てっぺん
まだ、月が出ている時間に、一行は登頂を始めた。
今日は山頂までいかなければならない。
月光が明るいのでがん灯もいらなかった。 *がん灯……懐中電灯のようなもの
幻想的な月夜の雲海を見ながら、誰もが穏やかな気持ちで登る。
「今日は御来光が拝めそうです」
不二道講の人々は嬉しそうに何度も繰り返した。天気のよい日であっても頂上付近になると霧や雨のため、なかなか日の出を見ることは出来なかったからだ。
「ふわ~ なんという光景だ」
振り返った龍才がつぶやいた。
夜明け間近の雲海は、ダイナミックで重厚で……壮麗なる絶景だった。光り輝く月に照らだされた部分、東からの茜色の光線に照らされた部分。
それが上に下に。向こうからこちらへ。移り変わり混ぜられコントラストを成している。龍があちらこちらでさざめいているようだった。
見ているだけで心奪われる。
「村の明かりが見えます」
皆の無言の感動を破ったのは、不二道講の世話役頭だった。
彼の視線の先を見ると、雲が切れた合間からちらちらと下界の家のあかりが見えた。このような天上の果てでさえ人間の営みを感じるとなぜかホッとした気にさせられる。
一行は足を進めた。
風はここちよく寒さを感じない。
そして八合目まえで、朝日が顔を出した。
「御来光です」
頭が告げた。
強烈なる光の光線。
神聖なる光。
一瞬で変わる世界。
明るい。
世界は色彩豊かで、くっきりとした輪郭を伴った形を現した。
「ああ」
あかりが感嘆の声あげた。
そこにいた皆は何も考えず、思わず手を合わせていた。
ただ、ただ神聖で。
なにか得も言われるエクスタシーを感じて……
――生きている――
小夜は強烈に感じた。
御来光も、わたしも、世界も。
八合目で朝食をとることになった。
小夜は酸欠のため少し頭痛がしていた。が、食べると治まった。
血糖が上がったため体内のエネルギーが循環し始めたのかもしれない。
そして、また登りはじめる。ゆっくり、ゆっくり。
霧が出始めた。
「もう少しです」
頭が皆を励ます。
赤茶けた大地と、乳白色の空間しか見えないとモチベーションは自然に下がる。そのうえ高山病も入ってくるため頭が重くなる。
「六根清淨、六根清淨」
お山のぼりの掛け声リズム。
小夜たち四人は、無意識のようにこの節に合わせて歩をすすめていった。
――そして――
頂上。
霧がはれた。
真っ白な雲海。
真っ青な空。
雲と雲海は同じ色で、天と地の境界感覚が狂う。
「うわあ……」
あかりは後頭部がぞくぞくした。空間が開かれすぎている!
一方の小夜は手を大きく広げて深呼吸をした。
体がすーすーする。
清浄な気が、何かを洗い流してくれるようだった。