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ダンジョンの巨龍②

ピタリと子供の動きが止まる。少しの沈黙の後、その子は恐る恐る、アラシの顔を見上げた。


「ドラゴン…?ホント…?」


アラシはニッと笑って、「ホント!仲間!」と請け負った。…て言うか、この子もドラゴンなのか~。ドラゴン関連の仕事、常識通じないな…。


またもや混乱する俺達を尻目に、アラシはサクサク話を進めていく。


「お前、かーちゃんはどうした?」


途端に子供はくしゃっと顔を歪める。小さな拳を握りしめて、涙を堪えているようだ。


「かーちゃん、奥にいる…。薬草食べても効かなくって…。もう人に変化する力もないって…。」


それを聞いて、アラシの顔が一気に曇った。


「まずいな…。この奥にある薬草は、ドラゴンにとっちゃ万能薬なんだよ。それが効かないとなると…。」


それが効かないとなると、普通に考えて…寿命か、呪いだ。


「呪いなら…ミュウ、なんとかなるんじゃないか?」


ミュウは聖魔導師だ。

たしか解呪の魔法があったと思う。


「やってみるけど…でも私の魔法だとレベルが低いから、高度な呪いだと、痛み止め程度にしかならないの…。」


それでも、寿命か呪いか、見極められる。


俺達は、ダンジョンの奥へ向かって、歩き始めた。


「おい!ちょっと待てよ、お前…えー…と、名前、まず名前教えろ!」


気が急くからかついに走りだした子ドラゴンに、走りながら問いかける。うっかり名前も聞かずに話を進めたせいで、呼びかけすら間抜けな感じになってしまった。


「…サイ。お兄ちゃんは?」


「俺はカインで、こいつはミュウ。あの風龍が、アラシだ。」


走りながらだから、会話も細切れだ。角を曲がった瞬間、遠目でも恐怖を覚える程の巨体が、目に飛び込んで来た。


「かーちゃん!!」



ひぇぇぇぇっ!!


口からほとばしり出そうな悲鳴を、手のひらでガッチリ抑えて、なんとか平静を保つ。


お…大きな…お母さまで…。


ミュウは口をあんぐりと開けて、滅多に見られない超間抜け面だ。ついでに面白いもん見れたな。


しかし…ぐったりと体を横たえていると言うのに、なんたるデカさ。3階だてくらいはある。普通に起きると、一体どれくらいの体高になるのか、見当もつかない。でも、そんなに大きくて立派なドラゴンは、今、起き上がる事すら出来ない程、弱ってるんだな…。


「かーちゃん!仲間が来てくれた!」


サイの声に、巨龍が僅かに身じろぎする。アラシは巨龍に近づくと、優しく話しかけた。


「聞こえるか?さっきサイから、この薬草すら効き目がないって聞いたんだ。…それで今から、解呪の魔法をかけてもらう。」


巨龍は苦しげに唸る。だが、話は理解してくれたようだった。


「解呪のために人が近づくからな。」


アラシはそう言って、ミュウに頷いて見せる。


「ミュウ、大丈夫か…?」


ルナと違って、アラシの2倍程もある巨龍だし、さすがにミュウも怖いに違いない。思わず声をかけたら、緊張した面持ちではあるけどしっかりと頷いて、ゆっくり巨龍に近づいた。


解呪は直に触れて行う方が、効果が高い。


ミュウはおずおずと巨龍に近寄ると、静かに体に手をあてる。俺まで緊張して、口の中がカラカラだ。


頑張れ!ミュウ!


ブツブツと口の中で呪文を唱えるミュウ。ふわりとした優しい光が巨龍を包む。その光は暫くの間、星のように柔らかく明滅して、やがて消えた。


地鳴りのように続いていた、巨龍の唸り声が少しずつ小さくなっているみたいだ。


解呪は、成功したんだろうか…?


静寂が辺りを包む。


突然、山のように見えていた巨体が煙のように消えた。


「えっ…?」


慌ててきょろきょろと周りを見回すと、床に横たわる美女が!


「う…」


小さな呻き声を漏らしながら、美女がゆっくりと起き上がる。虚ろな瞳が、俺達を捉えた。


「……ありがとう……。」


一言、口にするのがやっとの様子だ。深く息を吸いながら、美女は途切れ途切れに言った。


「少し…楽に…なったわ…。」


「解呪の魔法が効いてるって事は、あんた、呪われたな。」


アラシが厳しい顔で、美女に告げる。


「うん…。しかも、かなり高度な呪いみたい。私じゃ、完全には解けないよ。…ごめんなさい…。」


ミュウがうなだれる。


「かーちゃん!…し、死んじゃう、かと…思っ…」


サイは、美女に飛びついて泣きじゃくっている。…呪いは時間をかけて、確実に体を蝕んでいく。なんとかしてやりたい。


ふと、アリアの優しい笑顔が浮かんだ。


「アリアなら…高度な解呪の魔法、出来るんじゃないか…?」


ミュウは苦い顔で頷いた。


「多分…アリアか、私のパパならいけると思う。でも、アリアは聖魔法使うと自分もダメージ受けちゃうし…パパは旅に出ちゃってるしなぁ。」


「アリアなら、ダメージ受けたとしてもやってくれるよ。」


こんな小さな子の母親を、みすみす死なせる筈がない。俺達は、解呪の可能性を求めて、一度アリアのもとへ戻る事を決めた。


俺達の周りには、解呪の魔法を使えそうな人がすぐに思い浮かぶけど、実は習得している人がすごく少ない、レア魔法だ。そこらの教会の神父さんなどでは、ほとんどが習得していないだろうし。


ダンジョンから出て、村長さんに母子を無事に助け、ドラゴンももうダンジョンに居ない事を告げて、俺達は早速村を出る。


まずはアラシの転移魔法でギルドにひとっ飛び。でもそこからは、俺達の村まで地道に歩くしかない。アラシも行った事がないところには転移出来ないし、この人数は乗せられないからだ。


母子を気遣いながら、少しずつ歩みを進める。ミュウが定期的に解呪の呪文をかけているから、かろうじて歩ける母龍。顔色は土気色で、いつ倒れてもおかしくない。


ヒヤヒヤしながら歩く事3日、俺達はなんとか村にたどり着いた。

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