中編
人のいない住宅街を傘を握り締めながら歩いていた。
「はぁ~」
本当に今日はついてない。もうちょっと早く声をかけていれば。いや、俺が根性なしだからか。
雨は未だ降り続けている。傘に雨が打ちつける振動が手に伝わり、心にも伝わった。なぜだか悲しくもないのに涙がでた。
心のどこかで安心してる自分がいる。怖がっている自分がいる。好きなのに。でも大好きだからこそ言えない。俺、お前のこと好きなんだ。なんてセリフ言えるわけない。それでもこのままでいいわけない。このまま自分の気持ちを伝えずに終わらせたくない。
がんばれよ!
ふと、武に言われたことが頭に浮かんだ。
「よし」
俺は決めた。絶対、絶対に明日この想いを伝えよう。どんな結末になっても構わない。嫌われたっていい。明日決着をつける。なんだか自分に向かっておもいっきり「バカやろう」と叫びたくなった。どうせ雨だし聞こえない。息を大きく吸う。肺に酸素が入ってくるのがわかる。そしてこのまま叫んだ。
「バカやろうぉぉぉぉぉぉ!!」
ザーーーーーーー
言い終えたあとは雨の音と
くすくすと言う笑い声しか聞こえなかった。
ん?笑い声?しかもこの声、聞き覚えがあるような……。笑い声がした方を向く。
「うわぁぁぁぁぁぁ!香織!?」
そこには閉まっている駄菓子屋の前で体育座りをし、必死に笑いをこらえている香織がいた。一瞬にして顔が真っ赤になったのがわかった。
「こ、これはその」
やばい、恥ずかしい。絶対、変人だと思われた。でも香織が笑った表情初めて見たな。
「なんで、こんなとこで座ってるんだ?」
恥ずかしさをまぎらわすために口を開いた。香織は目に涙を浮かべながら笑っていたが少しするといつもの無表情に戻った。
「別に」
やっぱりいつも通りの反応だ。俺は傘を閉じ隣に座った。
「そんなわけないだろ。なんにもないのにこんな日にずっと座ってるなんて俺より変人だぞ」
「……」
何も言わない。俺は返事が返ってくるまで待つことにした。チラッと香織の方を見る。そこには色白の首筋に濡れた髪のけがはりつき、その下には……。すぐさま視線を戻す。なんと制服のワイシャツが雨に濡れ透けて見えたのだ。色は黄緑だった。生々しく肌が透けて見えていた。もうこの時点で俺の心臓は香織に届くんじゃないだろうかと思うぐらい動いていた。心臓を落ち着けるため目を閉じ雨の音に耳を傾けた。
ザーーーーーーーーーー
「転んだ」
何分ぐらいたっただろう。やっと返事をしてくれた。そして右足の膝小僧に置いていた手をはなした。そこには何とも痛々しく血でにじんでいた。
「そんならそうと早く言えよ。ばい菌でも入ったら大変だぞ。早く帰ろう」
俺は立ち上がり傘を開く。しかし、首を横に振った。
「なんでだよ。香織が行かないんだったら俺がおぶってでもいくぞ」
一瞬躊躇したが香織の震えてる手を握った。その手はとても冷たく濡れていた。すると首を横に振り自分で立とうとするが、体のバランスを崩した。俺はその弱々しい体を支える。
「まさか、足も……」
香織の右足は靴下の上からでもわかるぐらいにはれていた。
「ごめんなさい」
俺がそのこと気づいたのを察したのか小さな声で謝った。
「俺に謝ってもしかたないだろ。ほら、肩かしてやるから一緒に行こう」
観念したのか、もう嫌がろうとはせずに体重をかけてきた。俺はしっかりとその体を支える。好きな子とこんな密着するなんて、と考えるとまた顔が赤くなるけど今はその考えを振り払った。
様子を見ながら少しずつ前に歩いていき十字路に差し掛かる。左に行けば俺の家、真っ直ぐ行けば香織のマンションだったはずだ。普通に歩けばどちらも8分程度で着くはずだ。
「俺んちに行くか?」
確か今日は親が朝まで帰ってこない日だと思いながら尋ねる。
「うちがいい」
「わかった」
一歩一歩、香織の体を確認するように歩いていった。
マンションの玄関まで2人できて香織が慣れた手つきで鍵を取り出し、開ける。いきなり女の子の家にあがるのはためらわれたが、
「入って」
と言われたので素直にしたがった。香織の家があるらしい7階、4番目の704号室まではエレベーターであがってすぐついた。
「すぐ戻るから」
と言って家の中に入っていった香織を待って約15分。
「大丈夫かなぁ?」
そとからは中の様子は伺えないが中からはドタドタという音と苦痛の声が聞こえる。」
