表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

〇〇一 暗闇の中で

主人公の内面・説明等・グダグダです

▼▽ 〇〇一 暗闇の中で ▽▼


 ん? 目が覚めたような気がする。周りは暗くて何も見えない。

 朝はまだまだか。もう少し寝ていよう――


 ――目覚まし時計は鳴っていないけど、もうそろそろ朝だ。起きようとして周囲を確認したつもりだけど、まだ真っ暗で何も見えなかった。

 夜中だったのかな? もう一度――


 ――眠ってから大分時間がたったと思う。朝日はもう出ていてもおかしくないはずなのに真っ暗なままだ。そろそろ明るくならないとおかしい。目を開けているはずなのに光をまったく感じない。

 どこからか、電子的な音がピ……ピ……と一定感覚に伝わってくる。一体なんの音だろうかと考えた。


 もしかして、知らない間に病院に運ばれてたりするのだろうか?

 いや、そんなはずは無いか。

 蛍光灯のスイッチを入れて部屋を明るくすれば意識がはっきりとして、耳障りな音も止まるはずだ。そう思って、明かりを付けるために体を動かそうとした。だけど、寝返りもうてなくて手も足も動かせなかった。


 もしかして、金縛りなのか? それとも、まさか、実際に縛られてるから動けない?

 いや、どこを動かそうとしても力が入る感覚が無いのはおかしい。まず、縛られる覚えがないからそんなはずは無い。

 体が動かないのはどうしてかなと、体に意識を集中してみた。すると、体のあちこちに何か液体のような物が触れている気がした。このサラサラした感触は多分水だと思う。


 なんで体の周りに水があるんだろうか? 昨日は疲れてお風呂で眠ってしまったのか?

 いや、こんな暗いのに電気もつけずにお風呂に入るわけがない。

 お風呂も大事だけど、今は体が動かない事を考えるほうが大事だ。何で体が動かないのか、まず、昨日何をしたか思い出そう……


 あれ? おかしい。昨日僕は何をした? 頭の中に靄がかかったように上手く思い出せない。もしかすると、今は夢の中だから上手く思い出せないのか。

 夢だと考えると、今の状態にもなんとなく納得がいく。でも、真っ暗なだけで何も出て来ない・何も出来ない夢なんて見るのかな……


 ああっ、昨日の事を思い出した! 昨日は確か夕飯を食べて、お風呂に入って、その後ベッドに横になって寝たはずだ!

 お風呂から上がったから、今いる所はお風呂じゃない。とすると……あれ? 夕飯? 夕飯ってなんだった? お風呂にも本当に入ったのか?

 なにかおかしい気がする。体を動かして周囲を確かめたい。日記や携帯も確かめたい。だけど、何をしようとしても、目の前が黒いまま変わらない。そろそろ起きないといけないのに、手も足もどこも動かない……

 

 ここ……どこなんだろう? 何かないの? 誰かいないの?

 ここ……寒くないけど、暖かくも無い。僕は、なんでここに居るんだろう?

 

 おかしい。確実に何かがおかしいと思うけど、何故おかしいのかわからない。何でもいいから思い出してみようと思って、名前を思い出そうとした。僕の名前は……

 名前はなんだったろう。名前を思い出せなくて、自分の事が思い出せない。

 何も見えないし、どこも動かせない。全てがおかしく感じて頭がおかしくなりそうだ。最近の出来事や、自分が何をしてきたかも思い出そうとしたけど、思い出せない……


 自分の事を思い出そうと色々考えた。学校・勉強・読書・遊び・スポーツ・ゲーム・そんな事は思い出せる。だけど、親・兄弟・姉妹・友達、恋人、自分にとって大切な人達を思い出せない。

 どうすれば大事な事や人を思い出せるのかわからなくて、必死に頭を働かせようとする。だけど、もやもやとしたあやふやな一般的に知られている情報しか思い出せない。時間だけが無為に過ぎてしまう……

 じっくりと、ゆっくりと落ち着いて考えれば、すぐに思い出せるはず――


 ――日常生活で何をしたか、思い出せない。誰と遊んだり、誰と学んだりしたのかも思い出せなかった。でも、学んだらしい事はほとんど憶えている……

 ピ……ピ……と電子音だけが変わらずに伝わってくる。その電子音は、何の変哲も無い音のはずなのに、その音だけが聞こえてくるので、電子音が少し怖くなってきた――


 ――悩み始めてどの位時間がたったんだろうか?

