか頂上に辿りつこうという瞬間、扉をぶち破って白い塊が転がり出て来た。
「うおっ!!」
驚きのあまり、思わず立ち止まる。
間髪入れずに、後ろから激しい衝撃が襲った。すぐ後ろからついて来ていたミュウが、俺に激しくぶつかってきたからだ。
「痛ったぁ!~~~っ…もう、急ブレーキ止めてよ!!」
「ゴメン!何か転がり出て来て…。」
涙目で鼻を抑えているミュウの抗議に謝りつつ前を見れば、白い塊は壁にぶち当たり、跳ね返ったあげく、また部屋の中に転がりながら入って行ってしまった。
なんだったんだ、今のは…。
恐る恐る部屋の中を覗き込むと、部屋の真ん中あたりに、小さな手足を大の字に広げ、目を回しているチビ龍の姿が目に入った。
さっきの白い塊は、こいつか…。
自力で扉をぶち破り、勢い余ってしまったんだろう。
「うわ~、豪華な部屋!超可愛がられてたんじゃないの?」
ミュウが驚きの声をあげる。
言われて周囲を見回すと、確かにチビ龍1匹の部屋とは思えない程、立派な調度品で溢れている。
高級そうな毛足の長い絨毯、こんな砂漠の土地に新鮮な果物が盛られた食卓、フカフカなソファーには、これまたフカフカなクッションが置かれている。
ひとつひとつの家具は、繊細な彫刻が施され、なんというか、アヴィンドル様の城よりも豪華だ。
思わずポカンとしてしまった。
「チビちゃん、大丈夫?」
ミュウの声に、我にかえる。
そうだよ、こうしちゃいられない。
兵士のお兄さんが目を覚ます前に、チビ龍を連れて逃げないと!
「話は後だ。そいつ連れて、とりあえずこの塔を出よう!」
俺はチビ龍の首根っこをガッと掴み、懐に入れて階段を駆け下りた。
半分くらい駆け下りたところで、懐に入れたチビ龍が、蚊の鳴くような声で何か言い始めた。
「……オエっ…ちょ…揺らさないで…。は…吐く…っ!」
やべえーーーー!!!
慌ててまた立ち止まる。
懐の中で吐かれるのだけは勘弁だ!
そして、またも訪れる、容赦のない後ろからの衝撃。
しかし残念ながら、今回は下りだ。
衝撃を受けた体は簡単に宙を舞い、俺はチビ龍を懐に抱いたまま、激しく階段を転がり落ちる。螺旋状の階段は、歯止めになる部分が一切ない。まるで石ころのようにゴロゴロと転がり落ちながら、俺はちょっと死を覚悟した。
アリア、ゴメン…。先立つ不幸を…。
そう思いかけた時、ふっ……と、体に受ける衝撃が、突然なくなった。
あっ……俺、浮いてる!?
フワフワと浮いたまま、なんとかバランスをとる。階段に着地した途端、力尽きたように浮遊感は失われてしまった。
あ…浮いてるの、ちょっと気持ち良かったのに、残念だな…。
とか思っていたら、ミュウが凄い勢いで駆け下りてきた。
「あっ!!カイン!」
俺の顔を見た途端、何故か号泣し始める。
「よ、良かった…!し、死んじゃうかもって、思った…っ」
うん、俺も思った。
さっきは浮いた事にびっくりして、そっちに気が行ってたけど、ぶっちゃけ痣だらけでそこそこ血まみれだし。あちこち折れなかったのが、おかしいくらいだ。
「か…回復…。」
泣きながらもミュウが回復してくれたおかげで、とりあえず俺の傷は癒された。
「…ふふ…血まみれ…。美人が台無し。」
ミュウが俺の顔をしげしげと覗き込みなから、泣き笑いでそんな事を言う。
ミュウもやっと、笑う余裕が出てきたらしい。…ていうか、俺そういや女装してたんだったっけ。
「それにしても、よく途中で止まったよね。私もう、1階まで転がり落ちると思ってた…勢い凄かったもん。」
「ああ、なんかさ、急に体が浮いたんだよな。多分、こいつじゃねぇかな。」
懐に入れたチビ龍を指差す。
チビ龍はぐったりと…気絶していた。
「えっ、このチビちゃんが?」
よくやった!とばかりにミュウはチビ龍をナデナデしてるけど、気絶してるしな。多分わかんないと思うぞ?
「ま、こいつが目を覚ましたら聞いてみようぜ。今はこの塔から出るのが先決だろ?」
「そだね!もうそろそろ眠りの呪文、効果が切れてもおかしくないし…。急ごう!」
俺達は、また螺旋階段を駆け下り始める。もう転びたくないからな。ちょっと慎重にだ。
やっと1階に辿り着いた俺達を待っていたのは、爽やかな笑顔のアラシだった。
「おーー、ご苦労さん。ちゃんと救出できたか?」
機嫌よく労ってくれるけど、うつ伏せに転がした兵士に腰掛けている。…結構、酷いんじゃないだろうか。
ニコニコしているアラシに、サイが駆け寄ってきた。
「あったよ!これでいい?」
手渡したのは、厚手のタオル。
「早かったな!上出来だ。」
アラシはサイを褒めてから、兵士のお兄さんにタオルで素早く、目隠しをした。
「よし!これで目が覚めても大丈夫。すぐには追ってこれねぇだろ。さ、行こうぜ。」
まだ気絶したままのチビ龍を連れ、俺達は急いで塔をでる。