わたくしとあなたと 創世編
創世編は短編で続きます。
…
……
………
ふかいふかいまどろみからさめた。
ここはどこ?
わたくしはなに?
今考えているわたくしはいったいなに?
わたくしがわたくしであると認識し始めたのはいつのことだったか。
なにもない。空間や時間といったものはまるでなく、
ただ、自我というものだけがわたくしを形作っている。
……だからわたくしは、自我を自身たらしめる形をまとうために、
光だけではわからず、影だけでは認識できないから、
形を感じ、そして知るために、光と影をつくった。
わたくしの視界にうつるすべてが世界であり、それは幾重にも重なり、暗黒をまとっている。
ただひとつの存在であるわたくしは、ただそこに存在するだけだった。
形を確認するために、『テ』を伸ばし、『考えていること』を行っている場所にあてた。
ざわりとした感触と、つるりとした箇所が分かれている。
なめらかな感触に、わたくしはこのような形になっていたのだと実感した。
そして満足した。
わたくし自身のすべてを感じ取ると、それを行うことをやめた。
しだいに、自身を固定したいと思うようになった。
どこかに接触できるなにかがあればいいのだ。
そうしてできた場所にわたくしは接触した。
『テ』でそれを確認していき…
わたくしは
ふたたびまどろみの底深くしずんでいった。
…ふ…と
…なにかがわたくしをよぎる。
そんな感覚を覚え、ふたたびまどろみからさめた。
かつてのように、光と影が交錯した世界にただひとつ…
違う。ここはなんだ?
記憶の底にあるものを手繰り寄せても、これは、知らない。
「…青い」
わたくしのいる場所からみえる色は青。
『からだ』を起こす。
不思議な感覚。
場が揺らいで、ざわめいている。
そのざわめきにゆられて、『緑』がさわいだ。
視線を少しかえた。見えるものすべてを見てやろうと思ったのだ。
ぐるりと見回す。
「ここは…」
わたくしのしらないものが数多くあった。
そう、これは足だ。足の下には…土と緑。
おそるおそるテ…手を上に伸ばす。あれは空。
足を動かしてみた。2本あり、それらは同時に動かすことは大変な困難を招いた。
しばらく考えて、一本ずつ動かしてみることにした。
そら、こっち。
そら、こっち。
もどかしいが、足に伝わる感触は心地の良いものだ。
それにしても、
わたくしがまどろんでいるあいだにいったい何が起こった?
『水が流れている』のを見つけた
空の色をわずかにうつしとり、淡い青となってかがやいている。
『大樹』をみつけた。
『うっそうと生い茂った葉』は『大気の揺らぎ』にカラダをまかせている。
わたくしも『大気の揺らぎ』…『風』をうけ、感じている。
「…youyaku mezametanone」
これは、なに?
大気の揺らぎとは別の…音…?
けれども、
この揺らぎを合図にしたかのように、
わたくしの『考える部分』が一斉に様々な大気の揺らぎを感じ取っていった。
風の音、草の音、水の音、大樹の葉のこすれあう音、自身の足が足元を踏みしめる音、
そしておそらく意味を成す音。
「…ようやく めがさめたのね」
音のする方へと視線を向ける。
これは、なに?
これは、わたくし?
違う。
わたくしは、ここだ。
それに「ヨウヤクメガサメタノネ」という音はわたくしが発したものではない。
では、これは、なに?
「ワタシハアナタ。アナタハワタシ。ワタシノナカノアナタデアリ、アナタノナカノワタシ。ソレガ、ワタシ」
それが発する音は、わたくしの『考える部分』に深く深くしみていった。
ようやく全てを理解した。
そう。
わたくしは、ここ。
これは、かつてわたくしだった一部であり、そのもの。
自身の周囲に広がるこの場所は、もうひとつのわたくしが整えた場所だった。
わたくしは、おそるおそる音を発する。
「アイシテイル」
手を伸ばして、それに触れた。
それもわたくしに手を伸ばし、わたくしに触れた。
わたくしは、ようやくわたくしであることの確証を得ることができた。