「……っ……ぁ……ぅ」

 電子音とは、何か違うような音が聞こえた気がする。それは声のような音で、僕は誰か近くに人がいるのかなと思って、声のような音に意識を集中した。

 声のような音に意識を集中させていても、誰かいるかどうかはわからなかった。音に集中してから少し時間がたつと、ガチッと何か硬い物を押したような音が伝わってきた……


「……お……き……め……ざ……」

 硬い音がしてから更に時間がたつと、誰かが誰かに話し掛けているような、そんな声が僕に伝わってきた。

 誰かいる!

 その声が誰に対してなのかを確かめたくて、声に対して意識を必死に集中した。だけど、上手く耳が働かないのか、上手く聞き取れなかった。

 何も考えずに声だけに意識を集中していると、声が少しずつはっきりと伝わってきた。


「ス……タ……ア……お……て……め……て……」

 やっぱり声だ。誰か人が喋っている! ここだ! 僕はここに居る!

 返事をするために口を動かそうとした。だけど、口が動かない。身振りや手振りで合図を返そうと必死になっても、どこも動く気配がない。


 結局、何をしようとしても無駄だった。僕は声に対して何も出来なかった……

 突然、目の前の真っ暗が急激に真っ白に塗り替えられた。

 ァッ、頭が痛い。光が強すぎる事に僕は少しだけ苦痛を感じた。返事も合図も何も出来なかったけど、どうやら誰か僕に気付いてくれたみたいだ。

 よかった……


「おはようございます」

 透き通るような女性の声が伝わってきた。

 僕ははっきりと声を認識できたので、今まで怪しかった感覚は気のせいだったんだ。そう安心して気がへなへなと抜けてしまった。体に力が入らない気がして、声に対してすぐに返事をするのを忘れてしまっていた。


 少し時間がたって落ち着いてから(おはよう)と口を動かそうとした。だけど、口が動かない。息を吐き出しながら喉と口を動かせば声は出るはずだ。でも、口が動かない。

 体が麻痺してしまっている? 口が動かせる状態に無い? どうすればいい?

 体を動かして身振りで示そうと、体に意識を集中させた。やはり体は動かないし、まだ水が体にまとわりついているような感覚がした。


 水の感覚は気のせいなんだ!

