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歪んだ迷宮③

「ミュウ…?サイ…?怖くないのか…?」


なんでだか、さっきよりマリエルさんにビビってない感じの二人。

なんだか取り残された気分だ。


「だって…なんか悪いなって思って…。」


「なんか話してるの見たら、落ち着いて来ちゃったから…。透けてる以外、普通に美人のお姉さんだから、あんまり怖くないもの。」


サイは申し訳なさそうに、ミュウはちょっと拍子抜けした感じで振り返る。


くそぅ…なんだよ、二人とも…。


一人だけ離れて歩くのも怖い。

仕方なく俺も、頑張って足並みを揃えて歩きだした。


モンスターは普通に出るものの、道が分かっている安心感はハンパない。歩いているうちに、気持ちにもゆとりが出てきた。



ただなぜか、どんどん歩くペースが早まってきている。


「なんか…早くない?」


ミュウも気付いてるみたいだ。アラシはまだしも、俺達やサイは油断すると置いて行かれそうだ。


「マリエルさん、悪いけど少しゆっくり…。」


アラシが頼んでくれたが、マリエルさんは、悲しそうに首を横に振る。


「早くしないと…10時の鐘が…。」


途切れ途切れにそう言うと、マリエルさんは、さらに速度を上げる。俺達もついに走り始めた。


必死で走る事10分くらいだろうか?

俺達はやっと階段に辿り着いた。


立派な階段を、ダッシュで駆け登る。


階段の上でぜーはーと荒い息をしていたら、微かに鐘の音のような音が聞こえてきた。これがマリエルさんが言う、10時の鐘なんだろうか。


その時、ギィィィ………と、軋むような音が響きはじめた。音の出どころを探して、キョロキョロする俺たち。


「あっ…!階段!!」


サイの声に慌てて見ると、階段は大きな石蓋でまさに閉じられようとしていた。


「あ……あ……」


なす術もなく見ている前で、ズゥゥウゥゥン…と音をたて、無情にも城から出る術は絶たれてしまった。


「閉じこめられた!?」


「え!?どーすんの?」


「怖いよ~~~!!!」


もちろん大騒ぎだ。


「ああもぅ!お前達はビビり過ぎなんだよ!大丈夫だって!」


アラシから一喝される。うう…幽霊居るのに、逃げる事も出来ないなんて…。


仕方なく、俺達はまたマリエルさんについて歩く。


1Fよりも少し暗い通路。たくさんの脇道があり、マリエルさんの先導がなかったら、正しい道を見つけるのにかなりの時間を要しただろう。


「前に来た時はあんな仕掛けあったかなぁ?」


アラシが怪訝な顔で首を傾げた。


「私のために…あの人が…仕掛けを…。」


マリエルさんの話によると、常時開放されていた城を、マリエルさんとの結婚を機に夜は閉めるようにしたらしい。か弱い彼女が冒険者達に突然襲われたりする事がないように、との配慮だったそうだ。


アヴィンドル様は、本当にマリエルさんを大事にしてたんだなぁ。


「なぁマリエルさん、城下町で、アヴィンドルはもう100年以上街に来てないと聞いたんだが…。」


そこまで言って、アラシは言葉を切った。そして、辛そうに顔を歪める。


「アヴィンドルは、……生きてるのか?」


ズバリ訊いた!

マリエルさんも、悲しそうに目を逸らす。


「生きては……おります……。」


ずいぶん含みのある言い方だな。

少なくとも、健康ではなさそうだけど、どんな状態か全然想像できない。


「それってどういう意味…?アヴィンドル様は今、どうしてるんですか?」


俺もアラシに倣って、ズバリ訊く。マリエルさんが口を開いた瞬間、恐ろしい程の咆哮が、響き渡った。


凶暴な咆哮が狂ったように何度も、何度も、響く。苦しげで、切なげで、怖いのに、こっちまで悲しくなってしまうような叫びだった。


「ああ…アヴィンドル様が、嘆いているわ。早く…早く行かないと…」


マリエルさんは滑るように、ダンジョンの奥に、奥にと入っていく。


気が急くのか、凄いスピードだ。

見失うまいと、慌てて後を追う俺達。


走るだけでは追いつかなくて、アラシがスピードアップの魔法をかけてくれた。


どれくらい走ったのか…。


目の前には、さらに上階への階段。


どこをどう走ってここに辿り着いたかわからないけど、俺達は確実にアヴィンドル様に近付いているみたいだ。


その証拠に、皮膚が粟立ってきた。


アヴィンドル様は、きっと凄いパワーを持った、古龍なんだろう。さっきほどの咆哮はないものの、今は、地響きのような低い唸り声が断続的に聞こえてくる。


「アヴィンドル…何があったんだ…!」


アラシがあんまり辛そうだから、階段を登りながら、そっと話しかけてみた。


「なあ、アラシ。アヴィンドル様って、どんな感じの人?アラシの友達?」


話しかけられて、アラシはハッとしたように振り返った。俺達の顔を見て、バツが悪そうにちょっとだけ笑ってくれた。


「あ…。ああ、悪い。オレ、余裕なくなってたな…。なんか心配かけたみたいで、ごめん。」


いつもアラシに引っ張って貰ってたから、こんな時くらいは役に立ちたい。


「アヴィンドルはさ、音楽好きで楽しい事が大好きで…。明るくてノリのいいヤツだったんだ。」


懐かしむように、目が空をよぎる。


「まだマルスと旅してた時に、立ち寄ったこの街で会ったんだから、もう200年くらい前の話だけどな。」


マルス…。俺のご先祖様か。

200年も前の知り合いとか、気が遠くなるような話だな…。



たまたま旅の途中で立ち寄ったこの街は、今と同じく音楽で溢れていて、街の至る所で奏者達がセッションしていたそうだ。


そんな中に、肌がビリビリするくらい高レベルのドラゴンが混ざって演奏している。当然驚いて声をかけたら、それがアヴィンドル様だったらしい。城の主でもあるドラゴンは、かなり気さくな人柄だったみたいだ。


すっかり仲良くなって、数晩飲み明かし、またな、と別れて200年。アヴィンドル様にそれから何があったのか、アラシにも見当がつかない。


少なくとも、アラシが出会った頃のアヴィンドル様は、陽気で人懐っこく、人生をとても楽しんでたんだろう。


俺達は、震え上がるような咆哮と、今の悲痛な呻き声しか聞いてないから、むしろアラシが語るアヴィンドル様のイメージがピンとこないけど…。

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