たまにはゆっくり
「おお~~~っ!!海だぁ~~!」
「すっげぇ!海の匂い!波高けぇ!」
俺達は今、海に来ている!
青い海、白い砂浜、晴れ渡った空。
間違いなく、バカンスだ。
昨日まで、古城でアンデッドと戦ってたのが嘘みたいだな!
たて続けに3つもの依頼をこなしてお金も入ったし、ギルドマスターのハイロン様にも褒められて、少し羽を伸ばす事になったんだ。
「凄いっ!何??水がたくさんっっ!」
サイは海を見るのも初めてらしく、俺達以上に大興奮。波打ち際で、足の下の砂が波に浚われていく感触にすら、大騒ぎだ。
「う~ん、水着美女くらい居てくれれば、最高のバカンスなんだけどなぁ。」
ミュウがプーっと膨れるけど、アラシにそう言われても仕方ないかも。女は一人だけだし、残念ながらまだガキだしな。アラシにしてみれば、引率の先生の気分だろう。
しかもここは穴場なのか、浜辺の人影はまばらだ。まだ、沖の方がサーファー達で人が多いくらい。
「あれは何?水の上に人が立ってるよ!?」
「ああ、サーフィンだな。板の上に乗ってるんだよ。」
サイの質問に答えたあと、アラシはいたずらっ子のように笑った。
「オレ、得意だから教えてやろうか。」
「え!?いいの!?」
「やってみたい!」
「やったぁ!!」
無邪気に喜ぶ俺達。
「あ。ていうか、そもそもお前達泳げるのか?泳げねぇと話にならなかったりするんだけど。」
俺とシオンは泳げる。サイは…?
視線が自然とサイに集まる。なんてったって、海初めて見たって言ってたし。
するとサイは、ほっぺたをぷーっと膨らませ、「泳げるもん!」と言い切った。何でも、川ではしょっちゅう泳いでいたらしい。
ちょっと安心した。
サーフボードをレンタルし、無邪気に喜ぶ俺達を連れて、防波堤沿いに沖にでる。
防波堤からは地元の子供達が、「いかにカッコ良く飛び込むか」を競い合っていて、なんだかこっちまで微笑ましい。
真っ黒に日焼けして、やんちゃそうなガキばっかりだなぁ。村のチビ達を思い出しちゃうよ。
そんな事を思っている間にも、サーフボードに腹ばいになり、アラシは颯爽とデカい波に向かって泳いでいく。
「おーい、お手本見せるから、しっかり見てろよ~!!」
アラシが沖から叫ぶ。
そして、アラシはさらに沖に向かって行き…、逆に沖からはえげつないデカさの波が、大きくなりながら近付いてきた。
凄い!…でも怖い!!
えっ!?アラシが波に呑まれた!?
そう思った途端、波の合間からアラシが現れる。
何時の間に立ち上がったのか、サーフボードの上で華麗に波に乗っている。
か……カッコいい!!
波が消えるまで、サーフボードを操って海の上を走る姿は、最高にカッコ良かった。
「すっげぇ!!絶対やりたい!」
もう俺達の目はキラキラに違いない!