 そう思って起きようとした。だけど、やはり体は動かない。どうしようかと悩んだ……


「……お目覚めですか?」

(おはよう。気分は最悪だけど、今目覚めたところだよ)と返事をしようとした。当然のように口は動かない。体もどこも動かないので、やはり身振りすら返せない。

素体番号十三サーティーン

 誰かに問いかけている。そんな感じの口調だ。素体番号十三ってなんの事なんだろうか。そんな事よりも僕に気付いてほしい。


「素体番号十三、目覚めていますね?」

 もう一人誰かが居て、その人? に問い掛けているみたいだ。素体番号十三とは誰の事なのか。少し嫌な予感を感じるが、誰の事か聞きたくても聞けないのがもどかしい。

「私の名前は偽生キキです」

 キキ、ね。今話をしてくれている人の名前らしい。顔は見えないけど、名前位は一応覚えておこう。


「あなたと同じ素体で番号は〇です。これからよろしくお願い致します」

 あなたとはもう一人居る誰かの事か。キキと誰かが同じって事は、その誰かの名前は素体番号十三って事だ。番号が名前って事は、一郎次郎三郎系の名前だろう……

 いや、良い方に考えるのはやめよう。

 普通に考えると、考えたくは無いけど素体番号十三が僕の名前で、作られた物のように番号をただつけられただけで、キキも番号付だって事だ。


「これから現在の状況について説明を行いたいと思います。質問や疑問などにはお答えできません」

 今の良くわからない状況についての説明はありがたい。だけど、質問や疑問に答えれないなら素直に担当を替わった方がいいと思った。

「現在、素体番号十三は停止状態から、起動状態への移行が確認されています。何が起きて素体番号十三が起動したのか私には説明できません」

 停止状態って寝てたって事になるのか? 起動状態って起きたって事になる? 人間には起動やら停止やらは無いと思うし、僕は機械なんだろうか? 僕が機械って事はありえないと思うんだけど……


「素体番号十三の肉体は現在非活性状態にあるので、動けないと思いますが問題はありませんか?」

 非活性って、確か動いていない状態のはずだ。

 今動けないのはその非活性状態なせいか……って、ちょっとまて。

 非活性状態って事は、言い換えれば死んでるって事じゃないのか? 僕はまだ死んではいない。絶対に死んでいない!


「伝わらないので説明する事に意味はありませんが、私の……練習のために、です」

 伝わらないので説明する意味が無い? 僕には伝わっている。

 だけど……もしかすると、こちらに聞こえていない事を前提にして僕に話し掛けている。だから練習のため……って練習って何だ? 僕は練習のためのものなのか?


「それではこれから素体番号十三を活性状態に移行するために、再生操作を実行します」

 意味が良くわからない。いや、考えたくない。でも、考えないといけない。再生って事は、僕は事故で体のどこかを欠損していたか、または起き上がれない状態にあったって事だ。それなら頭だけ働いていてもおかしく……

 いや、頭だけ働くのはおかしい。今考えているのは、多分頭じゃない。頭じゃなければ、心だ! 僕の心が……無理があり過ぎる。


「肉体生成及び書き込み、生命波による問い掛けを実行します」

 肉体生成? 今、僕の体を作っている? そんなわけ無い。生命波って何? 脳波とかα派とかβ波とかの仲間? もうちょっと詳しく説明して欲しい……

「問い掛けは一度きりで、回答は重要ではありますが、必要ではありません」

 ちょっと待って欲しい。返事も出来ないのに問い掛けにどうやって答えればいいんだ? 必要じゃないって事は、答えなくてもいいって事か? わけがわからない……


「では用意はよろしいですね? 始めます」

 全然よろしくないよ。心の準備も用意もできてないんだけど――


 ――光がどんどん強くなっていくけど、大丈夫なのかな。

 雲間から差す光が周囲に降りてきている感じで、暗闇が少し神秘的な雰囲気になった。しばらくすると、機械音声のような強弱の弱い声が伝わってきた。


「例外ファイル〇一三オープン。素体番号十三専用コードを実行します」

 例外? 〇一三ってそのままじゃないか。何で例外だよ!

 なんか信用できないな、もっと優しそうな声の人がいい。伝わらないし、機械音声っぽいから口答えも突っ込んでも無駄かな……


「名前は? 性別は? 種族は? 種類は……」

 いきなり問い掛けらるようにされても困る。名前は思い出せないし、性別は男か女だったはずだ。当たり前のことが思い出せなくて少し自分にビックリした。種族は霊長類なんとか科なんとかもく? 人だよ。


「戦争とは? 平和とは? 自由とは? 拘束とは? 生きるとは? 死ぬとは? 望むことは? 努力とは? 勝つとは? 負けるとは? 戦うとは? 守るとは? 好きな物は? 嫌いな物は? 好きな事は? 嫌いな事は? 時間とは……」