べつに多少散らかってても気にしないし、けが人なんだからおとなしくしてればいいのに。でも入ったら下着とかが干してあるとかは嫌だけどね。あ~ダメだなんてこと想像してんだ俺!!でも心配だ。お隣さんにも迷惑になるし一応、声ぐらいかけておくか。
「お~い、大丈夫か~?」
すると一瞬中の音が静まり、ゆっくりとドアノブが動く。
「入って」
香織が顔をだし、手招く。
「おじゃましま~す」
と言って中に入った。
「……」
「何?」
入ると通路になっており、リビングまで続いているようだ。香織は自分の部屋があるらしきドアの前で体をこっちにむけ、手で制していた。そこまでは別に問題ない。確かに自分の部屋は見られたくない。誰だってそうだろう。しかし、
「あの、ちょっと目のやり場が……」
「!!」
やっと気づいたようだ。香織は制服から着替えておらず、黄緑の下着が見えていた。しかも手を後ろにまわし、ドアを押さえつけていたため大胆にも上半身がほとんど見えてしまっていた。
「バカ」
そう言うと、すぐさま自分の部屋に入って行ってしまった。
「はぁ~」
初めて好きな子の家に上がれたっていうのになんだこの罪悪感。さっきのは俺が悪いわけじゃないよな。それでも、見てしまった。未だあの香織の色白の体が脳裏に焼き付いている。どう謝ろう……。
俺は誰もいないリビングのソファに座って香織が来るまでそんなことを考えていた。
数分すると奥でドアの開く音がして、足を引きずりながら出てきた。その姿を見たらさっき考えたことなんてどうでもよくなった。よほど強くぶつけたのか真っ赤に腫れている。表情には出さないが見ただけで痛さが伝わってくる。きっと、立ってることだって辛いはずだ。その沈黙に耐えられなかったのか香織が口を開いた。
「お礼」
「え?」
「夕飯食べて」
今日のお礼に夕飯を食べていってほしいらしい。普通なら喜んで食べるが、そんな姿を見せられてはこっちも黙ってまっているわけにはいかない。俺はキッチンに入っていく香織を止めるが
「そんな状態で料理なんて作れる訳なだろう」
「大丈夫、私が作る」
と言ったまま聞かない。
くそう。なんなんだよ。そんな体に無理させてまでご馳走になるなんてできるわけないじゃないか。なんでそこましでして意地を張る必要があるんだ。
「大丈夫なわけないだろ!! そんな体でなにができるって言うんだ!! 夕食なら俺が作ってやるからけが人ならけが人らしくおとなしく座ってまっとけ!!」
俺が大きな声を出して驚いたのかおびえた表情になり、蚊の泣くような声で言った。
「お礼にならない」
「お礼はまた今度してもらうよ」
「……わかった」
ついに諦めたのかソファに腰掛けた。
「はぁ~」
まったく、世話のやけるやつだ。でもちょっと言い過ぎた気もする。細かいこと気にしてもしょうがない。まずは夕食だ。でも俺、料理苦手なんだよな。材料があれば……。
冷蔵庫を開けた。意外と食材は豊富だった。
さすが、女の子。ちゃんと自分で料理してるんだな。よし、ここは1つ得意料理を作るか。
「できたぞ~」
できたものをテーブルの上に置いた。
「チャーハン?」
「おう。俺、特製エビチャーハンだ!」
俺が得意な料理。それはチャーハンだ。チャーハンはおやじから小学6年生の時に教わり、今も教わり続けている。だから得意中の得意。てゆうか、おやじに教わったのチャーハンしかないな。
「冷めないうちに食べようぜ」
「うん」
香織の足には包帯が巻かれていた。作ってる間に巻いたのであろうその包帯は早くも血がにじんでいた。
「足、大丈夫か?」
「うん」
そう言うがあきらかに無理をしている感じがした。
まだ6時で少し夕食には早い時間になってしまったが冷たい雨の中、2人でがんばって歩いたからお腹はペコペコだった。
「いただきまーす」
「ます」
2人でならんで座った。香織がまず一口たべた。
「ど、どうだ?」
家族以外に食べさせるのは初めてだから内心ドキドキだ。
「ん、おいしぃ」
香織は少し顔をほころばせ、黙々と放馬っていた。その仕草がかわいくその表情を見つめていた。香織との関係が親密になれた気がした。少しは武のおかげかもしれない。
次で最終話です。いちいち分けてすみませんorz本当は分けるつもりなかったんですけどリア友にイラスト書いてくれって頼んだらおkしてくれたんでいちいち分けています。イラスト付きです。