アラシは俺達のあまりの勢いに、ちょっと驚いたみたいだ。
「ははっ、オレは風も操ってるから、半分ズルしてるんだけどな。」
と、頭を掻きながら爽やかに笑った。
それからは、一人ずつアラシにコーチしてもらい、波との戦いを続ける。
必死で特訓する事2時間。
少しずつ、ボードの上に立っていられる時間が増えてきて、サーフィンっぽい動きになってきた頃…
ふとアラシを見ると、なぜかアラシは、凄く凄く…難しい顔をしていた。
「アラシ…?どうかしたのか?」
俺が話しかけると、アラシはビクっとしたように顔をあげる。なんか、考え事でもしてたんだろうか。
「あ…悪りぃ。」
困ったように笑うアラシを見て、ミュウやサイも寄ってきてしまった。
「どーしたの?」
「何?飽きた?」
口々に聞いてくる俺達を見て、噴き出すアラシ。
「何でもねえって!とりあえず、心配するような事じゃねえよ。」
アラシは笑いながら俺達の濡れた頭をぐりぐり撫でてくるけど、何でもないにしては、難しい顔してたんだよね。
「でもさ、さっきすんごい難しい顔してたじゃん!」
「ああ、あれはちょっと集中してただけだ。別に何か考えてた訳じゃないから。」
ん~…なんか引っかかるなぁ…。
とりあえず、もうひと押し突っ込んで聞いてみるか。
「なんで集中してたんだ?」
すると、アラシはまた困ったように笑う。
「あー…、何か… 声が聞こえた気がしたからさ。ちょっと、集中して聞いてた。」
「えっ!?」
「助けを呼んでるみたいな…。」
俺とミュウは、思わず顔を見合わせる。
「えと…それって、ルナの時みたいな?」
「ああ、なんかガキンチョっぽい感じだけどな。そのうち、依頼が入るかも知れねぇし、緊急性があるかも…ってな。」
アラシはそう言って笑うけど、それって、全然「何でもない」レベルじゃないじゃんか!!!
「何悠長にしてんの!?助けを求めてるんだよね!?」
「あー…、緊急って感じでもないし、本当にヤバけりゃギルドに依頼がくるからな。大丈夫だ。」
「いやいや、助けようよ!」
俺は思わずツッコむ。
「あんな事になってたアヴィンドル様だって、自分でギルドに助け求めたりしなかったんだよ!?」
俺の指摘に、アラシはぐっ…と詰まっている。目を逸らして、「…まあ…確かに…。」と呟いた。
「でもな~…、お前達ずっと働き詰めだったから、少しは遊ばせてやりたいっつうか…。」
歯切れが悪いけど、どうもアラシは俺達の事を気遣ってくれていたらしい。やっぱりアラシはいいヤツだ…。
そんなアラシに、サイが一生懸命訴える。
「困ってる人いるなら、助けたい!」
涙目で、必死な様子がけなげだ。
あ、そうか…サイのお母さん…ユースさんだって、瀕死だったというのに自分でギルドに助けを求められたわけじゃない。サイには他人事に思えなかったんだろう。
うるうるした瞳で見つめられ、さすがにアラシも断わり切れなくなったらしい。額に手を当て、天を仰いだ。
「あーもう!しょーがねぇなぁ。カイン、どうする?とりあえず、行くだけ行くか?」
そんなのもちろん、答えは決まってる。
「うん!行こう!!」
俺は満面の笑みで答えた。
「た~~す~~け~~て~~!!」
サイの悲鳴をBGMに、ドラゴンバージョンのアラシの背に乗り、移動する事1時間。
俺達は、砂漠に来ていた。
死ぬ程熱い。
「あ~つ~い~…。」
「死んじゃう~~~…。」
こぶりなオアシスに降りたち、水をガブ飲みしたあげく、口からでるのは呪いの言葉のみだ。身体中の毛穴から水分が蒸発するのが分かる。暑さもさることながら、この乾燥がこたえるなぁ…。
あまりの暑さにぐったりしている俺達をしりめに、アラシは驚きの集中力を見せている。長い事目を閉じていたアラシは、静かに目を開くと、砂漠の真ん中を指差した。
「やっぱりあの塔から聞こえる。」
広大な砂漠のど真ん中にポツンと聳える 、怪しい感満載の高い高い塔。やっぱり、あの怪しい塔なのか…。
「なんか変なんだよなぁ。普通さ、話してると相手の属性くらいは分かるのに、こいつはそれすら分からなくてさ。」
アラシが首を傾げる。
怪しい砂漠の塔の、不思議な住人は、絶え間無く「ここから出たい」と訴えているそうだ。
「どうする?あれは多分、人間に監禁されてるパターンだ。」
「監禁!?なんで!?」
驚いて、思わず叫んでしまった。