 戦争は戦いだし、平和は一時的なものだし、自由はフリーダムで、拘束はプレイの一環だね。

 生きていても死んでも他人に極力迷惑を掛けないで、好きな事が出来ればいいな……哲学的のようでどうでもいい事ばっかりだ。深く考えていると、問い掛けに思考が全然追いつかなくなった。考えすぎのせいか、どうしてか、意識が曖昧になってきた……


「魔法とは? 火とは? 水とは? 風とは? 土とは? 光とは? 闇とは? 植物とは? 生物とは? 支配とは? 秩序とは? 強者とは? 弱者とは? 神とは……」

 魔法ってあれかな? 魔女が鍋にかえるやイモリを入れてイッヒッヒ……神様助けて。いや、カスケロ! とどうでもいいような事を考えていたら、意識が遠くな――


「――き……て……か……バ……」

 なにか聞こえてくるけど、音がはっきりとしなくてわからない……


「きこ……ます……テ……ン……」

 これは声? 誰かいる? それとも気のせい?

 集中が出来なくて、声をはっきりと認識出来ない。聞いたことがある声だ……


「聞こえていますか? 素体番号十三」

 意識が急にはっきりとして、思考能力と集中力が戻った。すぐに、これはキキの声だと気付いた。

 キキの声が聞こえるまで、僕は何をしていた?

 ちょっと待てよ、確か……何かの答えを考えていたはずだ。


「思考が強い負荷となり、一時的に静止状態になってしまいました……」

 静止? パソコンがフリーズ? もう少しで止まる所だった? 僕が? もしかしてさっきの良くわからない問い掛けって、本当は危険な事だった?

 キキに対してなのかわからないけど、急に怒りがわいてきた。もし、僕が止まっていたりしたら絶対に君を許さない……

 落ち着こう。僕はまず、パソコンじゃない。


「……問題はありませんか?」

 問題ありすぎだ! 聞こえないと思って適当すぎだ! 納得がいかない! 文句が言えれば、伝えることが出来れば……

 いや、そんな駄目だと思う弱い気持ちじゃ伝わらない。強い意思があれば気持ちは伝わるはずだ! 詳しい説明を要求する!


「申し訳ありません。生命波についての説明を忘れていました」

 こいつ! 僕の考えを読んでいる! 絶対にそうに違いない!

「問い掛け、書き込み、肉体再生成の工程により、素体番号十三の意識に混濁や激痛が伴なわれると思います……ですが、意識はないので問題無いと思われます」

 激痛とか意識の混濁とか、それは絶対に忘れて良い事じゃないと思う。意識は無いから問題ないとか、僕にはあるし、問題もありすぎでどこに突っ込めば良いかわからない。


「では、続いて知識の書き込みを行います」

 一般常識くらいわかるからいいよと思った。それよりも、書き込みって何をしているのかが気になった。

 パソコンみたいにハードディスクに何か書き込むんだろうか?


 考え事をしていたら、文字のような記号のような何かが大量に目の前を通り過ぎていった。今もなにかが通り過ぎている。

 文字のようなこれはなんだろう?

 目があるかどうかはわかんないから、何かが見えるだけなんだけど……

 また意識が、曖昧になってきているような――


「――こえ……すか……」

 なんだよもう。折角気持ちよく寝ていた……のに?

「聞こえていますか? 素体番号十三。起動反応を確認しました……」

 聞こえているけど、何をしていたか思い出せない……

 あっ、思い出したから待って!


「……それでは続行します」

 何を思っても考えても無駄なんだろうと思った。僕の考えなんてお構い無しだ。まあ、意思の疎通が図れない相手の事を気に掛ける人なんて、いないと思うけどね。

 急に、後で覚えていやがれ! と三流悪役の捨て台詞を思いついた。一流悪役はどんな感じの捨て台詞だったかな?


