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小夜のたくらみ

 夏本番、水無月の空を見上げながら、小夜は考えていた。

 今まで幕府に逆らった事件は、どんな顛末を辿ったかを。


――島原の乱、赤穂浪士、大塩平八郎――


 どれも、失敗しているというか、最後には幕府に処刑されているが(大塩は自害)……本懐を達成したのは赤穂浪士だ。なにかヒントが落ちているかもしれない。


 紙を取り出すと、赤穂浪士について分かっていることを書き始めた。


 床一面に書付を散らかしている部屋は、女髪結い師・お種の家の二階だった。あかりと共に世話になったお種の家は、金さえ渡せば、好きなだけ気ままな生活を送ることが出来た。寝食を忘れて考え事をするには、そういった環境が必要だったのだ。


 江川邸を出た理由はもうひとつあった。自分ともう関係を持って欲しくなかったのだ。自分はこれから幕府に対して弓を弾く可能性が高い。幕府の官僚である江川に類が及ぶのは避けたかった。


天野屋利兵衛あまのやりへいは男でござる〟

 不意にこのセリフが出てきた。


 これは、赤穂浪士の芝居で有名なシーンのひとつ。天野屋利兵衛は、恩義ある赤穂藩に報いる為に、江戸の浪士の武器調達に奔走する。やがて奉行所の知れるとこになり投獄されるのだが、自分だけでなく長男までもが拷問にあい、口を割るよう迫られる。


「どこの世に、我が子の可愛くない親があるものか。されども「信義」は曲げられぬ 〝天野屋利兵衛は男でござる〟」と。


 どこまでが脚色なのかは分からないが、天野屋利兵衛がひっかかった。武器調達という部分。

 そこからは、囲碁の先手をどんどん読むような要領で、小夜は頭を働かせた。


 ふふふ。

 笑いがこみ上げてきた。自分がやることを想像すると、おかしくてたまらなかった。


 これからやることの下見のため、小夜は出かけることにした。

 玄関を出てすぐの曲がり角。小夜は突然、駆けだした。慌てたのは、小夜のずっと後ろにいたひとりの男である。急いで後を追う。曲がり角を曲がってすぐに誰かとぶつかりそうになった。


小夜であった。

「そなた、お庭番じゃな」


 不敵に微笑んでいる小夜に、その大柄の男はうろたえた。


「上様であろう。わたくしの後をずっと着けてこさせたのは」

 何も言えずにぶすっと黙りこむことしか出来ない。


「まあ、よい。そなたわたくしの言うとおり動く気はないかえ? それを上様に確かめてござれ」

「た、確かめてどうするつもりですか……」


「また、戻って来て、わたしと一緒に色々とするのじゃ」

「色々とは?」

「色々じゃ」

 艶やかに小夜は微笑んだ。





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