現れた敵2
「不細工すぎるぞ長吉」
体格のいい男が、鳥に襲われている男に向かって言い放った。
「素晴らしい活躍でしたなそちらの御仁。さすがに我らも驚きました。よもや、大砲をぶっぱなすなど想像もできませなんだ」
嫌味たらしく男は手を叩いた。
「上様公認のお庭番ですかな」
「おまえたち、風魔であろう」
あかりは身を起こしながら小夜の懐にある短剣をちらりと見た。やはり風魔はどこかで高遠藩一行を見ていたのだ。
「ほお、よくご存知で。ああ、お靜の方もしのびでありましたな」
「雲才さまを殺したのは、おまえたちであろう! 山吹を殺したのも!」
それを聞いて一番驚いたのは小夜だった。
――こいつらが、山吹を――
驚きと怒りがないまぜとなった瞳は大きく開かれ、爛々と光りはじめた。
すちゃっ。
懐剣の鞘を抜いた。
だが、あかりが小夜をかばうように手を広げて前に出た。
「それをわたくしにください。わたくしがお守りいたします」
少し考えていた小夜だったが、すぐにその懐剣をあかりに渡した。
「そんなもので我らに勝てるとお思いか? お靜の方。こちらは男四人だぞ」
「もちろんじゃ。だが、これならどうじゃ」
小夜は懐から、短筒つまりピストルを出した。ゆっくりと銃身を上にはね上げ、薬きょうを充填した。
男たちは半歩後ずさった。
「大筒を扱うわたくしが、短筒を持つとは思わなんだか」
見たこともない短筒に一瞬焦った風魔たちだったが、小夜のいっとう近くにいた小矢太は火縄がどこにもないことに気付いた。
――あれでは火をつけられぬ――
つつつ。
一瞬にして迫りくる小矢太の姿に、小夜はためらいなく引き金を引いた。
パアアン!
バサバサバサ、と森にいた鳥たちが飛び立った。
信じられない顔をした小矢太は、胸を押さえたまま、どぅと倒れた。
「小矢太!」
その瞬間、その銃が火縄式でない、ということが風魔たちにもはっきり分かった。
「気をつけろ! 新しい銃だぞ」
体格のいい男はこの三人の組頭なのだろう。他のふたりに言い放った。
じりじりとにらみ合いが続く。
小夜は、あと一発しかない弾を思い、どうしようかと考えていた。輸入もののサリンジャー銃は護身用なので二発しか銃弾を装填できなかったのだ。江川邸にあった他の銃は重いか火縄式だったので自動着火式はこのサリンジャーしかなかった。