「一般常識、身体操作及び魔法知識の書き込みを行います……」

 一般常識は多分大丈夫だと思う。別に体なんて普通に動かせる。魔法だって普通に使える……魔法? 頭の中でなら魔法は使える? また意識が曖昧に……

 我が滅びても悪は――


 ――なにかが流れてきた。見覚えがある物、見覚えがない物、説明書のようで、意味のない文章のようにも思える大量の文字の羅列だ。

 火や水や鉄と思われる見知った物など、ミスリルやオリハルコン等の想像の中でしかありえない物などが形と文字になって、目の前を流れて……


 何でもできるが何もできない普通の人。ほっそりとした自然と魔法のエルフ。ずんぐりで洞窟と鍛冶を好むドワーフ。小さくて器用で素早いホビット。繁殖力が高く群れを作るゴブリン。㌧㌧オーク。耐久力が高く復活する不死族。強靭な生命力と魔法知識を併せ持つ竜族。光と調和を愛する天使。闇と絶望を好む悪魔。破壊と混沌を望む魔族。正義を主張する神族。敵対する生物が多い魔物。生命の循環を促す植物……


 聞いた事ある種族が多いような気がするな……と突っ込みを入れても反応は無かった。

 多種多様な知っている言葉と知らない言葉。自然現象が鉱物が種族が動物が植物が様々な特徴と共々に目の前を流れていった――


 ――常識と思われる言葉が大量に流れた後、生活の知恵と思われるものが流れてきた。

 お金の扱い方と思われる硬貨や紙幣の使用法等、一般的な挨拶方法等、野外生活方法や危険な野外で生き残るための方法まで流れてくる。

 人間の事は人。人間では無い人型種族の事を、まとめて亜人と呼ぶらしい。人間に差別はやっぱりあるみたいだし、利益を奪うために争いあうみたいだ。


 人の領域外の場所を領域外アウターワールドって言うらしいけれど、領域外アウターワールドと言われる場所には、魔物と言われる存在が大量に蔓延っているらしい。

 街道は比較的安全みたいだけど、無闇な移動は危険みたいだ。でも、普通の人が準備も無しに山とか森を歩いても危険なのは一緒だよね……


 職業斡旋所ギルドっていう仕事を紹介してくれる所に登録しておくと、仲間を集いやすくて何をするにも有利になるんだって。仕事、あればいいなぁ……

 様々な方法が用法が色々な手段と共に流れていった――


 ――当たり前な身体の動かし方が流れ始めた。手を動かしたり、足を動かしたり、体を動かしたり、飛び跳ねたり色々だ。

 当たり前じゃない身体の動かし方も流れて来た。基本的な素手による格闘方法とか、剣や槍や弓の基本的な扱い方とかたくさんあった。

 目玉商品が来た。アニメや漫画や映画等の産物だと思っていた魔法があるんだって……僕の頭が大丈夫なのか心配だ。魔法の知識は、雪の結晶のようで幾科学的模様のようで、とても幻想的だった――

 

〈――三神エ・セの軌跡と英雄の生い立ち。魔と人との戦いの歴史〉

〈重要な部分を抜粋〉

 ザガルディアが太古の神々から生み出され、このザガルディアを守護するため三の神が降臨された。

 大地の神の名を大地母神アルヴァリス・大いなる海の神の名を大海神ベタリクルス・空を駆る神の名を大空神ガルジアネス


 三神エ・セは自らの体に近い人々を慈しみ、愛した。人に知恵を授け、文明を興した。

 三神エ・セが降臨されてから人類は大いに発展した。それから長い時がたつと、宇宙から新たに神の一柱が大地に降り立った。この神は後の破壊神イリアシアである。


 破壊神は大地を荒らし、生物の全てを苦しませ魔物を作った。三神エ・セはそれを止めるように動いたが、破壊神の力には及ばず破壊神を止めることが出来なかった。

 三神エ・セは自らの力だけでは破壊神は止められぬ、このままでは世界の危機だと人に抗うように告げた。人は、三神エ・セに言われる前にすでに魔物や破壊神と戦っていた。

 だが、人は魔物の数に・勢いに抗しきれず、破壊神の強大な力の前に大陸の端へ、端へと押しやられてしまっていた。人々の努力は徒労に終わり、人はじりじりとその数を減らしなが、滅亡への道を歩んでいた。


