ブラック冒険者協会と俺の恋
「ウェイン! 元気か?」
「ようケイジ。お前は今日もふらふらして昼から酒飲んでるのか?」
失礼な奴だ。俺だって忙しくないときは昼から酒を飲むのは週に六度しかないってのに。
「流石に毎日は飲んでねえよ。今日は働こうと思っててな。この前のデカい討伐みたいな割いい仕事はねえか?」
「お前はほんとに一発屋してるなあ。そうやって危険なのばっかやってるといつか身を滅ぼすぞ」
「わかってるって。今回は特別にいいのあればくれよ」
「この前もそう言ってたろ。まあ安定して達成してくれるから文句は言えないんだが」
そうだろう。この協会で一二を争う達成割合のこのケイジ様を邪険に扱うことはできないだろうな!
そんなことを思っていると、ウェインから衝撃的な発言が飛び出した。
「そうだ、前にお前がいたブラック協会のさ、アイラっていただろ」
「ああ、あいつか。優秀なのに俺の後ろをついてきて、手出ししてくるやつな。あいつがどうした?」
「そうその子。あの子がうちに加入したから面倒見てやってくれ。面倒見てる間は手当だすからさ」
……は? あいつを俺が? 俺より優秀なのに?
なんでそんな貧乏くじを引かないといけないんだ。
アイラはそもそも俺より強く、目端が利き、誰からも人気で前職で後輩たちの中で出世頭だっただろ。このままいけば強者パーティーに入れた有望株だ。
それがなんでこんなできたばっかの私設協会に?
考え事をしていると、了承したと受け取ったのかウェインは向こうに消えていた。
「あ、おいウェイン! ちょっと待てよ! 聞こえないふりすんな!」
しょうがない。協会にちょっと顔出すか。元から仕事するつもりだったし。
*
げ、門の前にアイラがいる。
「あー! 先輩ひさしぶりっすー!」
「おっすー。……じゃなくて、お前さあ、もう先輩じゃないんだから別にほかの呼び方しろよ」
「ダメすか? あ、でもここでも先輩なんで先輩は先輩すよ」
一理ある。こういう頭の回転は言っても勝てないからあきらめるのが吉だ。
付きまとわれてもかなわない。さっさと依頼を受けて退散しよう。
「先輩なんで私を置いていくんすか。教えてくれるってウェインさんが面接で入社の条件……じゃなくて、知り合いに任せるって言ってましたよ」
「あのなあ、俺も生活がカツカツなの。お前の面倒見てるとこっちは暮らせないの」
「先輩報酬聞いてないんすか? 一日二万ゴールドっすよ」
「二万!? 嘘だろ」
アイラが差し出した報酬の紙を見る。
本当に二万だ。この優秀な奴に教えることなんかない。でも二万もらえるなら儲けもんだ。
「まあ、後輩の面倒を見るのは先輩の務めだよな」
「流石先輩! 話が早いっす! そういうとこ……好きっすよ」
どの酒を飲もうか考えてて後半は聞こえなかったが、まあ大したことない話だろう。
「じゃあ今日は何を教えればいい?」
「この協会のシステムからでお願いするっす」
アイラに報酬体系、受注の仕組み、ランク制の詳細、前回の協会と異なることを教えていった。
こいつは真面目に聞いていて、流石優等生だなと感心しきりだ。
あーあ、思い出してきた。優秀だからこっちの劣等感が刺激されてちくちくしてくる。
こいつと出会ったときのことを思い出す。
*
こいつと出会ったのは、五年前こいつが新人として入った頃だ。
珍しい剣聖スキル持ちが協会に入ったらしいと鳴り物入りで入会したこいつは違う世界の人間だと、意識から排除していた。
初めて関わったのはこいつが入会してから半年後、研修が終わって実地訓練に出ているときだった。
最初に会ったときには、目を合わせずに不明スキル持ちは雑用だからその辺の石ころと同じという強者パーティーらしい態度だった。
それがなんで今はこんなに話してるかって? そんなのは俺にはわからんが続きだ。
