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おかしな取り合わせ

「で、何なんだ、あの男は」


 次の日やってきた龍才は、外の木の上にいる旭にきっちりと気付いた。

「変態の我らの愛好家じゃ」     *愛好家……ファンのこと


 小夜が冗談っぽく答えた。

「はあ……」

「旭は、お庭番ですが我々を警護すると言っているのです」


 あかりも半分笑いながら、外の様子を確かめてから玄関戸を閉めた。近所の人たちにそろそろ噂になり始めていたのだ。お胡夷婆さんは親戚娘が来ている、と、村の衆には説明していたが、龍才や旭の出入りまで知られてはさすがに不自然すぎだ。


「どういうことか、いっこも分からん」

 龍才には、ひととおり旭のことを説明してみたが、首をひねるばかり。それはそうだ。あかりたちにもよく分からないのだから。


「ま、とりあえず、おれが来たのは、親方が、もうそろそろあかりたちは村に帰ってこられるだろうから、おまえ、迎えにいってこい、と言われたからなんだ」


 あかりは今更ながら父親である炎才の愛情を感じた。そして、なぜか小夜のことを対比させてしまった。自分は現在でさえ父親にも兄にも愛されているのに、小夜の家族はどうであったのだろうか、と。


 どうも小夜の性格をみていると、異常なる独立心の背景に家族の不在が感じられてならなかった。


「でもなあ、あれが着いていちゃなあ……」

 そう言うと龍才は大きなため息をついた。旭のことである。公儀・お庭番をつれてしのびの里に行くわけにはいかない。


「考えたのですが、わたしたちは長崎へ行こうと思ってるんです」

 あかりがハツラツと口を開いた。今日は顔色がよくずいぶん元気そうだった。


「長崎? そなたらお尋ね者なのに、どうやって旅をするつもりだ」

 龍才はあきれたように笑った。


「お胡夷さんに聞いたのですが、女道というものがあるらしいのです。そこは手形がなくても、お金さえ払えば関所抜けやらまわり道をさせてくれるみたいです」


「まあ、そうだがな」

 あちこちを旅してきた龍才にとっては、そんなことは分かっていた。


 〝入鉄砲に出オンナ〟と言われたくらい、当時の女人の旅は面倒が付きまとっていた。各地にある関所は、女手形を持っていても相当に厳しく詮議せんぎをした。だから、手形を持たない女や発行してもらえない女たちは迂回ルートを通るしかなかった。もちろん、急ぎのしのびや無法者たちもこのルートを使っていた。


 関所を通らないまわり道は、山や谷が厳しく、切り立った崖もあり、相当の難所だった。一歩間違えば谷底へ落ちるか、体力が尽きて倒れるか。また、裏道はことばどおり、裏の世界でブラックマーケット的なやからが取り仕切っていたのである。


 女しのび、なら何とかなろう。しかし、今回は小夜がいるのである。しのびでない女人がそうそう簡単に旅を続けられるとは思わなかった。


「では、仕方ない。旭と龍才どのに着いてきてもらうしかないの」

 龍才の説明をうけて、小夜はさらりと言った。


「え?」

「だって裏道は危険なのであろう。したが、しのびが三人もおれば、こんな心強いことはない。わたくしも、旅をしながら体力をつけていくつもりじゃ」


 がんばるぞー、というように体を動かす小夜に龍才はあいた口がふさがらなかった。

 しかも、旭という将軍家お庭番まで連れていく?


 やはり小夜どのは乱心しておるのだろうか。

 一瞬、龍才は疑った。が、またまたよく考えてみると小夜の言うことには、筋が通っていた。それしか方法はないのだ。


 ここにはもう長くはいられない、かといって、裳羽服津村には帰れない。


『あーあ』

 難問山積な旅道中を思うと、龍才は頭をかかえるしかなかった。


 こんな美女をふたりもつれて、どうやってスムーズに旅など出来るものか。泊まる宿からしてものすごく苦労しそうだ。何が裏道だ、そんなことできるワケないだろー! 龍才は叫びたかった。


 こういった花は、大奥のような温室に保管して観賞するのがいっとう正しいのだ。なのにそこいらの男以上に行動派で危険なのである。なにせ、大砲をぶっぱなすのだから。


 温室にいろ、など言おうものなら、温室である大奥ごとふっとばされそうな気がした。


「あのー、小夜どの。まだ短筒は持っておられるのか」

 龍才はこわごわ尋ねた。


「持っておるが予備の薬きょうが後少ししかないのじゃ」

「龍才さまは火薬がお得意です」

 ね、と同意を求めるように、あかりが嬉しそうにペラペラと、しゃべった。


 龍才は軽い頭痛を感じながら口を開いた。

「小夜どのが持っておられたのは新しい銃ですので、作るのは難しいかと」


「なに、使った薬きょうを回収して、金属と火薬を詰めればよいだけじゃ。火薬がお得意だったら、さしてむずかしくはありますまい。わたくしも少しは知識がありますゆえ、火薬のことは教えてくだされ」


 そうやって花が開くように微笑みかけられると、龍才もたちうちが出来なかった。その笑顔の威力を十分承知して笑いかけている。それは分かっていたが龍才にはどうしようもなかった。


『おーい、旭とやら。おまえの気持ちが分かった気がするぞ』

 急に旭が近くに感じられた。


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