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歪んだ迷宮①

「行ってきまーす!」


翌朝、アリアとユースさんに元気良く告げて、俺達は再び旅にでた。アラシがなんだかニヤニヤしている。なんか嬉しそうな、でもおかしそうな、複雑な表情だ。


「なに?なんでニヤニヤしてんの?」


ミュウも不審に思ったみたいだ。


「いやぁ、なんかいいよな。ああいうの。」


「……??」


きょとんとする俺達に、アラシはニコニコと笑いかける。


「お前らが行ってきます、って言うだろ?で、アリアさんとユースさんが、見えなくなるまで見送ってくれてさ。…そういうの、いいよな。」


改めて言われると、なんか子供っぽくて恥ずかしい気もするけど…。


アラシは良い意味で言ってくれてるみたいだし、まぁいいか。もしかしてアラシは、長い間一人で暮らしてたのかも知れないな…。


ミュウのお母さんにも挨拶して、俺達はギルドに戻った。もちろん今度は、アラシの転移魔法でひとっ飛びだ。


前回同様、報酬を貰ってすぐに次の依頼を探して貰う。受付のお姉さんには「早過ぎる」と笑われてしまった。お姉さんが悩みながら出してきたのは、少し色が変わってしまった依頼書。その依頼書には、俺でも知ってる超有名な城の名前が書かれていた。


もうずっとずっと遥か昔から、ドラゴンが住むと噂される古城だ。アラシも怪訝な顔をしている。


「アヴィンドルの城じゃねぇか。何かあったのか…?」


お姉さんも少し困った顔だ。


「う~ん、それがわからないのよ。城下町からの依頼なの。毎晩女がすすり泣くような声が聞こえる、って。」


ええ~……

まさか幽霊とか?ヤダな…。


「アヴィンドルはなんて言ってるんだ?」


「それが連絡が取れなくて…。彼はもう百年も外界と接触を絶ってるらしいのよ。」


アラシの顔が悲しげに曇る。


「何やってんだ、あいつは…。」


アラシの様子だと、アヴィンドルさんとは友達なのかも知れない。だって、凄く心配そうな顔してるし。しばらく考えこんでいたアラシは、急に俺達に頭を下げた。


「悪ぃ。この依頼、どうしても引き受けたい。悪いが付き合ってくれ。」


「そんな頭なんか下げないでいいよ。私達、全然大丈夫だから!」


ぎょっとした様子でミュウが言う。


「アラシの友達?会ってみたいなっ!」


サイはどこまでも無邪気だ。

俺も、アラシの友達がもし困った事になってるなら、むしろ積極的になんとかしたいよ。


「依頼、受けよう?それにアラシ、友達なんでしょ?転移の魔法でひとっ飛びなんじゃないの?すぐにでも行こうよ。」


するとアラシは、厳しい顔で首を振った。


「ダメだ。しっかり準備してからだ。」


これまでの様子と明らかに違う。俺もミュウも、訳も分からず緊張してきた。


「城下町までは転移の魔法で行けるんだけどな。あいつの城はダンジョンになってるし、ガードがかかってて、転移が効かねえんだよ。」


そうか…。

きっと、これまでよりもかなり危険度が高いクエストなんだろう。


「あいつがいる最上階まではモンスターと戦いながら、地道に登るしかねぇ。まずは装備をしっかり強化してからだ。」


依頼を2つこなしたばっかりだから、俺達にも少しはお金がある。アラシの言う通り、しっかり準備した方が良さそうだ。


「それに……。」


言いかけて、アラシは辛そうに口ごもる。


「それに、もし、あいつと戦うような事態にでもなったら…。今の装備じゃ速攻アウトだ。」


ぎょっとして、思わずアラシを見る。


…アラシは、俺達よりずっと、現実的な危険度を見据えていたんだ。


相手がたとえ、友達だとしても。


俺達はギルドに併設されている防具店で、用意できる最高の装備を手に入れた。アラシが、防具だけは最高のもの、って譲らなかったからだ。


結果、今俺達は、駆け出しレベルの俺達にはもったいないような、防御力もかなり高い、カッコ良い防具を身につけている。まぁ、自分達のお金だけじゃ全然足りなくて、ほとんどアラシが買ってくれたようなモンだったけど…。


サイもいっちょまえに、カッコいい防具を買って貰ってご機嫌だ。


あんまり何回も「すごい!カッコいいっ!ありがとー!」って、繰り返し繰り返し言うもんだから、ついにアラシは笑い出してしまった。


深刻そうな空気が一変して、俺達もホッとする。サイ連れてきて、ホント良かったかもな!


装備も整って、いよいよ出発。


と言っても、アヴィンドルさんの城の城下町までは、転移の魔法で一瞬だ。まばたきする間に、俺達は見知らぬ街に佇んでいた。さすがに歴史が古いだけあって、大きな街だ。


音楽が盛んな街のようで、オープンカフェでは生演奏。公園では練習中なのか、お兄さん達が思い思いの楽器を楽しそうに奏でている。行き交う住人達もどこか上品だ。


「綺麗な音がいっぱいで、楽しいね!」


「ああ、アヴィンドルは音楽が好きだったからな。昔はしょっちゅう街に降りて、人と一緒にセッションしてたんだぜ?」


サイがウキウキと言うと、アラシも嬉しそうに答えた。そうか、アヴィンドルさんの影響なんだな。だからこんなに音楽が盛んなのか。


賑やかな街で、早速聞き込みを始める。街の人達は皆親切で、俺達を微笑ましそうに見ては、丁寧に質問に答えてくれた。


「皆、優しいね!」


サイが嬉しそうに言うと、なぜかアラシが笑い出す。


「多分、お前達…子供の自由研究とかなんかに間違われてる…っ!」


「ええっ?そんなワケ…」


そんなワケ……言いかけて、やめる。

確かに、少なくとも冒険者には見られてない感じ、するし。話してくれる人は、一様に「だから、危ないから城には近付かないように」と注意付きだった。


……普通に、凹むんだけど。


理由はどうあれ、親切に教えてくれる街人達の話から、いくつかの事が分かった。


むせび泣くような声は、毎日、夜の10時くらいから聞こえる事。


アヴィンドルさんが街に来なくなったのは、声が聞こえるようになってからだという噂がある事。


今は城の門も、固く閉ざされている事。


アヴィンドルさんが街に来なくなって、もう百年くらい経つんじゃないかと言う事…。



街の人達の生の声を聞いたあと、依頼を出してくれていた、町長さんの屋敷を目指す。今回はただの救出依頼では無さそうなだけに、情報の出処は多い方がいいもんな。


町長さんは、もの凄く綺麗なおばさんだった。この街では、代々女の人が町長らしい。町長さんは、俺達を見て驚いた顔をした後、にっこりと微笑んで、美味しそうなお菓子を出してくれた。


「随分と可愛らしい子達が来てくれたのね。ドラゴンズギルドの紹介なら、見た目通りでもないんでしょうけど。」


「さすがにアヴィンドルのお膝元で長年暮らしてきた街の方ですね。詳しくていらっしゃる。」


アラシは余裕の受け答えだ。

すると町長さんは、なぜか少し寂しそうな顔をした。


「…どうかしら。アヴィンドル様は、もう100年以上、街にはおいでになってないの。私も、伝え聞いた事くらいしか知らないのよ。」


街の人も、そう言ってたな。

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