それは雨の日だった。
遠征中に強い雨の中、洞窟があったので雨宿りした。
荷物持ち兼、道中の露払い兼、食事係をやっていた俺は当然寝ずの番をしていた。
遠征中は休憩中の仮眠のみが癒しだったから労働環境は最悪だったな。
それは唐突に現れた。はぐれ魔獣。なわばりをもつはずの魔獣が徘徊して強くなった異常個体。強者パーティー複数で対処してやっと討伐できる。
単体で遭遇したらまず助からない。
そんなものと遭遇してしまった。
もちろん、見つけた段階で強者パーティーに報告し指示を仰いだ。
あろうことかあいつらは討伐するといい始めたんだ。これだから世間知らずは困る。
アイラも乗り気だったのをよく覚えている。
「おい、やめたほうがいい。はぐれ魔獣はそんなにヤワなもんじゃない。上級スキル持ち以上しかいないお前らと言えど……」
「黙れ! 不明スキル持ちが俺たちに反抗するな!」
「……そうかい、それはすまなかった」
ブラック協会に毒された俺はここで死ねるならいいかと、そう思いながら準備を始めた。
*
戦闘は一瞬だった。
そう、強者パーティーは一瞬で壊滅した。
アイラと俺を残し、魔獣はすべてを蹂躙したのだ。
アイラは動けなくなっていた。
「アイラ! 動け。俺の後ろに回れ」
死んでもいい、と思っていたはずなのに震えるこいつを見て沸き立つ自分に驚いた。
スキルを使って攻撃をいなす。俺のスキルは空間を固定するというもの。料理や荷物運びに優秀と扱われていたのはこのためだ。
このスキルの便利な点はもう一つある。空間を固定した際、その強度はあり得ないほど高い。
固定した空間が小さければ小さいほど、空間の強度は上がる。
いなしながら後退をつづけ、アイラが正気を取り戻すのを待つ。
こいつ、左の首をかばう動きをしているな。強者パーティーがつけた傷か?
「アイラ、俺がいなしている。だから、お前はあいつの左に回って斬れるか? 首に傷がありそうだ」
「無理っすよ! 先輩方が一瞬で死んだの見てないんすか? 私ができるわけ」
「黙れ! やれ! お前しかできない」
アイラはビクッと反応し、剣を抜く。自信がなさそうだ。
「正直お前の技量がわからないからできるとは言えないが、俺もいつまでもは持たない。お前が決めなきゃ俺も死ぬ。お前も死ぬ。死にたいならそのまま震えてろ」
アイラは肩の力が抜けたようで、剣を握りなおした。
「なんすかその言い方。帰ったらパワハラで報告しますよ」
「おう、帰れたら報告しろ。こんな協会やめてやる」
俺はいなしながら緊張をほぐせたことに安堵した。これで、あいつも力を発揮できるだろう。
右からくる。威力高。極小範囲で止める。
アイラの左から。威力中。中程度範囲で止める。
分析。地味なスキルだが慣れてくると敵が何をしたいのかだったり、ニンジンが煮えているかが手に取るようにわかる。
ちなみに酒を飲むと感覚が鈍ってくれて、頭が楽になる。
長い攻防が続き、アイラは気配を殺して俺の左前方で待機している。
俺の左斜め前方。右手で来る。威力極高。これは止められない。
後ろに飛びのくしかないが、後ろに飛ぶと左手のテレフォンパンチが来そうだ。
だが、これを待っていた。
「アイラ! 斬れ! お前ならできる!」
「はああああああああああ!」
アイラの気迫のこもった一撃が入る。
魔獣は半ばまで突き刺さった剣を引き抜き、血を噴出した。
「やったか?」
「先輩、それだけは言っちゃだめっす」
こいつ、こんな口調だったか? まあいい、魔獣は倒れた。
強者パーティーの遺品を持ち帰るとしよう。
*
帰ったらそれはそれで地獄だった。
なぜ、荷物持ちと新人だけ生き残ったのか。荷物持ちが奇襲したのではないか、と尋問された。
結局、剣聖スキル持ちのアイラが一人で片づけたということに落ち着き、俺は解放された。
