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ダンジョンの巨龍③

俺達が突然村に戻った事で、村は大騒ぎになった。なんせ旅立って、まだ10日も経っていない。


「どうした、カイン!何があった?」


「えらいベッピンさん連れてぇ。」


「お帰りぃ!」


反応は様々だが、今ゆっくり説明している暇はない。皆に軽く挨拶しながら、とにかくアリアの元へ急ぐ。ほどなく、14年もの月日を過ごした、懐かしの我が家が見えてきた。



「アリア!ただいま!」


この時間なら、アリアはまだ寝ている筈だ。皆を居間に通し、俺はアリアの部屋へ急ぐ。


「ア~リ~ア~!起きて!大事な用があるんだよ~!」


乱暴にドアをドンドン叩く。

アリアは寝起きは今ひとつよくない。これ位しないと起きないからな。しばらくそうしていると、ガチャリとドアが開いた。


「カイン…?どうして…?」


まだ、完全には覚醒出来てない感じだな。


「アリア、どうしても頼みたい事があって、戻ってきたんだ。お客様連れてきたから、リビングに来てくれないか?」


「……5分、待ってて。」


大丈夫そうだ。

居間に戻るとミュウがお茶を淹れてくれていた。勝手知ったる他人の家、ってヤツだな。


はからずもアリアと会う事になり、アラシは緊張しているようだ。


「うわー、爺さん達絶賛のアリアとご対面かよ。はぁ~どんな感じなんだかな~。」


独り言、デカいですよ?


心の中でツッコミを入れた時、上品な仕草で、アリアが姿を現わした。


「まぁ、凄い顔ぶれ。こんなにドラゴン引き連れて…あなた達、一体どうしたの?」


やっぱりアリアには、皆がドラゴンだって、分かっちゃうんだなぁ。


「アリア、あのね。この人、アラシっていって、今俺達と依頼とか一緒にやってくれてるんだ。」


「アラシはね、カインのご先祖様と契約してたんだって。」


口々にアラシの事を紹介する俺達。俺達がなんとか依頼をこなせているのは、アラシがいるからだ。アラシにどれだけ世話になっているかを力説する俺達を、アリアは嬉しそうに見ている。


「ありがとう。カインとミュウの事、助けてくれて。」


聖母の微笑み。

アラシは赤くなって慌てている。


「い、いえっ!あの、お会い出来て光栄です!」


おっ!アラシが照れてる。

面白いけど、今日はゆっくりもしていられない。早速本題に入った。


「アリア、今日はさ、凄く大事なお願いがあって、帰って来たんだ。」


「かーちゃんを、助けて…!」


話が解呪に移るのを素早く察知して、サイが話に割り込んできた。一刻も早く、話を進めたいんだろう。


「サイのお母さん、呪いにかかってるみたいなんだ。」


「わたの解呪の魔法じゃ、完全には解けなくて…。ごめんなさい…。」


ミュウが、シュンとして謝る。


「かなり、高度な呪いって事ね。少し診てみるわ。ねぇ…触っても、いいかしら?」


了解をとって体に触れたアリアの顔は、徐々に険しくなっていく。


「体調が悪くなっていったの…もう、何年もかけてじゃないの?」


母龍が、かすかに頷く。


「やっぱり…呪いが深く浸透し過ぎてる。一度の解呪で治せるものではないわ。かなり、特殊な呪いよ。」


アリアの言葉に、サイが真っ青になった。みるみる盛り上がってくる涙。アリアは優しくサイの頭を撫でながら、落ち着かせるように言葉を継ぐ。


「大丈夫。時間をかけて、何度も解呪をかけていけば、ちゃんと元気になるわ。治るまで、私の元で、療養なさい。」


そして、俺をチラリと見る。


「ちょうどカインが旅にでて、家の中が静か過ぎるの。あなた達がいてくれれば、また賑やかになるわ。」


アリアはサイを見てにっこり笑うと、「お母さんを治療したいの。隣の部屋に、少しお母さんを連れて行くけど、いいかしら?」と、了解をとった。


アリアは人前では治療しない。聖魔導師だけど、ヴァンパイアだから、魔法を使うと自分もダメージを負うからだ。多分、その姿を見せたくないんだろう。


待っている間、サイは不安そうに足をモジモジさせている。目の前に出されているお菓子も目に入らないようだ。


20分程の治療の後、二人が部屋から出てきた。サイのお母さんも、顔色が大分戻ってきて、…俺達は初めて彼女の笑顔を見た。


「サイ、心配かけてごめんね。」


「……かーちゃん!!」


笑顔で両手を広げる母龍に、たまらずサイは飛びついた。もう涙ボロボロで、言葉にならない嗚咽だけが漏れている。


俺達もやっと、少しだけ安心した。

後はアリアに任せれば大丈夫だろう。


サイをしっかりと抱き締めながら、母龍が俺達に笑顔を向ける。


「本当にありがとう。あなた達がいなかったら、多分…長くなかったと思うわ。いくらお礼を言っても言い足りない。」


俺達一人ひとりの顔をみながら、丁寧に礼を言ってくれる。そして、俺をまっすぐ見てこう言った。


「私の名はユース。あなた達には返しきれない程の恩を受けたわ。身体が治った暁には、私の主になって貰えるかしら?若いマスターさん?」


え?それって…

契約してくれるって事?


「はっ、はい!」


うわぁ!う、嬉し過ぎる!


「いいんですか!?嬉しい!よろしくお願いします!」


慌ててまくし立てる俺に、ユースさんは優しく笑いかけてくれた。


初っ端に契約してくれるドラゴンが、あの、でっっっかい、強そうなユースさんだなんて、俺、いいのかな。運良過ぎない?