 そこで三神エ・セは相談し、人から破壊神と戦いうる人々を選別した。また、三神エ・セは人だけの力では破壊神に勝てぬと考え、神器を作り出した。

 三神エ・セに選別された十二の人は、十二の神器を三神エ・セから授かる事になる。これが神器を持ちし初代の十二英雄である。

 十二の英雄達は神器を用いて破壊神に対抗した。英雄達は幾度もの戦いの後、破壊神を魔の最奥地(アランシア)へと押し込む事に成功した。


 英雄達と破壊神は魔の最奥地にて総力を結集した。そして、大地を割り、海を割り、空を裂く熾烈な戦いが始まった。

 英雄達の神器が破壊神に届くとも、破壊神は怯まない。それどころか、英雄達の幾人かが破壊神の黒き邪悪な剣(ノヴァ・イルシア)に倒れた。


 戦いは想像を絶するものとなり、大地は砕け、海は沸騰し、空は真っ赤に染まった。英雄達が力及ばず倒れていくなか、三神エ・セがその場に現れる。

 三神エ・セが現れると状況は突如として変わった。三神エ・セが破壊神を弱める結界を張ると、英雄達の持つ神器が破壊神に届くようになり、破壊神は傷つき目に見えて弱っていった。

 三神エ・セの寵愛を受けた一人の英雄ユーフェリア。その英雄が放つ最後の一撃、英雄の持つ白き剣(リザ・リアス)が破壊神の持つ黒き邪悪な剣(ノヴァ・イルシア)を断ち切る。そして、そのまま破壊神を断ち切るかに思われた。

 だが、黒き邪悪な剣(ノヴァ・イルシア)が断ち切らた瞬間、周囲に白い衝撃波が発生した。その衝撃波は凄まじく、破壊神と英雄ユーフェリアを巻き込んで周囲を真っ白な半球状に覆いつくした。


 時間がたち、半球状に覆い尽くした衝撃波が晴れると、衝撃波の範囲にあった全ての物が無くなっていた。その場には、英雄達と三神エ・セだけが呆然と立っていた。

 三神エ・セは悲しみを隠してその場に佇み、生き残った英雄達を癒した。三神エ・セは英雄達を大いに労ったが、英雄達にその気持ちは通じなかった。

 三神エ・セと英雄達が話を終え、英雄達が帰還の徒につく。


 三神エ・セは英雄達に神器は争いの火種となると言い、神器を返還してもらうために様々な物を授けると譲歩したが、英雄達は神器の返還を拒んだ。

 三神エ・セと英雄達の話し合いは決裂したのだ。

 三神エ・セは人の世に争いの種になる物を残して、憂いを残して神の世界に還っていった。


 一人の英雄が破壊神と共にこの世を去り、四人の英雄が破壊神との戦いので力尽きた。そして、七人の英雄達が人の世に帰った。この七人の英雄達が後の七帝ライン・セリアンである。

 七帝達は魔物を討滅し、人の版図を大いに拡げた。

 七帝についての時代は別冊の〈七帝の軌跡〉を参照する事。


 七帝の時代から数百年の時がたつと魔の物にも知識あるものが増え、魔の側に再び王と呼ばれるオブレス公が発生した。

 特に常識外れな力と知恵を持つ魔物を上級魔公ハイ・オブレスと呼び、魔の最奥地に魔を総べるとされる存在がいる事を英雄達が確認した。確認された存在は四体で、四体いる上級魔公ハイ・オブレスの事を人は恐怖と畏敬を込めてこう呼んだ。四大魔公(ギード・オブレス)と。