アイラはどうやら自分の手柄だけではないと反抗したようだが、謙遜して新人の鑑だといった扱いを受けたようだ。
また、強者パーティーの面々がつけた傷が元手となり勝利できたという嘘ではないストーリーが喧伝された。
「おい、元気か」
「あ、先輩……元気っす……」
「元気な奴がそんな顔するかよ。よかったじゃねえか、出世コースだ」
「でも、先輩が……」
こいつはどうやら俺に負い目があるようだ。だが、実はそんなの関係ない。
「俺さ、そもそも上司にキレてエールぶっかけて干されてるんだよ」
「え?」
「だから別に今回の手柄がもし半分俺のものになったとしても、待遇は変わらねえんだ」
「ふふ、なんすかそれ」
こいつ、笑いやがって……俺は真剣に話しているというのに。
「じゃあ、先輩が困ったときには私が絶対助けますよ」
「期待しとく」
その二年後、俺は協会をやめた。
*
といったことがあった。
上級、中級、下級、分類不明スキルと分類されているなかで、最も使えない分類とされている分類不明スキル持ちの俺は、こいつには敵わない。
上級持ちのこいつと、不明スキル持ちの俺。
誰が見たって序列は明らかだ。
そもそもなんでこいつは協会を抜けたんだ。
協会にいるときもことあるごとに俺を荷物持ちに指定して、上司に使えるやつだと進言してくれていたのは知ってる。
それで恩は返してもらったつもりだ。
「アイラ、今ならまだ前の協会に戻れるんじゃないか?」
「なんでそんなこと言うんすか」
アイラは捨てられた子犬みたいな顔をしている。なんでだ。
「なんでも何も、そもそも俺とお前じゃいるべき世界が違うだろ。スターのお前と一般人Aの俺じゃステージが違うんだ」
「魔獣と戦ったときから、先輩は私のスターっすよ」
なん……で……、そういうことを言うんだ。
こいつが俺を慕ってくれているのはわかってた。好意も多少あるのは知ってた。でも、俺が居ちゃお前が出世できないだろ。
なんでこいつは俺が欲しかったものを捨ててまで俺についてくるんだ。
「先輩、思ってたことが顔に出てますよ。なんでついてくるんだ、って思ってるっすね」
「お前な、俺だってほんとは強者パーティーに入りたかったんだよ」
「うん」
「夢を、託したつもりだったんだよ」
「そうっすね」
「じゃあわかってるならなんで協会やめてるんだよ!」
「先輩が、好きだから」
声が出ない。
言葉を口の中で紡ぐが、全部違う。
なんて答えていいかわからない。
「ちょ、ちょっと考えさせて」
「先輩、女の子みたいなこと言うっすね」
むかついた。
「おう、じゃあ言ってやる! 俺もお前が好きだ! 付き合ってくれ!」
「はい、先輩」
付き合うことになった。
*
付き合うことになっても依頼は依頼だ。
協会のことを教えたので、協会に戻り結果報告をする。
ウェインがニヤニヤした顔で突っついてくる。
「で、アイラちゃんとは付き合うことになったんだな?」
「うっせえ、あのこと、お前の彼女にぶちまけるぞ」
「おっと、この話はここまでにしよう」
こいつは、彼女に内緒で女の子がいっぱいいるバーに行って朝帰りをした。
俺に泣きついてきて、俺が朝まで一緒に飲んだことになっている。
「それはそうとだ、協会からの依頼だったけど、付き合ったなら恋人に教えたってことで無料にしない?」
こいつ! ふざけたことを言いやがる!
「冗談だ、今日の分は払うよ。でも明日からはそれはデートだから無しな!」
しぶしぶ了承して二万を受け取る。
ああ、俺の毎日二万ドリームが……。
ウェインがムカつく顔でニヤニヤしているのでマジで殴ってやろうかと思うと、アイラが横から俺の袖を引いてくる。
「先輩、明日からもよろしくっす」
「ああ、よろしく」
長編3作目登場キャラクターを考えるうちに書いた短編です。
いずれこの人の出る物語を書くかもしれません。