「呪いが完治してからになるから、今すぐは無理だけど…。ごめんなさいね?」


申し訳なさそうに言うユースさん。


「そんなの、全然構わないです!すげー嬉しいです!俺、いくらでも待つから、ちゃんと身体、治してください!」


ユースさんが仲間になってくれるなら、マジでいくらでも待てる!すっかり有頂天の俺の袖を、誰かが引っ張った。


「ぼくが行く!」


袖を引っ張ったのは、サイだ。

でも、言ってる意味がよくわからない。


「かーちゃんが治療してる間、ぼくがケイヤクして、役に立つよ!」


え…?気持ちは嬉しいけど、泣き虫のちびっ子ドラゴンって…悪いけど、あんまり戦力にならないんじゃ…。


密かに困っていると、アラシがサイを小突き始めた。


「よくわかんない癖に、契約するとか簡単に言っちゃダメだぞー。一生こいつと友達でいる、って約束なんだからな。」


「かーちゃんの命を救ってくれたヤツだ!ぼく、約束できる!」


額をコツコツ小突かれながら、サイも一歩も引かない。


「ぼく、もう石化のブレスも吐けるし、身体も大分大きくなったもん!ちゃんと戦える!」


「そうか…土龍は身体デカくなるの早えーしな。今、体長どれ位だ?」


「…まだ、5mくらいだけど…。」


5m!!充分デカい!


「人見て逃げ出してた癖に、ちゃんと戦えるのか?」


サイはぐっ…と言葉に詰まっている。意地悪にも聞こえるけど、ドラゴンにとって、契約するって事がどれだけ大事な事なのか、少し理解出来た気がする。


「逃げない…。ぼく、頑張るから!…お願い、します。」


あんまり一生懸命で、だんだん可哀想になってきた。出来れば連れていってやりたい。


一方で、俺とミュウだってまだ足で纏い感が拭えないだけに、さらに子供が増えるとアラシの負担が大きく思えて、強くも言えない。


「…だってよ、カイン。サイの意志はハッキリしてる。後はマスターとして、お前が決めろ。」


アラシからの急なご指名に、ちょっとビックリしたけど、俺は素直な気持ちをそのまま言葉にする。


「…出来れば連れて行ってあげたい。ただ、アラシの負担が大きくなるなら、考え直すよ。」


そう言ってから、俺はサイをしっかりと見つめた。


「あとね、連れて行ったとして、今すぐは契約しない。暫く一緒に旅して、本当に俺と契約したいって思ったら契約しよう?」


サイは俺達よりもさらに子供だし。一時の感情で契約して、後で後悔されるのはこっちもツラい。


「実は今ね、アラシからも契約するかどうかテスト期間、って言われてるんだ。それだけ慎重にすべきものなんだよな?」


アラシは深く頷いている。

俺は、そんなアラシに、ついでに今の正直な気持ちを伝えてみた。


「アラシには最初から助けて貰ってるから、できれば最初の契約はアラシがいい…。」


アラシから見たら、俺達なんか頼りなさ過ぎて、マスターとは思えないかも知れないけどさ…。アラシは驚いたように目を見開いて、そのあとニッと笑った。


「何だよ!可愛い事言うじゃないか。今のポイント高かったぜ!?」


ホントに嬉しかったのか、見るからに機嫌が良くなったアラシは、サイの頭をグリグリ撫でながら、こう言った。


「ま、今のお言葉に免じて、サイも纏めて面倒見てやるよ。ユースさん、オレが責任持って預かりますんで。」


得意の爽やかさ全開の笑顔で、ユースさんに約束するアラシ。


「たーだーしっ」


サイの方に振り返った時には、あの笑顔が嘘のように、厳しい顔になった。


「一緒に旅するからには、俺の特訓をちゃんと受けて貰うからな。」


サイの額を人差し指で軽く小突きながら、アラシは厳しい条件を突き付ける。


「契約しようっていうドラゴンが、マスターから守って貰うのは論外だからな?せめて、カインを守りながら戦えるくらいにはならないとな。」


サイは青くなってるけど、ユースさんはほほほ…と笑って、頼もしいわ、と快諾。


ちょっと可哀想だ。


「どうする?一緒にくる?」


心配になって確認したら、サイにキッ!と睨まれた。


「絶対行く!カインはぼくが守るから!」


「そ、そうか。…ありがと。」


守って貰う気もないし、守って貰える気もしないけど、あんまりサイが一生懸命だから、とりあえずお礼を言う。


こうしてサイも、一緒に旅する事になった。


ミュウにも了解を取ろうとしたら、何だかマジメな顔で、アリアと話しこんでいる。アリアもいつになく、厳しい表情で何か書き込んだ紙をミュウに渡していた。ミュウも唇を引き結び、真剣な顔でそれを受け取る。


なんだか、大事な話みたいで、声をかけきれずにいたら、視線に気付いたらしいアリアが、微笑んで振り返った。


「そっちも話がついたみたいね。」


ミュウもつられたように俺を見る。

次いで、怪訝な顔をした。


「何マヌケな顔してんの?」


…本当に失礼なヤツだな!


「なんか真剣に話してるから遠慮したのに…超ムカつく!」


「らしくないじゃない。話しかけて良かったのに。…それで?サイも一緒に行くの?」


「一緒に行くっ!」


サイがミュウの腕に飛びついた。


「よろしくなっ!ねーちゃん!」


二カッと笑うサイに、ミュウもつられたように笑顔になる。


「うん、よろしく。うふふ、私、弟欲しかったんだよね~。嬉しいな!」


うん、問題なさそうだな!

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