 四大魔公は魔の領域に入る者には容赦がなかったが、魔物を纏めて人側に攻め入る事をしなかった。四大魔公(ギード・オブレス)が人の領域に攻め入らなかった理由は、力を蓄えて数百年の後に起こる事となった魔物大発生バーン・ブラストのためであったとされている。


 魔物大発生バーン・ブラストの直前までは人と魔物が拮抗していたが、魔物大発生バーン・ブラスト後は急激に人の版図が狭まった。今までの散発的な魔物の襲撃だけならこうはならなかった。

 魔公が魔物を統率し、魔物の大群を持って次々と村落や都市を制圧したからだ。魔公のなかでも、人の版図を激減させた七体の魔公の事をこう呼ぶ。滅びの七魔公(アグレサス・オブレス)と。

 元七魔王ペレッグスが人に協力したのはこの時のためであり、当時の人類が甘かったと言わざるを得ないだろう。元七魔王ペレッグスは名を変え滅びの七魔公(アグレサス・オブレス)として再び恐怖の存在に返り咲いた。


 人々は十一の上級魔公ハイ・オブレスの持つ力に絶望し、再び滅亡の危機に瀕した。

 だが、人を滅亡の危機から助けるために、再びかの三神エ・セが降臨されたのだ。

 三神エ・セは再び十二の人を選別し、十二の神器を与え、十二の英雄が生まれた。これが近代の十二英雄である。


 神器を携えし人と魔公達の戦いは熾烈を極めた。十二英雄は戦い続け、魔公を討伐し、滅びの七魔公(アグレサス・オブレス)を退ける事に成功する。

 近代の十二英雄は四大魔公(ギード・オブレス)の待つ魔の奥地まで攻め込むことはかなわなかったが、大地を取り戻す事に成功したのだ。

 再び魔と人はこう着状態に陥り、神器は兄弟姉妹子々孫々にと受け継がれて現在の人の時代に至る。


 四大魔公は変わらずに奥地に潜み続けているのか。滅びの七魔公(アグレサス・オブレス)はどうなったのか。これから何が起こるのかは誰も知らない。

 

〈十二の英雄・七帝と滅びの七魔公における関連性〉

                    考察 ■■■■・■■■■■・バレット

 この文章を読む前に、各地に存在する文献と正史の不整合性を鑑みなくては、とてもではないが読むに値しない文だと思うだろう。

 上級魔公ハイ・オブレスと呼ばれる存在と戦った後に私は考えた。


 私が十年前の戦争で戦った魔公オブレスが、もし滅びの七魔公(アグレサス・オブレス)と言う御伽噺に出てくる存在だとしたら、その力の前に何故人類が絶滅していないのかを不思議に思った。

 あの超絶的な力の前では神器の力など玩具に等しいとさえ感じてしまった。私はあれに勝利したわけではない。見逃されたのだ。


 初代の英雄〈七帝〉は神器を持ち、破壊神を魔の最奥地に押し込み倒すまでに至った。

 英雄に神器が合わされば確かに強い。だが、私の見た英雄達の持つ神器では、破壊神を倒す所か、滅びの七魔公(アグレサス・オブレス)を退けれるとも思えなかった。

 神器とは持つ物によってそれほど力が変わる物なのか疑問に思った。


 破壊神を討滅せしえた初代の神器。滅びの七魔公(アグレサス・オブレス)を退けたとされる近代の神器。実際の神器は命を賭けて上級魔公ハイ・オブレスを押さえる事が出来ただけだった。

 余りにも過去・近代・現在で神器の効力が違う事から、神器は違う物だと考えた。もしも神器が同じ物であるならば、現在の全ての英雄が集まり、神器が壊れるまでに酷使してやっと滅びの七魔公(アグレサス・オブレス)の一体を倒せるかどうかという所だろう。

