旅立ち
その記念すべき日、俺は激痛と共に目が覚めた。
「痛てぇっ!なっ…なんだ!?」
飛び起きたいが、それも出来ない。体がひたすら重かった。
「カイン、おはよ♪」
ミュウ、お前か…。なんで飛び乗るんだ。
「降りろ」
「やぁよ。1人で旅にでようなんていう薄情者は、こうしてガッチリ捕まえとかないと!」
「痛てっ!痛いって!ごめん、悪かったからっ…ギブ!」
思わず悲鳴をあげると、ミュウは満足したのか、フン!と鼻を鳴らして俺の上から退いてくれた。
ちくしょう…!マジで痛かったし!
「なんでお前がいるんだよ…。」
「アリアが教えてくれたの。」
そっかぁ…アリア、心配してくれたんだな。
ミュウとは、ガキの頃から兄妹みたいに育った。
俺の育ての親であるアリアに、俺を預けた冒険者の1人、聖魔導師がミュウの親父だ。俺とミュウは、いつも一緒に戦闘のイロハを叩きこまれていた。
そう、仲がいいからこそ、黙って旅に出ようと思ってたんだ。ミュウはひとつ年下だし、旅に出るとしてもまだ早い。
暫く会えないと思うと、もしか、うっかり泣いちゃうかも……
イヤ、大丈夫だとは思うが!
「ゴメンな、黙ってて。俺、今日から旅に出る。…アリアの事、頼むな。きっと淋しがるから…。」
「ばか!」
なぜか一喝された。
「私のカッコちゃんと見えてる?私も行くに決まってるでしょ。」
なんで…?
「うわぁ…超マヌケ面。」
ミュウは呆れたように腰に手をあて、こっちを睨みつけてくる。
なんなんだよもう…黙ってると可愛いのに。
ああ、確かに白いレザーの軽鎧。揃いの白いブーツ。腰にナイフ。愛用の錫杖。柔らかい金色の髪も今日はポニーテールに纏められている。どこからどう見ても旅支度だ。
でも、なんでだ。
まだ15歳になってもいないのに。
「カインが旅に出るって言い出すのなんて、お見通しだから。前々から、ママにも長老にも、アリアにも、話は通しといたし。根回し、大事だよね。」
え…話を通すって…根回し…?
「カインがもし旅に出るなら、私も一緒に行くって。二人の方が生き残る確率高いでしょ?」
分かったら支度してよ、と急かされる。
呆然としたまま、着替えて。
朝メシ食って。
アリアに見送られて。
村では会う人会う人、激励されて。
俺は旅に出てしまった。
ミュウと一緒に。