 上級魔公ハイ・オブレスと戦った後、戦いを有利に進めるため、彼らの弱点を見つけるため、正史と各地に存在する文献を探し出した。すると、すぐに滅びの七魔公(アグレサス・オブレス)の行動・存在がおかしい事に気付いた。


 各地の文献の歴史と正史を照らし合わせていくと、滅びの七魔公(アグレサス・オブレス)と同時期にいなかった筈の七帝がいる事に気付き、七帝の姿が人ではなかった事が解った。そして、その姿とは滅びの七魔公(アグレサス・オブレス)と大差ないものである事もわかった。

 滅びの七魔公(アグレサス・オブレス)が、もし七帝であったならば、四大魔公(ギード・オブレス)がなんなのかを考えるまでもなかった。破壊神を討滅した英雄ユーフェリアだけが死んでおり、十二という数に一致する。

 私が戦った滅びの七魔公(アグレサス・オブレス)が神器を持っていなかった事から、正史による三神エ・セ達と七帝達の神器の返還の下りは限りなく嘘に近い物なのかもしれない。そう考えられた。


 破壊神と戦った後、神器が力を失ってしまい三神エ・セが神器を受け取らなかったと考えられる。もしくは、神器がまったく別の存在であり、近代の英雄が使用した神器は三神エ・セが新たに作り出した物であるならば正しいのだろう。

 初代の英雄がすべて人でなく、上級魔公ハイ・オブレス以上の力を持つ存在であればあの神器でも破壊神を倒した事に納得がいく。

 だが、人でないのならば人から英雄と呼ばれた意味が解らない。


 三神エ・セの行動が、三神エ・セを崇拝させるように動いているのは解る。だが、そうすると破壊神イリアシアを何故自ら滅ぼさなかったかがわからない。

 人を崇めさせるには、三神エ・セ自らが破壊神を倒すのが一番有効なのはわかっていたはずだ。神が三体もいて、一体の神を倒せなかったとはとてもではないが思えない。


 破壊神は当時の人達にとって本当に敵だったかどうかだ。

 破壊神が復活した時に三神エ・セはどのような行動をとるのか。本当の神器はどこから出てくるのか。四大魔公(ギード・オブレス)は何故人類圏に攻め込まないのか。滅びの七魔公(アグレサス・オブレス)は何故人を攻め滅ぼさないのか。破壊神が復活すれば全ての謎が解けるように感じた。


 滅びの七魔公(アグレサス・オブレス)を調べるに当たって、もし彼らが破壊神の系譜から連なる物と確証が得られたならば、三神エ・セの事を疑わずに信じ続けられた事に違いない。

 私の手にある、傷一つ無い黒き邪悪な剣(ノヴァ・イルシア)があるからこそわかった事だが、彼らを調べて得られた情報は、改竄された歴史の綻びと歪みだけだった。


 破壊神という存在について伝承とこれまでの事を総合に考えると、最低でも滅びの七魔公と四大魔公と英雄ユーフェリアを足した程度の力を持っているという事だ。

 三神エ・セがどの程度かわからないが、破壊神イリアシアと相対させる時が楽しみだ。

 私はこれから破壊神イリアシアの復活を目的として動き、その際に起こした行動で、この世界を再び混沌の坩堝に落とす事になるだろう。


 この考えは異端であり正常な人間の考える事では無いとわかっている、他人に話しても正気を疑われるだけに終わる。

 だけど、誰かに知っておいて欲しかったのかも知れない。

 だから、ここに記しておく。


 名前を残さない臆病な私を恨んでくれて構わない。私は全てを捨てて、一つの悲しい魂を得るために狂信者としての道へと進む。

 私を止めるのなら早めに行動する事だ。親愛なる私かもしれない君へ――


 ――意味が良くわからなかったので、覚えておかなくても良いと思った――


▲△ 〇〇一 暗闇の中で △▲


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